このブログでは江戸川乱歩や横溝正史の記事ばかり書いていますが、実を言えば、筆者がこれまでの人生で最も熱烈に愛した作家は島田荘司です。
その割には関連記事の数が少ないのですが、これには事情があって、島田荘司の本のほとんどを実家へ預けてしまっているのです。そのため、書きたいネタがあっても出典の確認ができないため、書くに書けないというわけです。
そんなわけで、今回は何も見ないで書ける記事でお茶を濁します。
筆者が島田荘司ファンとなった経緯を書いて、島田荘司の本をこれから読んでみようかな、という方の参考になれば、という程度の割りとどうでもよい内容の話であります。
筆者が島田荘司を初めて読んだのは平成元年のこと。ファンになってから初めて出た新刊が平成元年9月に刊行された「奇想、天を動かす」だったので、「占星術殺人事件」を読んだのはその少し前の6月くらいのことだったかな、と思います。
当時、筆者は中学2年生でした。
その前年の1年生のときはとにかく横溝正史一筋。この1年間は横溝正史の本以外は何も読まなかったのではないか、というくらい横溝漬けでした。すでに品切れの本がたくさんあったため、古本屋通いを覚えたのもこの頃です。
さすがにほぼ読み尽くし、次は「第三の男」高木彬光を読むかなあ、と思っていたところ、書店で「占星術殺人事件」を見かけて、手に取ったのでした。
島田荘司の名前は知っていました。横溝を読み進める参考に、と買ってきた文春文庫「東西ミステリーベスト100」にいくつかの作品がランクインしていたためです。
しかし、その頃は乱歩と横溝しか知らないミステリ初心者。
島田荘司は昭和56年末にデビューしており、当時はデビューして7年目くらいの時期です。現役バリバリどころか、まさに大活躍の最中だったのですが、現代作家のことは何も知らなかったため、「東西ミステリーベスト100」で紹介されている「占星術殺人事件」や「斜め屋敷の犯罪」のあまりに古臭い設定から、横溝正史と同世代くらいの大昔の作家だと思い込んでいました。
ところが、奥付や解説を確認すると意外にも現役の作家。
たっぷりした厚みからも「これは傑作に違いない」という雰囲気がビンビンと漂い、そのまま買って帰ってきました。
帰宅後に読み始めたら、サア大変!
冒頭の怪奇的な手記に始まり、あまりに不可能性に満ちた事件、奇矯な名探偵。
そして明かされる驚天動地の大トリック!
読んでいる最中、トリックが明かされる前からすでに大興奮してしまい、近所の本屋へ走って、光文社文庫から出ていた「斜め屋敷の犯罪」を買ってきたのでした。
「占星術殺人事件」を読了後は、ただちに「斜め屋敷の犯罪」に取り掛かります。
御手洗潔の魅力はますます増し、脳内は完全に島田荘司のことだけになり、この時点で「全作品読破」を決意しました。
さて、ここでクイズ。
「全作品読破」を決意した中学2年生が次に買った本は何でしょう?
