備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

江戸川乱歩

日本でDVDが発売されていない邦画1「黒蜥蜴」(1968年・深作欣二監督)

未だDVD、Blu-rayが発売されていない邦画で、最も待望されているのは深作欣二監督の「黒蜥蜴」ではないでしょうか。

江戸川乱歩原作・三島由紀夫脚本の舞台劇「黒蜥蜴」は、2度映画化されてます。
最初の映画化は1962年に大映が製作した井上梅次監督・京マチ子主演のもの。
これはミュージカル仕立てのかなり狂った演出でカルト的な人気があり、DVDも発売されています。

黒蜥蜴 [DVD]
京マチ子
角川書店



2度目の映画化は、1968年松竹製作の深作欣二監督版。
これは主演を美輪明宏(当時は丸山明宏)が務め、今に至るも「黒蜥蜴」映像化の決定版的な評価を受けています。
三島由紀夫自身が演じた「人間の剥製」と美輪明宏とのディープキスも衝撃的ですが、深作欣二ファンの筆者としては、岩瀬家に詰めている用心棒たちがピラニア軍団よろしくワラワラワラ、と飛び出してくる乱歩映画っぽくないところが好きだったりします。

ところが、この松竹版のDVDがなかなか発売されません。
2003年に深作欣二監督が亡くなった前後に深作作品が一気にDVD化されていった時期があり、そのときは当然、「黒蜥蜴」も出るだろうと待ち構えました。
いや、それどころか雑誌「映画秘宝」で、「黒薔薇の館」などと並び、発売を予告する広告も見た記憶があります(いつ頃のことか忘れましたが、バックナンバーをひっくり返せば見つかるはず)。
ところが、そのまま何事もなく月日は流れ、未だに日本だけでなく全世界的に正規のDVD化はされていないようです。
名画座での上映やCS放送などは割りと頻繁にあるようで、見るのが難しい映画ではなく、事情があって封印されているというわけでも無いようですが、いったいどんな事情があるんでしょうか。
三島由紀夫の著作権が切れるのが2020年なので、そのあたりで何か動きあるといいな、という勝手な期待を抱いていて、正直、オリンピックよりもそっちの方が気がかりだったりします。

それから、映画の原作となった三島由紀夫の戯曲「黒蜥蜴」についても、2007年に一度だけ文庫化されたのですが、あろうことかそれに気づいたのが数年も経ってから、という「俺ともあろう奴がなにやってんだ」と言いたくなる始末なのですが、乱歩の著作権はすでに切れており、さらに三島由紀夫の著作権が切れたら、これも当然またどこかの文庫が収録すると思われるので、それも気にしています。

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江戸川乱歩原作映画のDVD

乱歩評論書目次紹介 その3『乱歩 上・下』(講談社・1994年)

201804乱歩上202

本書は乱歩生誕100周年(1994年・平成6年)を記念して分厚い上下巻で刊行されました。
乱歩論だけでなく、乱歩をテーマにした小説や、乱歩の代表的な小説・エッセイなども収録し、この2冊で乱歩の業績を俯瞰できるようにしようという試みでした。平成元年に完結した江戸川乱歩推理文庫の記憶もまだ新しい頃であり(すでに品切れとなっていましたが)、同じ講談社の刊行ということで、装画は天野喜孝が担当しています。
前回の記事で紹介した『江戸川乱歩――評論と研究』が出たのが1980年ですが、この14年間のあいだにミステリ界では大きな変化が起こっています。
そう、笠井潔言うところの「第三の波」です。
「幻影城」が終刊し、竹本健治、笠井潔、島田荘司らが活躍を始め、やがて綾辻行人がデビューする。
わずか10年ほどのあいだにミステリを取り巻く状況は一変しましたが、このあたりの作家たちは皆、「乱歩体験」の持ち主でした。一世代上の作家たちが乱歩と直接交流していたのに対し、この世代は幼少期に「少年探偵団」からミステリへ入った乱歩ファンでした。
本書では、乱歩の「同業者たち」が書いたものとは違った、読者目線の新たな乱歩論も大きな存在となっており、それが特色となっているかと思います。
目次は以下の通りです。

『乱歩 上』
乱歩生誕百周年 中島河太郎
江戸川乱歩
恋と神様 江戸川乱歩
乱歩打明け話 江戸川乱歩
活字と僕と 江戸川乱歩
江戸川乱歩~森下雨村往復書簡 江戸川乱歩
二銭銅貨 江戸川乱歩
『二銭銅貨』を読む 小酒井不木
二廢人 江戸川乱歩
D坂の殺人事件 江戸川乱歩
心理試験 江戸川乱歩
赤い部屋 江戸川乱歩
探偵小説に就いて 萩原朔太郎
屋根裏の散歩者 江戸川乱歩
人間椅子 江戸川乱歩
江戸川乱歩とギュゲスの指輪 笠井潔
踊る一寸法師 江戸川乱歩
人でなしの恋 江戸川乱歩
「人でなしの世界」 紀田順一郎
鏡地獄 江戸川乱歩
レンズ嗜好症 江戸川乱歩
レンズと活字 種村季弘
パノラマ島奇談 江戸川乱歩
涙ぐましい双面 高橋鐵
「パノラマ島奇譚」と「陰獣」が出来る話 横溝正史
陰獣 江戸川乱歩
もう一つの実験室 松山巖
乱歩の幻影 島田荘司
江戸川乱歩略伝 山村正夫

