備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

杉本一文

「杉本一文『装』画集」入手

201711杉本一文143

待ちに待った「杉本一文『装』画集」が発売されました。
この記事を書いている時点でAmazonではまだ予約受付中ですが、近所の書店にはすでに入荷していて、無事に購入できました。
もし手に入れそこなったら死んでも死にきれない……というくらいに思い詰めていましたので、買えてよかったです。Amazonも予約を締め切ったりはしていませんし、購入に関してはそんなにたいした問題は無かったようです。

さて肝心の中身ですが、横溝正史に関してはやはり全作品ではありません。
角川文庫の横溝正史はわりと頻繁にカバーイラストが差し替えられていて、一部の例外を除いて全て杉本一文なのですが、最初期の抽象的なイラストは少し紹介されている程度です。つまり「悪魔が来りて笛吹く」「獄門島」「本陣殺人事件」あたりの初版バージョンは載っていません。また、「病院坂の首縊りの家」や「悪霊島」の単行本バージョンも無しです。
また、掲載されているのは当然のことながら原画であり、書影ではありません。一部の作品は黒枠や書名が入った書影も掲載されていますが、正直なことをいうと、原画より書影の方がグッと来ますね……こんなに大騒ぎしておいてナンですが。

嬉しいのは、大判(A4判)というサイズです。
作品によってはページにいっぱいに掲載されているため、細部までよくわかりジッと見入ってしまいます。
表紙絵のベスト3を選ぶすると筆者的には以下のあたりなのですが、これらはいずれも大判で紹介されていて、大満足です。
201711女王蜂137201711真珠郎145201711蔵の中144

また、「本陣殺人事件」の「黒猫亭」バージョンや、昭和時代の背表紙では存在しない「悪霊島」の「金田一耕助ファイル」バージョン、「首」「人面瘡」など、レアなイラストも収録してくれているのはありがたいです。

省かれていたけど、載せてほしかったのは「夜の黒豹」の後期バージョンですね。というのは、当時中学生だった筆者には、このおっぱいドーンというイラストが眩しすぎて書店で手に取ることができず、買うことができなかったのです。こういう表紙を平気で買える年齢になったときには背表紙のデザインが変わってしまっており、今さら買う気になれず、未だに持っていないし読んでいない、という本です(えらそうな記事をさんざん書いてますが、角川文庫の横溝をコンプリートしているわけではありません)。

さて、横溝正史以外の杉本一文画伯の画業についてはいかがでしょうか。
角川文庫版の土屋隆夫が掲載されているのは嬉しいところです。それ以外は、そもそも本の存在自体知らないものが多いので「ふーん」という感想になってしまいますが。
資料的な面はあまり充実していません。新旧両バージョンが掲載されている作品も多いのですが、いずれもキャプションに記載の年号は書籍の初版年で、イラストの描かれた時期はわかりません。また巻末にも索引はなく、あっさりしています。
個人的な感想を言えば、もう少し高価格になっても良いので、資料面は充実してほしかったように思います。

杉本氏の経歴を見ると、角川文庫で横溝正史の表紙絵を描いていたのは20代後半から30代前半という時期のようで、そこに一番驚きました。世の中の全てを知り尽くした老人が枯れた手に絵筆をとっているとばかり思っていました。
自分が20代の頃を振り返ってみると……どこを振ってみてもこんなイラストは出てきませんね。
横溝ブームと歩調を合わせて登場した、奇跡的な天才です。いや、むしろ杉本一文が表紙を描いたからこそ、横溝ブームが起こり、後のミステリの歴史が書き換えられたと言うべきでしょうか。



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201711女王蜂137

当ブログでもたびたび引用している角川文庫版の横溝正史。
かつてその表紙を飾っていた杉本一文画伯の装画は今も根強い人気があり、横溝正史のビジュアル面を支配していると言ってもよい状態です。
筆者もこの表紙には魅せられていた一人です。中学生のころ、あれだけ熱心に横溝正史を読みながら、「シナリオ悪霊島」や春陽文庫版の人形佐七をスルーしていたのは、やはり「表紙が杉本一文じゃない」ということが大きかったように思います。
個人的なベストは、冒頭に掲載した「女王蜂」。本編も大好きですが、大道寺智子と思われる表紙の女性のあまりの美しさに、時を忘れて眺め続ける……そんな中学1年生でした。

ともかく、杉本一文装画の虜になっていたのは筆者だけではないでしょう。
横溝正史シリーズの表紙絵を集めた画集が欲しいというのは、ファンの悲願でした。
「もし出るなら、こんな本だったらいいな」と、長年にわたって妄想と期待を膨らませていましたが、これがついに現実のものとなるようです!


(リンク先はAmazon)

11月22日発売予定ということで、Amazonでの予約受付が始まっています。
発行するアトリエサードはゴシックアートや少女画など、マニアックな画集をいろいろ出している出版社です。販売を請け負っている書苑新社の新刊は大型書店でも入荷しない場合が少なからずあると思われます。確実に入手したい場合は、近所の本屋やネット書店などで事前に予約したほうが間違いないでしょう。

角川文庫版の横溝正史はドラマ化・映画化などにあわせた異装版が多く、また『悪霊島』『恐ろしき四月馬鹿』『病院坂の首縊りの家』などは単行本の表紙も杉本一文が描いており、全てのバージョンをコンプリートするのはかなり難易度が高いのですが、はたして漏れなく収録されるのか?
内容に関する情報も現時点では「横溝正史の表紙絵を収録している」ということ以外には無く、Amazon商品ページにある「160点収録128ページ」で税込3456円となると、あまりにハイレベルなものを期待するとがっかりしそうですが、はてさて。
とは言え、ひとまずこの機会を逃す一生後悔することになる可能性もあるため、なんとか手に入れたいものです。
無事に入手できたら、また内容については改めてレポートしたいと思います。

また、この本の刊行にあわせて新宿でイベントも開催されるようです。
http://boutreview.shop-pro.jp/?pid=124236349
杉本一文と喜国雅彦によるトークもあるようですので、お時間の都合のつく方は参加されてはいかがでしょうか。本画集の発売情報はこのイベント案内で知りました。喜国さんはおそらく日本で一番熱狂的な杉本一文ファンではないかと思われますので、楽しみなイベントです。(喜国さんの熱狂ぶりは以下のツイート参照)


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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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