これは絶対にわからないと思いますよ。
当時はまだ御手洗シリーズで文庫になっていたのは上記2冊のみで、気軽に読める本のほとんどは吉敷シリーズでした。
したがって順当に行けば、第三作の「死者が飲む水」か、あるいは吉敷シリーズ第一作の「寝台特急『はやぶさ』1/60秒の壁」あたりになるのですが、「全作品読破」を決意している筆者はそこへは行きません。
ヒントは、それまで読んでいた横溝正史は品切れになっている本が多く、古本屋を苦労して探し回っていたこと。
つまり、「のんびりしていると品切れになりそうな本から読むべし」と考えたわけです。
いつでも買える本は後回しでOK。ヤバそうな本から買っておかなくちゃ。
そんなわけで、次に買った本はカドカワノベルスで出ていた「ひらけ!勝鬨橋」でした。
これは、我ながら冴えた選択でしたね。案の定、光文社文庫が拾うまで数年間、入手困難になりましたので。
「占星術殺人事件」「斜め屋敷の犯罪」と同じ作者とは思えない小説ですが、しかしこれはこれで島田荘司のストーリーテリングを堪能できる、なかなかの良作です。
その次は「殺人ダイヤルを捜せ」を読み、さらに新潮文庫で出ていたエッセイ「砂の海の航海」を読むという複雑怪奇なルートを辿った上で、ようやく「寝台特急『はやぶさ』1/60秒の壁」を読んだというわけです。
えー、記事のタイトルからかけ離れた内容を書いていますが、すみません。軌道を修正します。
平成元年頃から島田荘司ファンをやっている身としては、やはり島田荘司は、おおむね発表順に読むのが良いのではないかと思います。
世間ではよく、デビュー作の「占星術殺人事件」から読むべきか、実質的な処女作の「異邦の騎士」から読むべきか、という議論がありますが、これはもちろん「占星術殺人事件」からです。
「占星術」は冒頭の手記が初心者の立ち入りを阻むので、まず「異邦の騎士」で島田ファンになってから……という「親心」もわからないではありませんが、筆者の経験で言えば、「占星術」冒頭の手記に怯むようでは、どうせまともな島田荘司ファンにはなれません。
ここは試金石の意味でも、「占星術殺人事件」からのスタートをオススメします。あらゆる意味で衝撃的な読書を保証できます。
また、御手洗シリーズにはその後、松崎レオナ、犬坊里美という何人かのヒロインが登場しますが、それぞれの初登場作は
松材レオナ→「暗闇坂の人喰いの木」
犬坊里美→「龍臥亭事件」
です。この辺はその後のシリーズ作に取り掛かる前に、早めに読んでおいたほうがよいと思います。
御手洗シリーズは発表順に読むとして、吉敷シリーズは?
これは「寝台特急『はやぶさ』1/60秒の壁」をまず最初に読み、「出雲伝説7/8の殺人」は読んでも読まくても良いですが(いや、これはこれで傑作ですが、順番の問題として)、次に「北の夕鶴2/3の殺人」を読んでおけば、あとはどんな順番でも大丈夫です。
「寝台特急『はやぶさ』1/60秒の壁」は吉敷のデビュー作なので、やはり最初に読んでおいたほうが、その後も作品の世界へ入りやすいでしょう。
「北の夕鶴2/3の殺人」は吉敷竹史の別れた奥さん・加納通子が初登場するのですが、吉敷シリーズにおいて通子の存在は非常に重要です。早めに読んでおくことをオススメします。さらに本書はそれだけでなく、奇想天外な怪現象、驚天動地の大トリックという、島田ミステリーの良いところが全て現れた大傑作でもあります。
さて、少し上で犬坊里美初登場作「龍臥亭事件」を早めに読むべし、と書きましたが、この小説は御手洗シリーズと吉敷シリーズがリンクする作品です。御手洗の相棒・石岡和己が主人公ですが、加納通子も出てきます。よって、「龍臥亭」より先に「北の夕鶴」は読んでおく必要があるというわけです。
というわけで、初心者の方は
「占星術殺人事件」→「斜め屋敷の犯罪」→「異邦の騎士」
「寝台特急『はやぶさ』1/60秒の壁」→「北の夕鶴2/3の殺人」→「龍臥亭事件」
を確実に済ませておけば、あとはどんな順番で読んでも問題ないでしょう。
細かいことをいえば「北の夕鶴」と「龍臥亭」とのあいだには、あと2つ「羽衣伝説の記憶」「飛鳥のガラスの靴」という加納通子登場作があり、特に「羽衣伝説の記憶」は吉敷と通子を語る上で重要作ですが(これがないと「龍臥亭」の通子をちょっと理解できない)、今は文庫も品切れになっているので、スルーするしかありません。
ここまで、御手洗・吉敷のシリーズ作品を紹介しましたが、その他の単発作品はどうでしょう。
これは、全く順番は気にしなくて良いです。
筆者が特におすすめの単発作品は
「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」「切り裂きジャック・百年の孤独」それから割りと最近の「写楽 閉じた国の幻」あたりですね。
そんなわけで、あまり良くわからなかったかもしれませんが、初心者におすすめの島田荘司特集でした。
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