備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

金田一耕助

横溝正史原作映画・ドラマのDVD (その2) その他の映画編

横溝正史原作小説映像化作品のDVD化状況をまとめてみたいと思います。リンク先は全てAmazon販売ページです。
特に解説はなく、リファレンス用リストです。漏れなどは気づき次第、修正をかけていきます。
2回目は金田一耕助が登場しない「映画」について。
これはさすがにあまりDVDにはなっていません。

中川信夫監督「人形佐七捕物帖 妖艶六死美人」1956年 新東宝
若山富三郎・主演

人形佐七の映画は、実は金田一映画に匹敵する本数が製作されています。なんせ戦前にもすでに「羽子板の謎」なる映画が製作されているようで、これはフィルムは残っているんでしょうか。
戦後には若山富三郎(のちの磯川警部)が佐七を演じたシリーズが量産されています。
しかし、DVDになっているのはこの一本だけ。若山版の第一作です。監督は怪談映画の巨匠として名高い中川信夫。金田一映画「吸血蛾」も撮っていて、金田一耕助と人形佐七の両方を撮影している唯一の監督といえます。

沢島忠監督「お役者文七捕物暦 蜘蛛の巣屋敷」1959年 東映
中村錦之助・主演

脚本の比佐芳武はいわずと知れた、千恵蔵版金田一シリーズの脚本家。多羅尾伴内シリーズも書いていたミステリ通です。
原作は角川文庫未収録。ちょっと前に徳間文庫で復刊していました。


高林陽一監督「蔵の中」1981年 角川春樹事務所
蔵の中 [DVD]
角川エンタテインメント
2008-03-28

「悪霊島」と同時に公開された一作です。劇場によっては併映されたようです。高林陽一はATG「本陣殺人事件」も監督。ヒロインはニューハーフの松原留美子が演じ「妖艶な美しさ」と評判だったようですが……うーん、筆者にはオッサンにしか見えませんでした。きっと私の目がおかしいんでしょう。
脚本は桂千穂。ここ最近、ミステリ映画の筋金入りマニアとしてガイド本をたくさん出しています。

というわけで、非-金田一映画でDVDになっているものはわずか3作しかなく、しかもうち2作は捕物帖というわけなのですが、ミステリファンの最大の関心はやはり「蝶々失踪事件」でしょう。
実はこれ、VHSでは発売されていました。

久松静児監督「蝶々失踪事件」1947年 大映
岡譲司・主演
岡譲二
大映
1996-11-08

大映はかつて、かなりマニアックなタイトルまで網羅したビデオのシリーズを出していて、「蝶々殺人事件」や前回の記事で紹介した「毒蛇島奇談 女王蜂」なんかも収録していました。
どちらもビデオ屋で何度か手に取ったことはあるのですが、なぜか買わずに済ませてしまっていました。やっぱり買っておけばよかったなあ、と思わないでもない。
同じシリーズで出ていた乱歩の「蜘蛛男」や「黒蜥蜴」(美輪明宏じゃない方)なんかはその後DVD化されているので、横溝映画のこの2作もいつかはDVDになるんじゃないかとずっと待っているのですが……KADOKAWAさん、頼みますよッ!
「恐怖奇形人間」だってDVDが発売される時代だから、いつか奇跡は起こるはず!

関連記事:
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ミステリ映画ファン感涙「石上三登志スクラップブック 日本映画ミステリ劇場」
金田一耕助映画のサウンドトラック

江戸川乱歩原作映画のDVD

横溝正史原作映画・ドラマのDVD (その1) 金田一耕助映画編

横溝正史原作小説映像化作品のDVD化状況をまとめてみたいと思います。リンク先は全てAmazon販売ページです。
特に解説はなく、リファレンス用リストです。漏れなどは気づき次第、修正をかけていきます。
1回目は金田一耕助が登場する「映画」について。ドラマは後日改めます。

