1999年に講談社から刊行された「任侠映画伝」という本があります。
60年代の東映任侠路線をほぼ一人で取り仕切ったプロデューサー俊藤浩滋に山根貞男がインタビューしたものです。本書が刊行された2年後に俊藤は亡くなっていますが、劇場公開作として最後の作品となった「残侠」の公開にあわせて刊行されました。
俊藤浩滋は東映やくざ映画史を語る上では最もページ数を費やされるべき存在です。
映画界に入るまではヤクザだった……ということがよく冗談めかして言われますが、冗談ではなくて本当にヤクザだったんじゃないかというような迫力のある親分肌の人物で、鶴田浩二も高倉健も俊藤浩滋がいなければあれほどの大スターにはなり得ませんでした。
東映任侠路線が下火になると「仁義なき戦い」を皮切りに実録路線がスタートします。
「仁義なき戦い」一作目こそはプロデューサーに名を連ねた俊藤ですが、実録路線には否定的でした。あくまで任侠の美学を追求しており、「仁義なき」なんてのはとんでもない、という一貫した姿勢でした。このため、東映では立場がなくなり、同時に任侠映画も滅びます。まさに「残侠」というわけです。本書の終盤は俊藤の思いが溢れており、読んでいて胸が熱くなってきます。
というわけで、任侠映画好きには非常に興味深い内容の本なのですが、不満がないでもありません。
2段組で約300ページというそこそこのボリュームはあるのですが、それにしては非常に内容を薄く感じる。
東映に関するインタビュー本というと、本書の数年後に次々と刊行された「昭和の劇」「映画監督 深作欣二」「遊撃の美学」などがありますが、この辺の大作感が本書にも欲しかったところです。映画一編ずつに対する突っ込みが足りません。
とはいえ、俊藤浩滋をまともに扱った本というのは今のところ本書くらいしかなく、すでに亡くなっているので改めてインタビューすることもできない。つまり、東映任侠映画に関する証言としては唯一無二の本なのです。
そんな貴重な本なのに、単行本が出たきり、一度も文庫化されていないのはどういうわけなのか。
いくら時間が経っても本書の重要性は変わりません。どこか(できれば、ちくま文庫)が拾ってくるくれることを祈っています。
俊藤浩滋の愛人としても知られた銀座マダムの伝記。こっちは文庫にもなって版を重ねています。
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