備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

筋肉少女帯

掟ポルシェまさかの自叙伝「男の!ヤバすぎバイト列伝」(リットーミュージック)

201801掟ポルシェ172

2週間も前に出ていた本、全然気づいていませんでした。ニューウェイブバンド「ロマンポルシェ。」のボーカルおよび説教担当・掟ポルシェの新刊です。
掟さんのTwitterフォローしてるのに気づかなかったなんて!

と言っても日頃、 当ブログへアクセスされている主にミステリ好き、映画好きと思われる方でロマンポルシェ。に興味のある方はあまり多くないと思いますので、唐突に新刊紹介を始める前に個人的な思い出を語りたいと思います。

そもそもこのバンドを知ったのは大槻ケンヂ経由です。
筆者はもともとそれほど音楽には興味はなく、筋肉少女帯好きになったのも小説家・エッセイストとしての大槻ケンヂにまずハマり、その後でCDも聴くようになったという流れです。オーケンについては同じような方は多いと思います。
要するにバンドの名前はあまり知らないので、ロマンポルシェ。のことも、ある日突然の出会いまで全く知りませんでした。

10年以上前のことになりますが、7年間ほど東京で仕事をしていたことがあります。
前回の記事に書いた「おたく時代」はこの時期なのですが、この頃は大槻ケンヂのライブやトークイベントにも足繁く通っていました(筋肉少女帯の活動凍結期なので、トークはソロで、ライブは「特撮」)。
そんなある日の「特撮」のライブに、対バンとしてロマンポルシェ。が登場したのです。
その日は、やはりオーケン好きの職場の後輩2人(どちらも女性)と一緒にライブ会場へ行っていたわけですが、「ロマンポルシェ。なんて聞いたことないなあ」と言いながら出てくるのを待っていると、突然、全裸で長髪の男が堂々と舞台へ出てきました。一糸まとわぬ真っ裸です。
これは場所がいくら新宿ロフトとはいえ、仰天の出来事でしたね。同行した後輩2人もドン引きです。
しかし、この全裸男のトークが最高に面白い。正直、オーケンよりもさらに面白い。内容はとにかくくだらないのですが、言葉の選択にフリチンとは思えない知性を感じさせ「これはただならない」と、パフォーマンスが終わる頃にはもう「明日CDさがそ」と決断していました。
そのとき、舞台上で「今度、本を出します。大槻さんも出てくるから、みんな買わないといけないんじゃないかな」と、「特撮」ファンがほとんどを占める客席へアピールしていたのが、この本です。

男道コーチ屋稼業
掟 ポルシェ
マガジンファイブ
2004-07-01


「オーケンが出てくるなら、そりゃ買わなくちゃ」と思ったのと、掟ポルシェへのただならぬ興味、さらには帯まで大槻ケンヂが書いているじゃありませんか、ということでこの本は出てすぐに買ったのですが、中を読んでまたまたビックリ。
内容は雑誌「BUBKA」に連載した下品でくだらないコラムをまとめたものなのですが、冒頭のネタが「山手線の改札を全裸で通過する」というもの。新宿ロフト以上に難易度が高いチャレンジですが、堂々とクリアしている模様が写真つきでレポートされています。
こんな出オチ以下のバカな内容なのに、文章力は異常に高い。名言の嵐です。
「掻いて掻いて恥掻いて、裸になったら見えてきた本当の自分」
「改札という名の常識を堂々と肩で風切りスルーしていく」
一番、馬鹿馬鹿しいのは「広末涼子セックス中毒」という見出しの踊る東スポに興奮した一編。
「頼めば今なら俺にもヤラせてくれるんじゃねぇか? そう思った途端、掟ポルシェの股間に生えているミンキー・ステッキはピピルマピピルマプリリンパと魔法にかかったように屹立していた。なんせ相手はセックス無しには生きていけないという緊急指令ナイトレンジャーな状態。起っているモノなら親でも使ってしまうんじゃねぇかというほど困っているはず」
ほんと、こんなどうでもよいネタで、ここまで練りに練った文章を書けるのは天才の仕事です。
大槻ケンヂが登場するネタは、サブカル長者・オーケンが購入したポルシェ(自動車)に掟ポルシェが同乗したという話。
オチの一句も素晴らしい。
「ポルシェがポルシェに乗ったから、今日はサブカル記念日」

