今回は第43巻「幽鬼の塔」をご紹介します。昭和48年11月の刊行です。
原作は昭和14年から新潮社の大衆雑誌「日の出」に連載された「幽鬼の塔」。
リライトは氷川瓏が担当しています。初出は昭和34年「名探偵明智小五郎文庫10」としてポプラ社から刊行されました。
表紙絵は岩井泰三、挿絵は山内秀一が担当しています。いずれも本書の描き下ろしです。
原作の「幽鬼の塔」は、フランスの作家ジョルジュ・シムノンの最初期の長篇「サン・フォリアン寺院の首吊人」をベースに書かれた作品です。
乱歩自身は「翻案というほど原作に近い筋ではなかったので、シムノンに断ることはしなかった」と書いていますが、両方読んでみると……いや、やっぱり同じ話だと思いますよ。どのくらい似ているかというと、黒澤明の「用心棒」とセルジオ・レオーネの「荒野の用心棒」と同じ程度でしょうか。
要するに、無断で書いたとなれば、盗作で訴えられてもおかしくありませんが、 著作権がおおらかだった時代の産物でしょう。
さて、シムノン版と乱歩版とを比べて、一番気になるのは、探偵の性格設定です。冒頭、探偵の浅墓な行動によって一人の男が自殺に追い込まれます。シムノン版の探偵(要するにメグレ警部)は、このことをずっと悔いながら捜査にあたりますが、乱歩版では素人探偵に置き換わっており、自分のせいで自殺騒動が起こってもまるで悪びれることがありません。この辺の描写は読んでいてちょっと不思議に感じるくらい軽薄です。
リライト版では、この素人探偵が明智小五郎に変わっていますが、大学を出たばかりの青年時代という設定で、原作の探偵の性格をそのまま引き継いでいます。
明智小五郎史上、最も無責任ではた迷惑な物語が、本書かと思います。
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