新刊書店で手に入らない本のことをよく「絶版本」と言います。
一方、書店で取り寄せを依頼した際、手配できない本については、「出版社品切れ」という説明をされ、「絶版」という言葉はめったに聞きません。
「絶版」とは、いったいどういう状態をさすのでしょうか?

一般的に「絶版」とは、出版元に在庫がなく、書店で取り寄せることができない本のことだと思われています。
しかし、これは正確ではありません。
むろん「絶版」の本も取り寄せはできませんが、ほとんどの本は「絶版」ではなく「出版社品切れ・重版未定」とか「長期品切れ」と呼ばれる状態なのです。
どう違うのか?

「出版社品切れ・重版未定」とは、文字通り、現時点で出版社に在庫がなく、重版未定、つまり書籍の追加印刷をする予定がない、ということです。なかなか売れない本なので、重版しても採算が取れない、という状態は「絶版」とは呼ばず、単なる「品切れ・重版未定」です

対して「絶版」は、重版予定がないというレベルではなく、「今後重版は一切しません」と出版社が表明した場合のみ、使われる言葉です。
「絶版」は出版契約、出版権が終了したことを意味します。出版社ごとに対応は異なりますが、たいていは著者にも絶版になった旨の通知がされます(単なる品切れではそこまでしません)。
また、取次(本の問屋)にも絶版となったことが通知され、取次はその本の取り扱いを終了し、場合によってはデータベースからも削除されます。
さらに、書店で流通している在庫は、ふつうは出版社へ返品ができるのですが、一部の出版社は絶版とした本については書店からの返品を受け付けなくなります。
ということで「絶版」になると、新刊書店の流通現場からは、完全にその本の存在が無かったことになってしまうのです。

出版社によっては、定期的に自社の取扱商品を見直し、絶版とする書籍を決めていますが、ほとんどの出版社はそこまで面倒なことはせず「品切れ・重版未定」という曖昧な状態にしているわけです。

ただし、出版社によっては「重版未定」という言葉を厳密な意味で使用していたりします。
有名なところでは、岩波文庫は基本的に「絶版」はありません。書店店頭に並んでいない本は単に「重版未定」なのです。定期的に「重版再開」とか「リクエスト復刊」などといってフェアを実施していますが、そういったときに奥付を眺めてみると、戦前に発行された書籍が、今回のフェアで「二刷」となっているようなこともあり、驚きます。岩波文庫は本当に絶版にしないのです。絶版になっているのは、新訳が出た際の旧版くらいではないでしょうか。
また、角川文庫も、海外の古典文学が映画やドラマになったりすると新刊本と一緒に積まれたりしますが、たいていは新訳ではなく、何十年ぶりの重版だったりします。「角川文庫はすぐに絶版してしまう」などとよく言われますが、厳密にいえば品切れが多いだけで、あまり絶版にはしていないのです。

一方、新潮文庫は定期的に絶版とする本を決めているようです。文芸出版の老舗だけに、著者との関係もあるのか、その辺はきちんとしています。
以前に「新潮文庫の絶版100冊」というCD-ROMが出たことがありますが、他社の文庫ではそのようなタイトルで商品を出すことはまずないでしょう。
したがって、新潮文庫では何十年ぶりの重版ということはほとんどありません。かつて出していた本を改めて出す場合も「改版」「新版」、あるいは翻訳であれば新訳という形になります。

ということで、書籍の流通現場では「絶版」と「品切れ」とは区別して使用されていますが、とはいえ、読者にとってはどちらも古本屋でしか買えない本、図書館で借りるしかない本、ということでたいした違いはありません。
当ブログでも世間の基準にあわせて「絶版」という言葉を気軽に使っていますが、厳密に絶版かどうかを確認した上で言っているわけでないことは、ご承知おきください。

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