子ども向けの世界名作全集には必ず収録されるジュール・ヴェルヌの「海底二万里」。
むかし読んだ、という方もいらっしゃるでしょう。
筆者も小学生の頃、岩波少年文庫で読みました。
ネモ船長の航海に否応なく巻き込まれてしまった主人公の冒険物語に心を踊らせながら読んだ記憶があります。
ところが最近、改めて新潮文庫の新訳で読み直したところ、子どもの頃に読んだときとあまりにも印象が違うため驚きました。単なる冒険小説ではなく、当時の最先端の科学知識を体験できる、好奇心を刺激してやまない博物館のような読み物だったのです。
おそらく、リアルタイムで読んだ人びとは、現代の日本人が「プラネットアース」をテレビで観ているような感覚で、この小説を読んでいたのではないかと、そんな気がしました。
子どもの頃に読んだ、というだけで済ませず、大人になったからこそ、読み直したい小説です。
一方で、この小説を読んだことがないけれど、有名な作品だし、一度挑戦してみたいと考えている方も多いでしょう。
しかし、たくさんの訳書が発行されており、どれを選ぶべきか迷うかと思うかと思います。
各版の特長を比較してみました。
むかし読んだ、という方もいらっしゃるでしょう。
筆者も小学生の頃、岩波少年文庫で読みました。
ネモ船長の航海に否応なく巻き込まれてしまった主人公の冒険物語に心を踊らせながら読んだ記憶があります。
ところが最近、改めて新潮文庫の新訳で読み直したところ、子どもの頃に読んだときとあまりにも印象が違うため驚きました。単なる冒険小説ではなく、当時の最先端の科学知識を体験できる、好奇心を刺激してやまない博物館のような読み物だったのです。
おそらく、リアルタイムで読んだ人びとは、現代の日本人が「プラネットアース」をテレビで観ているような感覚で、この小説を読んでいたのではないかと、そんな気がしました。
子どもの頃に読んだ、というだけで済ませず、大人になったからこそ、読み直したい小説です。
一方で、この小説を読んだことがないけれど、有名な作品だし、一度挑戦してみたいと考えている方も多いでしょう。
しかし、たくさんの訳書が発行されており、どれを選ぶべきか迷うかと思うかと思います。
各版の特長を比較してみました。
新潮文庫『海底二万里』(上・下) 村松潔・訳(2012年)
まず、特長は膨大で詳細な注釈。固有名詞・動植物名にはいちいち注がついています。
新潮文庫版の注釈を読むと、この小説は、科学・博物学の知識を駆使して、テレビどころか写真すらまともに見られなかった時代の人びとを海底旅行へ誘い、知的好奇心を満たすために書かれたものだということがよくわかります。原書の挿絵もすべて使用しており、この本が書かれた当時のリアルな姿を堪能できます。
詳細な注釈とともに小説を味わうと、こんなにも楽しいものかと驚きます。
創元SF文庫『海底二万里』 荒川浩充・訳(1977年)
ずっと定番の創元SF文庫版。新潮文庫を褒め過ぎたあとで紹介しづらいのですが、いくつか特長があります。
ます、他の文庫がいずれも2分冊になっているのに対し、コンパクトに1冊にまとまています。また、1巻本であることもあって、価格も手頃です。
さらに、創元SF文庫は最もたくさんのヴェルヌ作品を収録している文庫であり、例えば「月世界へ行く」などは創元SF文庫でしか読めません。「海底二万里」「地底旅行」「八十日間世界一周」とともに、きれいに背表紙を揃えてコレクションすることもできます。
残念な点は、挿絵が原書のものではない点です。とはいえ、南村喬之画伯は怪獣、恐竜、戦記などの挿絵画家で昭和30~40年代のチビッコたちに絶大な人気を博しており、ファンも大勢います。あえて、この挿絵で読むという選択肢もアリでしょう。
福音館書店『海底二万海里』 清水正和・編訳(1972年)
児童向けとして刊行されていますが、立派な装丁の愛蔵版です。原書の挿絵も収録しており、永く書棚を飾るのに最適の本です。子どもの頃は、この本に憧れていましたが、高くて買ってもらえませんでした。
ちなみに、この福音館書店版は「二万里」ではなく「二万海里」となっています。
この小説は「海底二万里」「海底二万マイル」「海底二万哩」「海底二万海里」と、距離の単位が異なる幾つかの邦題があります。この点について少し説明しておきましょう。
「里」という単位は、もちろん日本の単位でヴェルヌの母国フランスにはこのような単位はありません。原題は「海底二万リュー」です。「リュー」は英語の「リーグ」に相当します。
実はこの「里」と「リュー」は音がよく似ているだけでなく、距離も約4キロと、だいたい同じなのです。
このため日本では「海底二万里」とするのが一般的ですが、1954年のディズニー映画が「海底二万哩」というタイトルで公開されました。「哩」は「マイル」を漢字で書いたものです。
このため、児童向けの本では「海底二万マイル」というタイトルがよく使われるようになってしまいました。
では、福音館書店版で「海里」となっているのはどういうことか。
この訳では「リュー」と「里」とが完全にイコールではないことから、「リュー」の訳語として「海里」を使うということがあとがきで明記されています。何の説明もなく「里」を使うよりは厳密な姿勢といえますが、「海里」という日本語はそれはそれで「リュー」とも「里」ともかけ離れた単位なので、やや混乱を生むタイトルではあります。