当然、CDも全部買って聞きましたが、楽曲と説教とが交互に現れるという独特な構成。歌も説教も最高!
そんな感じで盛り上がっていたタイミングで、ついに出ました。新作アルバム「おうちが火事だよ!ロマンポルシェ。」です。

おうちが火事だよ!ロマンポルシェ。
ロマンポルシェ。
ミュージックマインID
2004-09-22


これはロマンポルシェ。の魅力が最大限に詰まった最高傑作だと思います。
いつの間にやら、新宿ロフトでドン引きしていた後輩もロマンポルシェ。の熱狂的なファンになっており、顔を合わせるたびに「ロマンポルシェ。最高!」「掟ポルシェ天才!」と、その話しかしていませんでした。

というわけで、次にロマンポルシェ。のライブがあったら必ず駆けつけねば、と心に固く誓っていたわけなのですが、とうとうその日が来ました。
これは絶対に見逃すわけにはいかない。しかし、この空前のロマンポルシェ。ブームの中、無事にチケットを買えるんだろうか?
問い合わせると、チケットは2週間前から販売するとのこと。そこで、その日は仕事を終えると息せき切って新宿へ駆けつけました。
階段を降りてチケット売場へ駆け込み「11月20日のロマンポルシェ。」と告げる。
すると、受付のお姉さんは「ロマンポルシェ。?」と首を傾げ、しばらくカレンダーを眺めると、「ああ。」とうなずきながら、チケットを出してくれました。
その番号はなんと「1番」。
なんだよ! 盛り上がってるのは俺だけかよ!

201801掟ポルシェ173

ともかく、ライブには無事参加でき、堪能してきたのですが(集客もそこそこあった)、さらに驚いたのはライブ終了後。
出口のところで「会場空けないといけないんで、急いでくださーい」とにこやかに客を送り出している人がいて、これがよく見たらなんと掟ポルシェの相方、ロマン優光。ついさっきまでステージ上に、精神を病んだ野獣のような迫力で、ふてぶてしくうずくまっていたというのに、この気さくな雰囲気は何なのだ。握手を求めるとにこやかに応じてくださいました。
さらに、その横に「やあやあ。今日は来てくれて本当にありがとう」という感じで、ニコニコ笑っている紳士が立っていて、これが掟ポルシェ。ついさっきまでパンツ一丁になってタバスコを一気飲みしていた人とはとても思えない、常識人ぶり。
本当にこの人たちは「プロ」だな、とますますファンになったわけです。

ロマンポルシェ。にこれほどの才能があるにもかかわらず、マイナーな存在であり続けるのは、やはりパフォーマンスが江頭2:50の比じゃない放送禁止ぶりで、テレビに出られないからでしょう。
いや、一時期、掟ポルシェはテレビに出ていました。なんとかいうバラエティ番組の「男は橋を使わない」というミニコーナーに登場し、橋を使わずに東海道五十三次を旅するという企画に挑んでいましたが、テレビ的にわかりやすくまとめられたパフォーマンスは魅力半減。さらに、格下の芸人(筆者のランキングでは)にいじられる掟ポルシェは、見ているのがつらかった。
掟さんをいじっていいのは、オーケンと杉作J太郎さんだけだ!
このテレビを見て「掟ポルシェ=一発屋芸人」というイメージを持っている人がもしいたりしたら、ホンマに許さん。

というわけで、13年半ぶりの新刊を前についつい過ぎ去った日を懐かしんでしまいましたが、本書の著者紹介を見たら、実は2010年にも一冊、本を出していたんですね。自主レーベルから出して、販路はタコシェか通販、というサブカル本お決まりのパターンだったようで、まったく知りませんでした。東京にいないとこの辺の情報に本当に疎くなってしまうんですよね。
というわけで、ちゃんとしたファンには7年ぶり、筆者的には13年半ぶりの新刊が本書「男の!ヤバすぎバイト列伝」です。
これは驚いたことに自叙伝。この狂った天才がいかにしてできあがったのか、その過程が詳細に綴られているわけです。
正直なところ、やっぱり掟さんはノンフィクションよりフィクションの方が才能を発揮できるな、と思ってしまう面もありますが、数々の楽曲やエッセイの下地になっているものが「ああ、なるほど」という感じでぎっしり詰まっていて、非常に興味深く一気読みでした。

