20170516猿神のロストシティ082

先月末にNHK出版から翻訳が刊行された『猿神のロスト・シティ』は、中米ホンジュラスの密林に眠る古代遺跡を探検するノンフィクションで、冒険小説好きに全力でおすすめできる一冊です。
帯の文言だけで、血が沸き立ってくる気分になってしまいます。
人跡未踏のジャングルへわけいる考古学の調査隊、というまさ「21世紀にこんな冒険がありえるのか?」という話なのです

かつて科学的な調査が一度もされたことのない、中米ホンジュラスのモスキティア地方のジャングル。そこには「白い都市」と呼ばれる古代遺跡の伝説が語り継がれています。ヨーロッパの探検隊でそれを目撃したという報告もいくつかありますが、いずれも信憑性に欠けるもので、その姿は謎に包まれたままでした。
これを調査するためにはジャンルへ入っていく必要がありますが、そこは毒蛇やジャガーなどの危険動物が徘徊し、吸血昆虫の大群が襲い掛かってくる世界。植物が密生し、一日かけても数キロしか前へ進むことができません。

本書前半部分でまずは、調査に参加する人々の履歴が語られます。
筆者が最も魅力を感じたのはブルース・ハイニッケという「交渉人」。
そもそもホンジュラスという国は政権が不安定で、麻薬組織がはびこり、殺人発生率は世界最悪というところなのですが、このような場所で調査活動をするためには、マフィアに殺されることなく、地元政府へ適切なタイミングで賄賂を渡し、時には恫喝をしてでも交渉を進める人物が必要となります。
ハイニッケはそのようなプロの交渉人で、調査隊のリーダーであるエルキンスはこう語ります。
「ハイニッケは、絶対に味方にしておきたい男だ。間違っても敵に回したくはない」「今回のプロジェクトを実現するには、ときには悪魔の力も借りなければならなかったんだ」……

次に、調査地点をさぐるために用いられたNASAの「ライダー装置」が紹介されます。
ジャングルの底に横たわる地形は、樹木に遮られて全く目視では確認をできません。しかしライダー装置を使って航空機からスキャンすると、精密な地形のデータを得られます。この手法を使って、地表に横たわる人工物の痕跡を探し出し、遺跡の位置を特定するのです。

この調査によって目的地の候補がいくつか絞られ、いよいよ地上から調査隊が送り込まれます。
しかし、この最も肝心と思われる部分が、やはり小説とは違い、いまいち盛り上がりに欠けるていることは否めません。
ジャングルへ入った途端に巨大な毒蛇に襲われますが、特に誰かが噛まれることもなく、出てきたのはその一匹だけ。あとは虫に刺されるくらいで、冒険小説で期待するほどひどい目には遭いません。
まあ、実際に調査に参加された方々にとっては、「無事でよかった」という結論なのですが、ところが!

終盤になって思わぬ展開が待ち受けます。
古代遺跡の「祟り」です。調査に参加した研究者たちが帰国後、次々となぞの病に冒されていくのです。
正体はサシチョウバエという蚊の一種によって媒介されるリーシュマニア症という感染症です。
あたかも遺跡に触れた祟りであるかのように、参加者たちを苦しめるのです。

というわけで、最新バージョンのジャングル探検、伝染病と文明との関係など、盛り沢山な話題で読み応えのある一冊です。
今どき流行らない古風な冒険物語を求める方にも、あるいは最先端のリアルな冒険記録を求める方にも、どちらにもおすすめできます。