小田基義監督「幽霊男」1954年 東宝
河津清三郎・主演
幽霊男 [DVD]
東宝
2006-11-23


中川信夫監督「吸血蛾」1956年 東宝
池部良・主演
吸血蛾 [DVD]
東宝
2006-11-23


高林陽一監督「本陣殺人事件」1975年 ATG
中尾彬・主演
本陣殺人事件 ≪HDニューマスター版≫ [Blu-ray]
キングレコード
2016-12-14


市川崑監督「犬神家の一族」1976年 角川春樹事務所
石坂浩二・主演
犬神家の一族 ブルーレイ [Blu-ray]
角川書店
2012-09-28


市川崑監督「悪魔の手毬唄」1977年 東宝
石坂浩二・主演
悪魔の手毬唄[東宝DVD名作セレクション]
東宝
2015-02-18


野村芳太郎監督「八つ墓村」1977年 松竹
渥美清・主演
あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 八つ墓村 [Blu-ray]
松竹
2014-10-03


市川崑監督「獄門島」1978年 東宝
石坂浩二・主演
獄門島[東宝DVD名作セレクション]
東宝
2015-02-18


市川崑監督「女王蜂」1978年 東宝
石坂浩二・主演
女王蜂[東宝DVD名作セレクション]
東宝
2015-02-18


斉藤光正監督「悪魔が来りて笛を吹く」1979年 東映
西田敏行・主演
悪魔が来りて笛を吹く【DVD】
東映ビデオ
2012-03-21


市川崑監督「病院坂の首縊りの家」1979年 東宝
石坂浩二・主演


大林宣彦監督「金田一耕助の冒険」1979年 角川春樹事務所
古谷一行・主演
金田一耕助の冒険 [DVD]
角川書店
2001-10-25


篠田正浩監督「悪霊島」1981年 角川春樹事務所
鹿賀丈史・主演
悪霊島 [DVD]
ポニーキャニオン
2005-03-02


市川崑監督「八つ墓村」1996年 東宝
豊川悦司・主演
八つ墓村 [DVD]
フジテレビジョン
2004-07-14


市川崑監督「犬神家の一族」2006年 東宝
石坂浩二・主演
犬神家の一族 通常版 [DVD]
角川エンタテインメント
2007-07-06


※未DVD化作品
三本指の男 1947年 東横映画
獄門島 1949年 東映
獄門島 解明篇 1949年 東映
八ツ墓村 1951年 東映
悪魔が来りて笛を吹く 1954年 東映
犬神家の謎 悪魔は踊る 1954年 東映
三つ首塔 1956年 東映
(以上、松田定次・監督、片岡千恵蔵・主演)

毒蛇島綺談 女王蜂 1952年 大映
田中重雄・監督 岡譲司・主演
(DVDにはなっていませんが、かつてVHSは発売されました)

悪魔の手毬唄 1961年 東映
渡辺邦男・監督 高倉健・主演



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金田一耕助はなぜ和服姿なのか?

201707真説金田一耕助103

金田一耕助といえばヨレヨレの着物に袴、お釜帽というのが定番スタイルです。
小説はもちろん、映画やドラマも、常に和服姿で登場します。
ところが、かつて白黒映画の時代には洋装の金田一耕助が活躍していました。
ここにはどんな意味があるのでしょうか?

金田一耕助の服装については、横溝正史本人がエッセイ「真説金田一耕助」のなかで語っています。
それによれば、金田一耕助が初登場した「本陣殺人事件」の時代設定は昭和12年であり、当時はまだ洋装が一般化していませんでした。かくいう横溝正史自身も、昭和初期は博文館に務めて雑誌「新青年」の編集に携わっていましたが、和服に袴で出勤していたのだそうです。
つまり、金田一耕助のスタイルは奇をてらったものではなく、当時の日本人として標準的服装ということです。

