(記事のタイトルは「百年の孤独」をもじった岡野宏文・豊崎由美共著「百年の誤読」をさらにもじったつもりです。わかりづらいですが。)
今回は何の役にも立たない与太話なので、お忙しい方はご注意ください。
ブログをスタートして半年以上が過ぎ、150以上の記事を書いてきましたが、もしかすると「このブログを書いているのは大層な読書家だ」と勘違いされている方もいらっしゃるかもしれません。
全くそんなことはありません。
世間の平均以上には本を読んでいると思いますが、ブログ記事の7割は知ったかぶり、自宅蔵書の9割は積ん読という有り様で、本来はえらそうに本の話なんぞ書ける立場ではないのです。すみません。
というわけで、世の本好きの多くにとって他人事ではないにもかかわらず、他人の話となると誠に興味がなくなる「積ん読」の話です。
「買ってきたものの最後まで読まずに放置した」という最初の本は、これははっきり覚えていますが、小学2年生の時に買ったポプラ社文庫(児童向け)の夏目漱石「吾輩は猫である」です。
この直前、母親が持っていた灰谷健次郎「兎の眼」を読んでいました。
「兎の眼」は理論社から刊行されていた児童向け小説、今で言うとヤングアダルトのような分類になると思いますが、ともかくそれほど難しい本ではありません。
しかし、それまで絵本に毛の生えたような本しか読んでおらず、なおかつ親の蔵書に手を出したということで「大人向けの本を読破した!」と思い込んだ筆者は、「大人向け小説」を次々と制覇する野望を抱きました。
「吾輩は猫である。名前はまだない。」
という書き出しを何かで目にしていたため、「これほど面白い文章なら、きっと楽しく読めるだろう」と、次なるターゲットを夏目漱石に定めました。
当時のポプラ社文庫は、児童向けではあるのですが、近代文学を多数収録していました。
かな遣いは易しく直してありましたが、内容は全くそのままです。
これを親にねだって買ってもらい、さっそく読み始めました。
今にして思えば、けっこう頑張ったと思います。2~3ヶ月は少しづつ読み進めていた記憶がありますが、とうとう力尽きました。
「買ってもらった本を最後まで読まなかった。もったいないことをした」
という衝撃は割りと大きく、この記憶はずっと残っています。これがトラウマとなって(?)、未だに「吾輩は猫である」は読んでいません。
というわけで、筆者の最初の積ん読は35年前にさかのぼります。
では、買ってから読了までに最も長い歳月を要したのは何か?
これもはっきりしていて、つい先日読了した「赤毛のレドメイン家」(創元推理文庫)です。
小学6年生のとき、初めて買った創元推理文庫、初めて買った海外ミステリが本書でした。
「初めて買った海外ミステリ」ということは、ホームズよりも先にこれを買ってきたわけです。
なぜ小学生がそんな無茶をしたのかといえば、これは、江戸川乱歩「緑衣の鬼」の元ネタだと知ったためです。
乱歩については、小学5年生から図書室で少年探偵団シリーズを読み始め、6年生のときには大人向けを含めた全小説作品を読破していました(積ん読率0!)。
そんなころ、小学校の図書室に貼られた壁新聞を見て、釘付けになりました。
全面で、乱歩の特集をしていたのです。
この壁新聞は、おそらくは全国の小学校へ配布されていたものと思われますが、どこが発行した何というタイトルのものかは覚えていません。こちらの「としょかん通信」かな、という気もしますが、もはや調べる手段がありません。(名張市立図書館「乱歩文献データブック」にも記載ナシ)
筆者が目にした特集は、ポプラ社版「少年探偵・江戸川乱歩全集」の紹介が中心でしたが、紙面の隅に興味深いコラムがありました。
乱歩作品のうち「幽鬼の塔」「緑衣の鬼」「時計塔の秘密」「三角館の恐怖」には元ネタがある、ということでそれぞれ「サン・フォリアン寺院の首吊人」「赤毛のレドメイン家」「幽霊塔」「エンジェル家の殺人」が紹介されていたのです。
小学生相手に、えらくマニアックなことが書いてあるものですが、筆者は初耳の情報に大喜びし、いそいそとメモをとって帰ってきました。
本屋へ行って調べると、この時点で容易に入手できたのは「赤毛のレドメイン家」と「エンジェル家の殺人」のみでしたが(「エンジェル家」は創元推理文庫の新刊で出たばかり)、まずは有名な「赤毛のレドメイン家」を買ってきたというわけです。
奥付は「1987年11月27日 31版」。購入はこの日付の直後と思います。
しかし、これは全っ然、頑張ることなく、少し眺めただけですぐさま放置決定でした。
爾来30年、「死ぬまでには読もう」リストには載っていましたが、手にとることなく時は過ぎていきました。
今年になって急に読んだのはワケがあります。
それはこのブログです。
乱歩ネタは知っている限りのことを全部書いてみようと目論み、じょじょにそれを進めているところなのですが、
・「灰色の女」から乱歩版「幽霊塔」への伝言ゲーム
・「幽鬼の塔」「サン・フォリアン寺院の首吊人」読み比べ
という2つの記事に並べて、「赤毛のレドメイン家」と「緑衣の鬼」との比較記事を書こうと思ったのです。
そのために、「緑衣の鬼」を再読し(この記事のためでもありますが)、続けて30年前に買った「赤毛のレドメイン家」をようやく読了したというわけです。
読んでみると、「緑衣の鬼」へ改変は割りと複雑で、相違点をまとめるのはなかなか骨が折れるうえ、特に何か面白い話が出てくるわけでもなさそうだったため、記事にするのはいったん見送っていますが、ともかく30年来の課題であった「赤毛のレドメイン家」を読了できたのは喜びでした。
ちなみに、上記の「灰色の女」、涙香版「幽霊塔」、「サン・フォリアン寺院の首吊人」も、ブログを書くために、今年になった初めて読んだものであることをここに告白しておきます。
「灰色の女」は邦訳が出てすぐ買ったので約10年、「幽霊塔」は何冊か持っていますが、最初に入手したのは高校生のとき、「別冊幻影城」版なので、25年くらい。「サン・フォリアン寺院」は大学生のとき、旅先の古本屋で購入したので20年以上、それぞれ寝かせていました。
結論としては、「死ぬまでに読もう」という意思さえあれば、積ん読もムダではない、ということです。
と言いつつ、「三角館の恐怖⇔エンジェル家の殺人」そして「白髪鬼⇔涙香版・白髪鬼⇔ヴェンデッタ」の比較記事がないのは、それぞれの原作を積ん読中のため。
「エンジェル家」はさっさと読まないと、「赤毛のレドメイン家」の積ん読期間を越えてしまうな。
涙香版「白髪鬼」は戦前に刊行された春陽文庫版しか持っていないため、通勤中に読もうと思うと本がバラバラになってしまいそうで、読むのがなかなか困難な状況です。いつになったら読む気になれるかよくわかりません。「ヴェンデッタ」は東京創元社・世界大ロマン版(平井呈一訳)を持っていて、これはその気になればいつでも読めるのですが。
いつか、この辺の紹介記事がしれっと現れた際には「お、とうとう読んだか」と思っていただければ幸いです。