備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

怪奇探偵小説名作選

ちくま文庫「怪奇探偵小説名作選」6~10収録作品

今回は、ちくま文庫「怪奇探偵小説名作選」の後半をご紹介します。
このシリーズは当初は全5冊ということで刊行されましたが、翌年になってから続巻が刊行され、最終的に全10冊となりました。
顔ぶれを眺めると、小栗虫太郎もいるのに、夢野久作の巻がないのが気になります。ちくま文庫では以前に夢野久作全集が出ていましたから、重複を避けたのでしょうか。
それはともかく、小栗虫太郎、日影丈吉と熱心なファンの多い作家が並びますが、いずれも有名作品をしっかり押さえた、すばらしいセレクションです。
驚いたのは氷川瓏です。氏は、この『氷川瓏集』が初めての、そして今のところ唯一の単著です。大変マイナーな作家と言ってもよい存在ですが、探偵小説のアンソロジーにはしばしば取り上げられています。
実は、個人的に氷川瓏には思い入れがあります。先日にこちらで、ポプラ社「少年探偵 江戸川乱歩」旧版の後半の巻は大人向け作品のリライトが収録されていたと書きましたが、そのリライトを請け負っていた一人が氷川瓏なのです。
ポプラ社のシリーズはリライト執筆者の名前を明記していないものが多いのですが、一部の巻には「江戸川乱歩・原作 氷川瓏・文」と書かれています(実際には、一部の巻どころかほとんどが氷川瓏の筆によるものだったようです)。
このため、筆者は小学生の頃からこの名前に親しんでおり、今振り返ってみれば、当時、乱歩の次にたくさん著書を読んでいた作家は氷川瓏ということになってしまうのです。
そんな作家のいわば単著デビューということなので、感慨深いものがありました。

というところで、収録作品をご紹介します。

『怪奇探偵小説名作選 6小栗虫太郎集』

完全犯罪
白蟻
海峡天地会
紅毛傾城
源内焼六術和尚
倶利伽羅信号
地虫
屍体七十五歩にて死す
方子と末起
月と陽と暗い星
解説(日下三蔵)

『怪奇探偵小説名作選 7蘭郁二郎集』

息を止める男
歪んだ夢
鉄路
自殺
足の裏
舌打する
古傷
孤独
幻聴
蝕眠譜

魔像
夢鬼
虻の囁き
腐った蜉蝣
鱗粉
白金神経の少女
睡魔
地図にない島
火星の魔術師
植物人間
脳波操縦士
解説(日下三蔵)

『怪奇探偵小説名作選 8日影丈吉集』

かなむぎうた
狐の鶏
奇妙な隊商
東天紅
飾燈
鶴の来歴
旅愁
吉備津の釜
月夜蟹
ねずみ
猫の泉
写真仲間
饅頭軍談
王とのつきあい
粉屋の猫
吸血鬼
解説(日下三蔵)

『怪奇探偵小説名作選 9氷川瓏集』

乳母車
春妖記
白い蝶
白い外套の女
悪魔の顫音
天使の犯罪
風原博士の奇怪な実験
浴室

睡蓮夫人
天平商人と二匹の鬼
洞窟
陽炎の家
華胥の島
路地の奧
風蝕
解説(日下三蔵)

『怪奇探偵小説名作選 10香山滋集』

エル・ドラドオ
美しき獣
海蛇の島
沈黙の復讐
美しき山猫
人魚
緑の蜘蛛
爬虫邸奇譚
タヒチの情火
心臓花
魔林の美女
不死の女王
シャト・エル・アラブ
有翼人
熱沙の涯
砂漠の魔術師
ソロモンの秘宝
マンドラカーリカ
十万弗の魚料理
解説(日下三蔵)

ちくま文庫「怪奇探偵小説名作選」1~5収録作品

201901小酒井不木308

「怪奇探偵小説傑作選」につづいて、翌年には「名作選」の刊行が始まりました。
名作選は当初、傑作選と同じく全5冊予定でしたが、好評だったためか、翌年には6巻から10巻が刊行され、全10冊のシリーズとなりました。
今回は、前半の1~5巻をご紹介します。

1巻目は乱歩の師匠筋に当たる小酒井不木。小酒井不木の傑作集は、創元推理文庫、国書刊行会の「探偵クラブ」、さらには「論創ミステリ叢書」と、あちこちから刊行されています。名作とされる作品はほぼ決まっている印象がありますが、この「探偵小説名作選」版はそれらを外さずきれいに収録しており、これ一冊読んでおけば、小酒井不木のことはだいたいわかった、と言い切ってしまって差し支えないと思います。
個人的に気に入っているのは、『橘外男集』です。
橘外男は探偵小説作家といえるのかどうか、怪奇小説家と呼ぶほうがしっくりします。中でも、本書にも収録された「蒲団」は、最強の怪談。幽霊が出てくる因縁話ですが、あとにも先にも、これほど恐ろしい小説は読んだことがありません。
この短編は他のアンソロジーにもときどき収録されており、それほど珍しくはありませんが、文庫で手軽に読めるのは本書くらいだったのでは、と思います。

というところで、5巻までの目次です。

『怪奇探偵小説名作選 1小酒井不木集』

恋愛曲線
人工心臓
按摩
犬神
遺伝
手術
肉腫
安死術
秘密の相似
印象
初往診
血友病
死の接吻
痴人の復讐
血の盃
猫と村正
狂女と犬
鼻に基く殺人
卑怯な毒殺
死体蝋燭
ある自殺者の手記
暴風雨の夜
呪われの家
謎の咬傷
新案探偵法
愚人の毒
メデューサの首
三つの痣
好色破邪顕正
闘争
解説(日下三蔵)

『怪奇探偵小説名作選 2渡辺啓助集』

偽眼のマドンナ
佝僂記
復讐芸人
疑似放蕩症
血笑婦
写真魔
変身術師
愛欲埃及学
美しき皮膚病
地獄横丁
血痕二重奏
吸血花
塗込められた洋次郎
北海道四谷怪談
暗室
灰色鸚哥
悪魔の指
血のロビンソン
紅耳
聖悪魔
血蝙蝠
屍くずれ
タンタラスの呪い血
決闘記
ニセモノもまた愉し
解説(日下三蔵)

『怪奇探偵小説名作選 3水谷準集』

好敵手
孤児
蝋燭
崖の上
月光の部屋
恋人を喰べる話
街の抱擁
お・それ・みを
空で唄う男の話
追いかけられた男の話
七つの閨
夢男
蜘蛛
酒壜の中の手紙

胡桃園の青白き番人
司馬家崩壊
屋根裏の亡霊
R夫人の横顔
カナカナ姫
金箔師
窓は敲かれず
今宵一夜を
東方のヴィーナス
ある決闘
悪魔の誕生
魔女マレーザ
まがまがしい心
解説(日下三蔵)

『怪奇探偵小説名作選 4佐藤春夫集』

西班牙犬の家
指紋
月かげ
陳述
「オカアサン」
アダムス・ルックスが遺書
家常茶飯
痛ましい発見
時計のいたずら
黄昏の殺人
奇談
化物屋敷
山妖海異
のんしゃらん記録
小草の夢
マンディ・バナス
女人焚死
或るフェミニストの話
女誡扇綺譚
美しき町
探偵小説小論
探偵小説と芸術味
解説(日下三蔵)

『怪奇探偵小説名作選 5橘外男集』

令嬢エミーラの日記
聖コルソ島復讐奇譚
マトモッソ渓谷
怪人シプリアノ
女豹の博士
逗子物語
蒲団
生不動
幽魂賦
棺前結婚
解説(日下三蔵)

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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