『乱歩 下』
父と終戦 平井隆太郎
芋虫 江戸川乱歩
孤島の小林少年 橋本治
華麗なユートピア 大内茂男
玩具愛好とユートピア 澁澤龍彦
押絵と旅する男 江戸川乱歩
江戸川乱歩
江戸川乱歩氏に対する私の感想 夢野久作
乱歩おじさんの躁と鬱 松村喜雄
目羅博士 江戸川乱歩
月の下の鏡のような犯罪 竹本健治
石榴石の秘密・紅玉色の傲慢・孔雀石のアンドロギュヌス 美輪明宏
石榴 江戸川乱歩
「石榴」回顧 江戸川乱歩
「黒死館殺人事件」序 江戸川乱歩
乱歩先生の「少年もの」 須藤憲三
怪人二十面相(抄) 江戸川乱歩
孤独すぎる怪人 中井英夫
群衆の中のロビンソン・クルーソー 江戸川乱歩
幻影の城主 江戸川乱歩
「Yの悲劇」 江戸川乱歩
ホイットマンの話 江戸川乱歩
もくづ塚 江戸川乱歩
書斎の旅 江戸川乱歩
同性愛文学史 江戸川乱歩
一人の芭蕉の問題 江戸川乱歩
「本陣殺人事件」 江戸川乱歩
ウールリッチ「黒衣の花嫁」解説 江戸川乱歩
クリスティーに脱帽 江戸川乱歩
類別トリック集成 江戸川乱歩
月と手袋 江戸川乱歩
推理小説独言(抄) 松本清張
防空壕 江戸川乱歩
編集を終わって 江戸川乱歩
座談会 狐狗狸の夕べ 江戸川乱歩
初心の人乱歩 吉行淳之介
ラムール 江戸川乱歩
江戸川乱歩
江戸川乱歩と私 植草甚一
伊賀の散歩者 山田風太郎
閉じ込められた夢 権田萬治
江戸川乱歩著作総目録 新保博久
江戸川乱歩年譜 中島河太郎
『乱歩』あとがき 新保博久


乱歩(上)
講談社
1994-09-21



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乱歩評論書目次紹介 その1『幻影城 1975年7月増刊 江戸川乱歩の世界』
乱歩評論書目次紹介 その2『江戸川乱歩――評論と研究』

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昭和53年~54年にかけて、講談社から全25巻の「江戸川乱歩全集」が刊行されました。
本書「江戸川乱歩――評論と研究」は、この全集が完結した翌年に出たもので、装丁の雰囲気もあわせて、別巻的な位置づけのものだったようです。
内容は、これまでに発表された乱歩論をまとめたもので、前回の記事でご紹介した『幻影城 1975年7月増刊 江戸川乱歩の世界』に収録された文章とかなり重複しています。
目次は以下の通りです。

「二銭銅貨」を読む 小酒井不木
日本の近代的探偵小説 平林初之輔
「心理試験」序 小酒井不木
江戸川乱歩を繞りて 石上是介
江戸川乱歩論 橋爪健
「陰獣」その他 平林初之輔
江戸川乱歩氏に対する私の感想 夢野久作
江戸川乱歩論 龍登雲
「陰獣」吟味 井上良夫
江戸川乱歩論 木々高太郎
江戸川乱歩論 中島親
乱歩文学の鳥瞰 中島河太郎
江戸川乱歩論 荒正人
江戸川乱歩論 松本清張
江戸川乱歩論 中島河太郎
「二重面相」江戸川乱歩 横溝正史
江戸川乱歩と耽美主義文学 日影丈吉
巨人の輪郭 小松左京
乱歩文学の一側面 野坂昭如
幼児性の噴出と童話性 なだいなだ
乱歩文学の全体像 尾崎秀樹
江戸川乱歩について 荒正人
乱歩文学の本質 澁澤龍彦
閉じ込められた夢 権田萬治
人でなしの世界 紀田順一郎
華麗なユートピア 大内茂男
怪奇ロマンの遍歴と脱却 中島河太郎
孤独すぎる怪人 中井英夫
江戸川乱歩研究文献目録 中島河太郎

冒頭の小酒井不木「『二銭銅貨』を読む」は、乱歩のデビュー作「二銭銅貨」が雑誌「新青年」に掲載された際、添えられた有名な文章で、『幻影城増刊 江戸川乱歩の世界』に収録されなかったのが不思議です。
他の文章も概ね、あちこちで再録されている有名なものが多く、本書でしか読めないレアなものはほとんどありませんが、逆にスタンダードでツボを押さえた選択と言えます。

筆者は、20年以上前、学生時代に古本屋で見つけました(1996年頃)。
考えてみれば本書の刊行から15年くらいしか経っていなかったわけですが、当時はインターネットもなく探求書に巡り合うのは足と運が全てで、かなり長いあいだ探してようやく見つけたのでした。
ところが、その時ついていた値が8000円。所持金が足りていたため、今を逃したらあとはない、と買ってしまいましたが、これはかなり高めの設定でしたね。なかなかの美本ではあるので、買ったことを後悔はしていませんが、インターネットが普及した現在であれば、もう少しリーズナブルに入手可能な本だと思います。




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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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