これはリアルタイムの読者にとっても同じような認識だったと思われます。
その証拠が冒頭にも書いた、白黒映画に登場する洋装の金田一耕助です。

金田一耕助が初めてスクリーンに登場したのは東横映画(のちの東映)が製作した「三本指の男」ですが、これは昭和22年に公開された映画で、原作の発表直後でした。
この時、金田一を演じた片岡千恵蔵はスーツ姿で登場しました。
いったいなぜ着物に袴でなかったのかといえば、要するにこの頃の読者はだれも、金田一耕助の服装なんぞ気にしていなかったということになります。
片岡千恵蔵は戦前から活躍する時代劇の大スターでしたが、戦後しばらくはGHQの指導で時代劇を製作することができなくなり、大映で現代劇の多羅尾伴内シリーズをヒットさせていました。そしてそれと並ぶ当たり役として東横では金田一耕助シリーズに出ていたのです。
ミステリ映画であると当時に片岡千恵蔵のスター映画でもあったため、金田一を原作どおりの冴えないオッサンにしようなどという発想はなく、バリッとしたスーツを着こなすかっこいい名探偵として描かれたわけです。
片岡千恵蔵が作り出した金田一耕助像は強烈であり、その後の映像化ではこのイメージが踏襲されていくことになりました。

要するに白黒映画が製作されていた頃の横溝正史は、古典ではなくリアルタイムのエンタメであり、原作に描かれた名探偵の服装には、誰も注目していなかったことが伺われます。

洋装のかっこいい金田一耕助が続いたのち、しばらくは横溝正史にとって冬の時代が続きます。そして14年のブランクを挟み、昭和50年に画期的な金田一耕助がスクリーンに登場します。「本陣殺人事件」の中尾彬です。
映画の時代設定は(撮影当時の)現代とされ、中尾彬はヨレヨレのシャツにジーパン姿の若者として登場します。
それまでの定番だったかっこよさもなければ、原作どおりの和服でもない。いったいどこが画期的なのか?
実はこれ、時代をスライドさせれば原作に完璧に忠実な金田一耕助なのです。
つまり、冴えない日本人の標準的服装というわけです。
とはいえ、原作では戦前の設定を、昭和50年代に置き換えてしまうのはいかがなものか。
これも、裏を返せば原作をまだ「古典」ではなく「同時代の小説」と捉えていたものと思われます。
横溝正史が「本陣殺人事件」を発表したのは昭和21年ですが、昭和50年から見れば、わずか・・・29年前の作品です。
例えば平成29年の今年、綾辻行人のデビューから30周年ということで騒がれています。では、いま「十角館の殺人」を映像化するとして、時代設定をあえて昭和62年に持っていったりするでしょうか? ふつうに平成を舞台に事件を起こすはずです。
「本陣」の映画化はATG製作ということで低予算の制約もあったものと思われますが、制作陣としてはどうしても原作の年代にあわせなければいけないという感覚は無かったのでしょう。
さらにいえば、昭和52年に公開された松竹「八つ墓村」も、公開こそ遅れましたが、企画自体は「犬神家の一族」より以前からスタートしたものでした。「八つ墓村」でも原作は同時代の作品と解釈され、舞台は現代になっており、冒頭には空港でジャンボジェット機を誘導する仕事に従事する寺田辰弥が登場しています。そして、このときに金田一耕助を演じた渥美清も、和服ではなく、寅さんそのままの冴えない雰囲気のオッサンを演じました。
つまり、映画「犬神家の一族」が登場するまでは、横溝正史作品は同時代のものだったのです。

さて、和服に袴の金田一耕助が初めて映像に登場したのが、その「犬神家の一族」(昭和51年・角川映画)でした。
ここにおいて初めて、横溝正史作品は細部にまで敬意を払うべき古典作品として映像化されたと言えます。
わずか・・・30年、されど30年。
原作発表当時から高度経済成長を経て大きく変化した日本社会に、ようやく制作陣も思いが至りました。角川春樹は、国鉄が昭和45年から始めていた「ディスカバー・ジャパン」というキャンペーンからの影響も語っていますが、同時代のミステリではなく、古き日本の風俗を取り入れた古典、という認識で横溝作品が読まれるようになったわけです。
そうなると当然、金田一耕助の和服姿も重視されるようになります。
こうして、「犬神家の一族」以降、映像に登場する金田一耕助は一部の例外を除いて常に和服を着るようになったわけです。

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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