先日の記事でご紹介しましたとおり、近々、角川文庫版・横溝正史の表紙絵で有名な杉本一文の表紙画集が発売されます。
角川文庫版・横溝正史の表紙絵を収録!「杉本一文『装』画集」待望の刊行!
待ち望んでいた方も多いかと思いますが、ミステリやSFのファンは特に「表紙絵」というものに思い入れの強い人が多いようで、これまでにも人気イラストレーターの表紙画集はいくつか出ています。今回はそれらをご紹介しましょう。(リンク先は全てAmazonです)
本書は税込で5,000円超という価格をものともせず筆者も買いましたが、刊行されたときは「今さら村上芳正!?」と仰天したものです。
村上芳正は70年代を中心に活動していた画家で、有名なのは講談社から出ていた連城三紀彦の諸作でしょう。
連城三紀彦と村上芳正との出会いは講談社の単行本が最初ではなく、雑誌「幻影城」に「花葬」シリーズ第一作のあたる「藤の香」が掲載された際、挿絵を担当しています。
村上芳正は「幻影城」ではかなりの挿絵を担当しており、1978年6-7月合併号(No.44)にて「村上芳正の華麗な世界」と題した特集も組まれています。筆者は中学生のころ、たまたま古本屋で「幻影城」の揃いを見つけ、お年玉をはたいて購入しており、この特集は飽きずに何度も繰り返し眺めたものです。
今や名前を見てもピンとくる読者が減ってしまったのか、刊行から4年も経つのに、Amazonのレビューは一つもついていないという有り様ですが、本書には代表作「家畜人ヤプー」や、連城三紀彦の諸作はもちろん、表紙絵、挿絵、ポスターなどが数多く掲載されています。原画だったり書影だったりといろいろですが、幻想的な華麗な作品を、時間を忘れて眺め続けてしまいます。
スター・ウォーズやマッド・マックスの日本版ポスターが有名な生頼範義ですが、ミステリやSFの表紙絵も数多く手がけており、非常に人気のあるイラストレイターです。
画集もいろいろ出ていますが、本書は代表作を網羅しつつお求めやすい価格で、とりあえず最初の一冊としておすすめできます。表紙絵に限らず、映画ポスターもたくさん収録されており、生頼範義の仕事を概観することができます。
かつて児童書界で挿絵を書きまくっていた武部本一郎の画集です。
こちらの記事で紹介しているポプラ社版乱歩全集もいくつかの巻を担当していますし、有名な絵本「かわいそうなぞう」のイラストも氏の仕事です。
画集はそれほどたくさんは出ておらず、しかも全て入手が難しい状況ですが、いずれ全画業を概観できるような本が出てほしいな、と思っています。
春陽文庫版・江戸川乱歩の表紙を飾るおぞましい銅版画を描いた多賀新の版画集です。
この表紙は子どもの頃、杉本一文以上に強烈でした。不気味だけど見入ってしまう、というわけで、小学生の頃は学校から帰ると一人で部屋へこもり「孤島の鬼」や「心理試験」の表紙絵をジッと見つめ続ける、という毎日を送っていたものです。
この画集を出たときは中学生でしたが、買おうかどうしようかさんざん迷いました。しかし、結局は中学生が買うようなものではなく、そのうちそのうち、と思っているうちに大人になってしまい、それでもこの本は絶版にならずしぶとく書店店頭に並び続け、こちらも負けずと買わずにいたら、最近、とうとう品切れになったようです。
勝った……というような感慨は特になく、やっぱり買っておいたほうが良かったかなあ、と少し後悔しています。とは言え、杉本一文ほど「何が何でも絶対買う!」という気になれなかったのは確かですね。何十年も立ち読みを続けたので、内容はよくわかっていますが。
(2018/2追記:3月に新版が刊行されるようです。負けた……買います)
本書は特定の画家の作品集ではなく、かつてポプラ社や偕成社などで出ていた児童向けミステリシリーズの表紙絵を集めたものです。
筆者の年代から見ると古めの本が多いのですが、ドンピシャ世代の本も数多く掲載されています。子どもの頃、近所の市立図書館で「今日はどれを借りようか」と表紙をにらみ続けたころの気分をありありと思い出せる、とても素敵な本です。ただし、本書でトキメクことができるのは、昭和のうちに小学生を済ませた世代に限られるだろうと思います。