乱歩は生前からさまざまに批評されてきましたが、没後に何度か、乱歩論を集大成した本が刊行されています。
何回かにわけて、それらの目次をずらずらっとご紹介します。
初回は『幻影城 1975年7月増刊 江戸川乱歩の世界』。
この本は古今の乱歩論をまとめたものとしては最初のものではないかと思われます。半年前に創刊したばかりの探偵小説専門誌「幻影城」初めての増刊号であり、かなり充実した内容です。
「パノラマ島綺譚」と「陰獣」が出来る話 横溝正史
《時代の評価》
日本の近代的探偵小説 特に江戸川乱歩氏について 平林初之輔
日本の近代的探偵小説 特に江戸川乱歩氏について 平林初之輔
江戸川乱歩 宇野浩二
創作集『心理試験』序 小酒井不木
江戸川乱歩氏を繞りて 石上是介
明智小五郎の印象 甲賀三郎
江戸川乱歩論 橋爪健
江戸川乱歩氏に対する私の感想 夢野久作
「陰獣」吟味 井上良夫
江戸川乱歩論 木々高太郎
江戸川乱歩論──Profile of Rampo 中島親
江戸川乱歩論 荒正人
乱歩分析 大下宇陀児
「彼」──江戸川乱歩論序説 村山徳五郎
江戸川乱歩論 松本清張
乱歩評価の推移 中島河太郎
《乱歩私観》
《乱歩私観》
私にとっての江戸川先生 飛鳥高
ある夏の夜 鮎川哲也
乱歩と少年の私 幾瀬勝彬
乱歩とSF 石川喬司
「新青年」と「宝石」 石沢英太郎
二つの作品の思い出 岡田鯱彦
乱歩との出会い 尾崎秀樹
ゆきずりの巨人 狩久
乱歩作品の少年にあたえた影響 九鬼紫郎
「国家に反抗する小説ということ」 小林久三
乱歩先生と私の出会い 斎藤栄
わが師乱歩 島田一男
とりとめもなく 城昌幸
お話こそできなかったが… 草野唯雄
「愚作を書け!」 高木彬光
二面の人 多岐川恭
乱歩における英文学 千代有三
一人の芭蕉の問題 土屋隆夫
評論集『幻影城』覚書 椿八郎
乱歩私語 天藤真
推理小説のふるさと 新羽精之
乱歩氏の反省・遺された問題 日影丈吉
よるの夢こそまこと 氷川瓏
少女時代の思い出 藤木靖子
もう一人の乱歩 松村喜雄
YDNペンサークルの頃 光石介太郎
乱歩文学の評価 水上幻一郎
乱歩・文学の非文学 宮原龍雄
乱歩の短編の魅力 武蔵野次郎
乱歩との接点 渡辺啓助
乱歩から学んだこと 渡辺剣次
《新しい視点》
《新しい視点》
閉じ込められた夢──江戸川乱歩論 権田萬治
人でなしの世界──乱歩の怪奇小説 紀田順一郎
華麗なユートピア──乱歩の長篇小説 大内茂男
創造と崩壊──乱歩の少年探偵小説 二上洋一
幻影城の城主・江戸川乱歩 山村正夫
憧憬から創造へ──乱歩と涙香 阿部主計
愁い顔の探偵──乱歩・朔太郎・初之輔のことなど 安間隆次
怪奇ロマンの遍歴と脱却──乱歩と正史 中島河太郎
乱歩・少年ものの世界──少年探偵小説の書誌学的研究 戸川安宣
《資料》
《資料》
江戸川乱歩参考文献目録 島崎博
江戸川乱歩年譜 島崎博
《乱歩を語る》
《乱歩を語る》
江戸川君と私 森下雨村
乱歩君の印象 春日野緑
蚯蚓語 蘭郁二郎
人生を闊歩する人 大坪砂男
乱歩さんと私 角田喜久雄
乱歩さんと私 西田政治
冒頭の横溝正史「『パノラマ島綺譚』と『陰獣』が出来る話」は本書への書き下ろしですが、ほぼ同時期に刊行された『探偵小説昔話』にも再録され、横溝の代表的なエッセイの一つと言えます。
《時代の評価》は、生前リアルタイムで発表された乱歩論をまとめています。井上良夫「『陰獣』吟味」は海外本格ミステリに精通した筆者らしい充実した内容の評論ですが、中島河太郎の解説によれば「陰獣」発表後6年も経ってからポツンと発表され、内容に割にはあまり反響がなかったとのこと。しかし、今では乱歩論の傑作として知られています。
《新しい視点》《乱歩私観》のセクションはいずれも書き下ろしで、本書の刊行時期=乱歩没後10年の評価がまとまっています。
土屋隆夫は乱歩の『随筆探偵小説』に収録された「一人の芭蕉の問題」を読んで感動し、ミステリ作家を目指したと言われていますが、本書ではずばり同じタイトルで、このエッセイに触れています。とはいえ、「これを読んで作家を目指しました」という自分語りではなく、これは乱歩が自身を奮起させるために書いた文章ではなかろうか、と推測しています。
「幻影城」は全部揃えようと思うとなかなか大変ですが、この増刊号は割りとよく古本屋で目にしますので、乱歩ファンなら、もし見かけた場合は買っておいて損はないと思います。