備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

任侠映画

笠原和夫脚本「博奕打ち いのち札」ついにDVD発売!

201907いのち札327

東映ビデオからは未だDVDが発売されていない笠原和夫脚本・山下耕作監督の任侠映画「博奕打ち いのち札」。
デアゴスティーニから隔週で刊行が続いていた「東映任侠映画傑作DVDコレクション」の一本として、ついにDVD化されました!

この手のDVD付録つき雑誌、定価でDVDを買っているような熱心なファンは軽視しがちですが、ときどきこういう未DVD化作品が紛れているので油断できません。
同じくデアゴスティーニから出ていた「東宝・新東宝戦争映画DVDコレクション」は、「東宝・新東宝」というあまりに雑なくくりに呆れ、「東宝の戦争映画はどうせ全部DVDになってるし」と、まるでノーチェックだったのですが、その中に結城昌治原作・深作欣二監督・新藤兼人脚本の「軍旗はためく下に」が収録されてビックリしました。そもそも独立プロが製作しているので、東宝映画という認識がなかったのですが、配給は東宝だったんですね。
しかも、それに気づいたのは発売から数ヶ月後だったため、すでに出版社の在庫はなく、Amazonでは転売屋大活躍のプレミア価格になっているという……(ちなみに筆者は、10年以上前にアメリカでDVDが発売された際、輸入ショップで買っていたので、どうしても買わなければ、ということはなかったんですが)



ともかく、そういうがっかりな経験があるため、今回は「絶対に買い逃がさない」と心に決め、本屋でちゃんと予約しましたよ。
しかも、うっかり予約を忘れられては困るので、朝イチで「今日が発売日だから忘れないで取り置きしてくださいね」と念押しまでして、夕方に買ってきました。

「東映任侠映画傑作DVDコレクション」の刊行が始まって4年半。最初に発表されたラインナップの中で「これだけは絶対に買わねば!」と思い続け、ようやくです。他のラインナップでめぼしいものはすでに東映からDVDが出ているためコクション済み。笠原和夫ファンとしてDVD化を熱望していたので、感慨深いものがあります。

というわけで、出張やらなにやらでしばらく見る時間がないんですが、ともかくこれで「買わねば、買わねば」という強迫観念から解放されてぐっすり眠れます。ありがとうデアゴスティーニ。
この記事を読んでいる笠原和夫ファンのみなさんも、早めに購入されることをおすすめします!




関連記事:(=DVD化を待ち望んでいた記録)
笠原和夫脚本「博奕打ち いのち札」ようやくDVD化!
日本でDVDが発売されていない邦画2「博奕打ち いのち札」(1971年・山下耕作監督)
国書刊行会「笠原和夫傑作選」収録作品解説(第2回)

国書刊行会「笠原和夫傑作選 第一巻 博奕打ち 総長賭博――初期~任侠映画篇」入手

201811笠原和夫275

第一回配本にあわせて大騒ぎしていた国書刊行会「笠原和夫傑作選」ですが、第2回配本である「第一巻 博奕打ち 総長賭博――初期~任侠映画篇」が発売されました。(関連記事:国書刊行会「笠原和夫傑作選」刊行開始!



収録作品の紹介は、以前の記事で書いたので省略しますが、本編以外の収録内容を見ていきます。

まずは月報のような形でついている附録冊子。
まずは笠原和夫のエッセイ4編。
はばかりながら 笠原和夫
白牡丹想記 笠原和夫
総長賭博、お前、ありゃ芸術やで 笠原和夫
黒澤映画は私の青春に差し込んだ陽射し 笠原和夫
笠原和夫の「劇」と「女」 高橋洋
「はばかりながら」は、「キネマ旬報」1971年8月30日増刊〈任侠映画傑作選〉掲載のエッセイ。任侠映画ブーム末期に書かれたもの。読んだことあるなあ、と思ったら掲載号を持っていました。

201811笠原和夫276

この号には、笠原和夫のシナリオが2編、「博奕打ち いのち札」と共作の「日本侠客伝 関東篇」とが収録されています。任侠映画の特集号で、選者35人の投票による任侠映画ベスト30も発表されていますが、1位は「明治侠客伝 三代目襲名」(加藤泰監督・村尾昭、鈴木則文脚本)でした。

