今回は第29巻「魔術師」をご紹介します。昭和45年10月の刊行です。
原作は講談社の雑誌「講談倶楽部」に昭和5年から連載された同題の「魔術師」です。
「講談倶楽部」は「キング」と並ぶ講談社の看板雑誌で、「蜘蛛男」に引き続いて連載されたものです。
本書のリライト担当は氷川瓏ですが、本書の中には明記はありません。初出は、昭和32年「名探偵明智小五郎文庫1」としてポプラ社から刊行されています。
表紙絵は柳瀬茂、挿絵は山内秀一が担当しています。いずれも昭和42年に刊行された「名探偵シリーズ」版からの流用です。
原作は、のちの明智夫人となる文代さんの初登場作ということで、ファンにとっても重要な作品です。本書でも、そのあたりはきっちりと描かれています。原作は、その後「吸血鬼」事件につながることを記しつつ幕を閉じますが、本書は「べつの物語に」という表現で、ぼかされています。
大きな違いとしては、原作で妙子の兄として登場した二郎青年が、探偵好きな弟の二郎少年となっています。話の展開上、それで全く問題はありません。また、波越警部が中村警部となっていますが、乱歩作品において両警部の使い分けには明確な意図が感じられないため、これまたノープロブレム(横溝正史の場合だと、磯川警部と等々力警部とは全く別人なので、磯川警部登場作がドラマ化されて等々力警部になっていたりすると、それだけでイライラしますが)。
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