今回は、ファン以外にはあんまり興味のはないお話でした。ちょっとでも興味を持たれた方はお試しあれ。中毒性のある最高のヒマつぶし本です。

男の!ヤバすぎバイト列伝 (耳マン)
掟 ポルシェ
リットーミュージック
2018-01-19


元ネタ探求 アンダーグラウンド・サーチライ「スケキヨ」「アオヌマシズマ」

20170505スケキヨ072

筋肉少女帯が活動を一時休止した直後に発売された、大槻ケンヂのソロプロジェクト「アンダーグラウンド・サーチライ」。第一弾のタイトルは「スケキヨ」というぶっ飛んだもので、CD屋で発見した時は仰天しました。
しかし、つい最近買ったばかりのような気がしていましたが、もう20年近くも経っているとは。就職したばかりの頃で、帰宅途中に職場近くのショップで手に取ったときのことはよく覚えています。
久しぶりに棚から出してみたら、帯の紙がシミだらけになっていて、歳月を感じます。
こんなアルバム、すぐさま廃盤になるだろうと思って、急いで買ってきたものですが、意外にもかなり長い間、販売されていました。
これが出たときには、筋少の休止は発表されていたんだったっけなあ? 20年前のことなので、あまりよく覚えていません。

というわけで、筋肉少女帯の元ネタ探しに続いて、アンダーグラウンド・サーチライの2枚に行きたいと思います。
(とはいえ、オーケンの作詞曲の限るので、あんまりたくさんはありません)

ワインライダー・フォーエバー

ウィノナ・ライダーとジョニー・デップのスキャンダルを歌ったもの。
ジョニー・デップが腕に彫った「ウィノナ・フォーエバー」の刺青をレーザーメスで消そうとしたところ、うまく消えず「ワインフォーエバー」になってしまった……という話は、ライナーノーツでオーケン本人が解説していますが、曲のタイトルを「ウィノナ・ライダー・フォーエバー」としなかったのは、権利関係の問題で……という話は、どこか別のところに書いてあったような気がします。
【彼氏の腕はシザーズ】
ティム・バートン監督「シザー・ハンズ」のこと。ジョニー・デップ演じるエドワードは腕がハサミの人造人間で、ウィノナ・ライダー演じる女の子に恋をする。「フランケンシュタイン」をモチーフにした名作。
【彼女は昔ヘザーズ】
ウィノナ・ライダーの出世作「ヘザース」のこと。「体育会系VSオタク」というアメリカ映画によく出てくる対立を描いていますが、ガンガンと人を殺していくブラック・コメディ。
【ティーバートン】
ティム・バートンのこと。

猿の左手 象牙の塔

インディーズ時代の筋肉少女帯の曲ですが、メジャーデビュー後は再録せず、アンダーグラウンド・サーチライで久しぶりの登場。インディーズ時代よりも格段に歌がうまくなっているのがわかります。
【猿の左手】
イギリスの古典的ホラー小説であるジェイコブズの「猿の手」から。三つの願い事を叶えてくれる猿の手のミイラを巡る物語。創元推理文庫のアンソロジーが最も手軽に読めます。
怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版] (創元推理文庫)
アルジャーノン・ブラックウッド



【左手】
では、なぜ「猿の手」が「猿の左手」になったかといえば、これはル・グィンのSF「闇の左手」から。
闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))
アーシュラ・K・ル・グィン



埼玉ゴズニーランド

言うまでもなく東京ディズニーランドのパロディ。個人的には無茶苦茶好きな曲。
【警部マックロード】
70年代に放映されたアメリカの警察ドラマ「警部マクロード」から。
警部マクロード DVD-BOX 1
デニス・ウェーバー


