待ちに待った「杉本一文『装』画集」が発売されました。
この記事を書いている時点でAmazonではまだ予約受付中ですが、近所の書店にはすでに入荷していて、無事に購入できました。
もし手に入れそこなったら死んでも死にきれない……というくらいに思い詰めていましたので、買えてよかったです。Amazonも予約を締め切ったりはしていませんし、購入に関してはそんなにたいした問題は無かったようです。
さて肝心の中身ですが、横溝正史に関してはやはり全作品ではありません。
角川文庫の横溝正史はわりと頻繁にカバーイラストが差し替えられていて、一部の例外を除いて全て杉本一文なのですが、最初期の抽象的なイラストは少し紹介されている程度です。つまり「悪魔が来りて笛吹く」「獄門島」「本陣殺人事件」あたりの初版バージョンは載っていません。また、「病院坂の首縊りの家」や「悪霊島」の単行本バージョンも無しです。
また、掲載されているのは当然のことながら原画であり、書影ではありません。一部の作品は黒枠や書名が入った書影も掲載されていますが、正直なことをいうと、原画より書影の方がグッと来ますね……こんなに大騒ぎしておいてナンですが。
嬉しいのは、大判(A4判)というサイズです。
作品によってはページにいっぱいに掲載されているため、細部までよくわかりジッと見入ってしまいます。
表紙絵のベスト3を選ぶすると筆者的には以下のあたりなのですが、これらはいずれも大判で紹介されていて、大満足です。
また、「本陣殺人事件」の「黒猫亭」バージョンや、昭和時代の背表紙では存在しない「悪霊島」の「金田一耕助ファイル」バージョン、「首」「人面瘡」など、レアなイラストも収録してくれているのはありがたいです。
省かれていたけど、載せてほしかったのは「夜の黒豹」の後期バージョンですね。というのは、当時中学生だった筆者には、このおっぱいドーンというイラストが眩しすぎて書店で手に取ることができず、買うことができなかったのです。こういう表紙を平気で買える年齢になったときには背表紙のデザインが変わってしまっており、今さら買う気になれず、未だに持っていないし読んでいない、という本です(えらそうな記事をさんざん書いてますが、角川文庫の横溝をコンプリートしているわけではありません)。
さて、横溝正史以外の杉本一文画伯の画業についてはいかがでしょうか。
角川文庫版の土屋隆夫が掲載されているのは嬉しいところです。それ以外は、そもそも本の存在自体知らないものが多いので「ふーん」という感想になってしまいますが。
資料的な面はあまり充実していません。新旧両バージョンが掲載されている作品も多いのですが、いずれもキャプションに記載の年号は書籍の初版年で、イラストの描かれた時期はわかりません。また巻末にも索引はなく、あっさりしています。
個人的な感想を言えば、もう少し高価格になっても良いので、資料面は充実してほしかったように思います。
杉本氏の経歴を見ると、角川文庫で横溝正史の表紙絵を描いていたのは20代後半から30代前半という時期のようで、そこに一番驚きました。世の中の全てを知り尽くした老人が枯れた手に絵筆をとっているとばかり思っていました。
自分が20代の頃を振り返ってみると……どこを振ってみてもこんなイラストは出てきませんね。
横溝ブームと歩調を合わせて登場した、奇跡的な天才です。いや、むしろ杉本一文が表紙を描いたからこそ、横溝ブームが起こり、後のミステリの歴史が書き換えられたと言うべきでしょうか。
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