以前の記事にも書いたとおり、中学高校時代はかなり重度の島田荘司中毒者だったため、エッセイや評論など小説以外の著作にもくまなく目を通していました。
島田ミステリは度肝を抜かれるトリックだけでなく、ストーリーテリングという観点も非常に優れており、サスペンス小説の傑作も数多くあります。
読者に一気読みさせる強い物語を支えるのはやはり趣味と関心の広さです。それらを直接テーマにして語られているエッセイは、島田荘司の小説を読み解く上で非常に重要な存在と言えます。
というわけで、初期(平成10年頃まで)のエッセイをご紹介します。(リンク先はいずれもAmazon)
『砂の海の航海』1987年・新潮文庫(書下ろし)
島田荘司の初エッセイは、パリ・ダカール・ラリーの同行取材記でした。ミステリの話はほぼ出てきませんが、カラー写真も多数まじえた本で、島田荘司ファンであれば興味津々、とても楽しめる一冊でした。
『ポルシェ911の誘惑』1989年・講談社
タイトルを見るとポルシェ911のことしか書いていない印象を受けますが、全くそうではありません。ポルシェの話は冒頭のみ。あとはクルマの話を中心に、島田荘司らしい社会論・日本人論が綴られています。Amazonのカスタマレビューを見ると異常に低評価ですが、これは島田荘司ファンではなくクルマ好きばかりが投稿しているためです。逆に言えば、自動車のことを全然知らなくても島田ファンであれば楽しめます。後に講談社文庫にも収録。
『異邦人の夢』1989年・PHP研究所
初めてのエッセイ集らしいエッセイ集です。
さまざまな雑誌に掲載された趣味や生活について語ったエッセイを集めたもの。特にロンドンに長期滞在した記録やホームズについて語った一章はとても楽しい内容です。仕事場の新築について書かれた「酒中日記」は、雑誌掲載時に自宅までの詳細なルートを書き込んでしまい、これを読んだ歌野晶午が家を訪ねてきて、デビューに至ったという曰く付きのもの。後に徳間文庫「新・異邦人の夢」として収録。
『本格ミステリー宣言』1989年・講談社
エッセイではなく評論、とも言えますが、冒頭の「本格ミステリー宣言」「本格ミステリー論」以外はおおむねエッセイです。綾辻行人、法月綸太郎らのデビュー時に寄せられた推薦文も全て収録されており、リアルタイムでノベルスを買っていた人たちには特に珍しくないものですが、あれから30年経った今となってはまとめて読めるのは貴重かもしれません。後に講談社文庫に収録。
『エンゼル・ハイ』1990年・PHP研究所
「異邦人の夢」と同じ体裁で刊行されたものですが、これは完全のクルマの本。本記事冒頭に「小説以外の著作にもくまなく目を通していました」と書きましたが、すみません、ウソです。本書は買ったは良いものの、いったい何が話題になっているかすらチンプンカンプンで、結局最後まで読めませんでした。クルマに興味のない方はスルーで良い本です。単行本が出たきり、文庫化や再刊はされていません。
『島田荘司の名車交遊録』1990年・立風書房
初期の島田荘司は本当に自動車の本ばかり書いていたわけですが、本書はかなり名著だと思います。
世界の名車について、写真とエッセイで構成されていますが、車の知識が全く無くてもかなり興味深く読めます。他のエッセイでも語られる島田荘司の愛車MGAも登場します。後に原書房から愛蔵版が出ましたが、初刊の方がかっこいい装丁です。
『パリダカ漂流』1991年・芸文社
「砂の海の航海」につづくパリ・ダカール・ラリー観戦記。今回はラリーの最中に湾岸戦争が勃発し、改めて読むと当時の緊張した空気を読み取ることができます。エッセイ集としては「砂の海の航海」の方がはるかに面白いですけどね。
『自動車社会学のすすめ』1991年・講談社
『自動車社会学のすすめ』1991年・講談社
これまたクルマに関する本と思われるタイトルで、実際、ほとんどの話題は自動車に関することで占められていますが、島田荘司流社会派につながる話題も散見されます。クルマの濃度は「ポルシェ911の誘惑」と「エンゼル・ハイ」とのちょうど中間くらいでしょうか。熱心な島田荘司ファンは読んで見る価値はありますが、スルーしても大きな問題はありません。後に講談社文庫に収録。
『世紀末日本紀行』1994年・講談社
雑誌「フライデー」に連載されたフォトドキュメンタリー。A4判の大型本で、4660円(税別)という大変な本でした。当時、大学1回生でしたが、食費を切り詰めて買いましたとも!
かなり読み応えはある本で、島田作品に現れる社会派ネタが素のままで紹介されています。後に徳間文庫に収録。
『世紀末日本紀行』1994年・講談社
雑誌「フライデー」に連載されたフォトドキュメンタリー。A4判の大型本で、4660円(税別)という大変な本でした。当時、大学1回生でしたが、食費を切り詰めて買いましたとも!
かなり読み応えはある本で、島田作品に現れる社会派ネタが素のままで紹介されています。後に徳間文庫に収録。
『アメリカからのEV報告』1997年・南雲堂
しかし、こんな本、見たことも聞いたこともない。当時インターネット黎明期で、ミステリ好きのホームページがあちこちに開設されていましたが、そこでも誰も話題にしていない。
本気で同姓同名の別人を疑いましたが、しかし「南雲堂」からクルマの本を出す「島田荘司」が二人もいるわけない。
というわけで、取り寄せたところ、正真正銘、ミステリ作家・島田荘司の著作でしたが、ミステリ好きが誰も手を出さないのも納得の、ハードな自動車本でした。再刊はされていません。初刊から20年以上経っていますが、Amazonで見るとまだ出版社には在庫があるようですね。要するに売れていない。
というわけで、久しぶりに眺めてみると、初期の島田荘司はミステリ以外は本当にクルマの本ばかりですね。
現物を実家へ預けていて手元参照できない本も多いため、記憶だけで書いている部分も多々ありますが、島田ミステリのファンが古本で探してまで読むべきかどうか、ということの指針にしていただければと思います。
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