【バイオニックジェミー】
70年代に放映されたSFドラマ「地上最強の美女バイオニック・ジェミー」から。


【水漏りコースケ】
70年代に放映された石立鉄男主演のホームドラマ「水もれ甲介」から。


UNDERGROUND SERCHILIE

この曲の歌詞はもともと大槻ケンヂの自伝的大河小説の第2弾「グミ・チョコレート・パイン チョコ編」(1995年)の「第4章 サタデーナイトフィーバー」に登場していたものです。小説のために書き下ろした詩なのか、もともとの持ち歌だったのかはよくわかりません。作中では「ゾン」という登場人物が演奏します。筆者は町田町蔵がモデルだと思って読んでいましたが、遠藤ミチロウのイメージも入っているようです。
【ミラーボール】
ジョン・トラボルタ主演の映画「サタデーナイトフィーバー」のイメージ。ジョン・トラボルタは70年代にこの映画で一世を風靡したが、やがて失速。しかしクエンティン・タランティーノが「パルプフィクション」(1994年)で起用したことから人気が再燃。「グミ・チョコレート・パイン」が書かれた時期は再ブームの最中でした。
【八つ墓村の格好】
横溝正史の「八つ墓村」に登場する大量殺人犯・田治見要蔵の服装のこと。詰襟の上着、脚にはゲートルを巻き、胸にはナショナルランプを下げ、頭の鉢巻には牛のように2本の懐中電灯を突き立てた姿で村を襲撃し、一晩で32人を殺しました。野村芳太郎監督の松竹映画「八つ墓村」の影響もあり、70年代カルチャーの頻出項目となっています。
なお、昭和13年に実際に起きた津山事件では、犯人の都井睦雄がこの姿で30人を殺しています。筋肉少女帯の最近のアルバム「THE SHOW MUST GO ON」にも、津山事件をモチーフにした「ムツオさん」という曲が収録されています。


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元ネタ探求 筋肉少女帯「仏陀L」

20170120仏陀L030

メジャーデビューアルバムです。

1.モーレツア太郎

赤塚不二夫のギャグ漫画「もーれつア太郎」から。なぜ、もーれつア太郎が登場しているのかは、筆者にはいまだにわかりません。

2.釈迦

インディーズ時代から少しずつ歌詞を変えて歌われている曲。アンテナ売り、脳髄など、筋少に頻出のモチーフが詰まっています。「脳髄」は夢野久作の「ドグラ・マグラ」ほか諸作からの連想かと思われます。

3.福耳の子供

最後の方にボソボソと聞こえる女性の声が、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する綾波レイの喋り方のヒントになっているそうです。ちなみに、綾波レイの見た目は「何処へでも行ける切手」の「包帯で真っ白な少女」です。

4.オレンヂ・エビス

インディーズ時代の原曲は「オレンヂペニス」というタイトルでした。
【ラッシャー木村】【ストロング小林】【ロッキー羽田】【ジョー樋口】【ミスター林】
プロレスラー。
【マキ上田】
女子プロレスラー。
【ラジャ・ライオン】
空手家。
【ダイバダッタ】
釈迦仏の弟子で、後に違背したとされる人。(Wikipediaより)。

5.孤島の鬼

タイトルは乱歩の長編「孤島の鬼」から。内容的には特に関係ありません。インディーズ時代の原曲は「から笑う孤島の鬼」というタイトルでした。また、「孤島の檻」という自主制作盤も作っています。
【金のなる木の あるじゃなし】
クレイジー・キャッツの曲「ハイそれまでヨ」に「金のなる木があるじゃなし」という一節がありますが、元ネタなのかどうかはわかりません。大槻ケンヂはドリフターズの話はよくしていても、クレイジー・キャッツの話は見かけた覚えがありません。(桑田佳祐が歌っていたら、間違いなく元ネタなんですが)

6.サンフランシスコ

【さようなら さようなら こんなに遠い異国の果てでお別れするなんて 本当に辛い】
中原中也の詩「別離」の一節「さよなら、さよなら! こんなに良いお天気の日に お別れしてゆくのかと思ふとほんとに辛い」から。
【空気女】
乱歩の中編「ぺてん師と空気男」からの連想かと思います。乱歩の短編の空気男は単にそういうあだ名の男ですが、「空気女」は「蛇女」のようにサーカスで見世物になる存在のようです。

8.ノーマン・ベイツ

ヒッチコックの名作サスペンス映画「サイコ」の登場人物。筋少のファンクラブも「ノーマン・ベイツ」という名前でした。ただ、オーケンがそこまで「サイコ」に思い入れがあるという文章も読んだ覚えがないのですが。

9.ペテン師、新月の夜に死す!

【ペテン師】
空気女と同じく、乱歩の「ぺてん師と空気男」からの連想かと思います。意図せずして、活動休止前最後のアルバム「最後の聖戦」の最後の曲「ペテン」と対の内容になっています。

さて、このアルバムとほぼ同時に「釈迦」のプロモーションビデオを納めたVHS「KIN-SHOWの大残酷」も発売されています。現在、DVDにもなっていますが、この「釈迦」PVは映画「悪魔のいけにえ」のパロディになっていて、これは必見です。個人的に「悪魔のいけにえ」の殺人鬼レザーフェイスが、殴り殺した死体を部屋へひきづりこんで、慌てたようすで扉を閉めている仕草が好きなのですが、そこを忠実に再現していてかなり笑いました。


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profile

筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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