「白牡丹想記」は、藤純子引退記念作「関東緋桜一家」公開にあわせ、雑誌「シナリオ」に掲載されたもの。

201811笠原和夫277

「総長賭博、お前、ありゃ芸術やで」は、雑誌「シナリオ」1974年6月号に掲載されたエッセイ。ちなみに「シナリオ」のこの号には笠原和夫のシナリオは掲載されていません。

「黒澤映画は私の青春に差し込んだ陽射し」は、「キネマ旬報」1975年10月上旬号の「七人の侍」特集に寄せられた一文。実作者の視点から「七人の侍」へのかなり突っ込んだ批評になっており、黒澤明ファンとしても、これはかなり読み応えがありました。

最後は、なんと高橋洋による笠原和夫論!
これは高橋洋ファンでもある筆者には嬉しいものでした。
高橋洋については、こちらの記事参照:「地獄は実在する 高橋洋恐怖劇傑作選」2月9日発売予定!
相変わらず話が難しくて、電車の中でサラッと読んだ程度ではいまいち意味がよくわかりませんが、あとでもう一度じっくり読み直そうと思います。

さて、本編ですが、この巻でいちばん楽しみにしていたのは、ボーナストラックとして収録されている「映画三国志」です。
これは平成2年に日本テレビ「金曜ロードショー」の枠で放映されたドラマなのですが、「昭和の劇」でも全く触れられていない(巻末の作品リストにも載っていない)ため、筆者は存在すら知りませんでした。
大下英治の「小説東映 映画三国志」を原作したドラマということで、主人公はのちに京都撮影所長から東映社長まで務めた岡田茂ですが、ドラマでは「倉田勝」として、中村雅俊が演じていたようです。
東映の前身である東横映画への入社から、「きけわだつみのこえ」が大ヒットし、東映が設立されるまでの岡田茂の青春を描いています。
期待したような「義理欠く恥かく人情欠く三角マーク」のえげつない話ではありませんが、登場人部たちは非常に生き生きとしていて、魅力的です。片岡千恵蔵登場シーンは、「三本指の男」をロケ中で、ドラマではどんな風だったのかぜひ見てみたいものです。
前巻にも増して熱の入った伊藤彰彦氏による解説によれば、笠原和夫はこのドラマのために、原作以上に緻密な取材を敢行したとのことで、さすがです。

笠原和夫を「読む」
 

国書刊行会「笠原和夫傑作選」収録作品解説(第3回)

前回に続き、国書刊行会「笠原和夫傑作選」について。
今回は第3回配本である「第三巻 日本暗殺秘録――昭和史~戦争映画篇」の作品解説です。
昭和の闇を描き続けた笠原和夫にとって、この巻はまさに本領発揮。映画を鑑賞するだけでなく、シナリオを読み込む価値がある力作が並びます。晩年のインタビュー「昭和の劇」を読んでいても、最も面白いのはやはりこの時期ですね。

「日本暗殺秘録」(1969年 中島貞夫・監督 千葉真一・主演)
日本近代史上のテロ事件をオムニバス形式で描いた作品。なかなかソフト化されなかったためカルト映画のような扱いになっていましたが、今はDVDが出ています。
筆者も大好きな映画であり、以前にこのような記事も書いています。
笠原和夫脚本「日本暗殺秘録」鑑賞の参考図書





「あゝ決戦航空隊」(1974年 山下耕作・監督 鶴田浩二・主演)
「博奕打ち 総長賭博」など任侠映画の傑作を共に作ってきた山下耕作、鶴田浩二と改めて組んだ戦争映画。これまた名作。神風特別攻撃隊を創始し「特攻の父」と言われた海軍中将・大西瀧治郎を主人公にした物語です。
このように紹介すると非常に右翼的な内容と思われるかもしれませんが、笠原和夫のシナリオは天皇批判に満ちています。敗戦が近づくと、大西は「二千万人特攻論」を唱えますが、笠原和夫によればこれは「陛下も最後に特攻してほしい」という願望だったということで、後半はそのような思想で書かれたセリフががんがんと出てきます。
終戦をめぐる緊迫した雰囲気は「日本のいちばん長い日」を凌ぎます。「日本のいちばん長い日」では大西中将は単なる狂人として登場しますが、笠原和夫の徹底した取材に裏付けられた大西像は、従来のそのような見方を覆すリアリティがあります。




「大日本帝国」(1982年 舛田利雄・監督 丹波哲郎・主演)
これまた、右翼の皮をかぶった左翼映画。
篠田三郎演じる学徒出陣した中尉は、戦犯として処刑される際に「天皇陛下ッ、お先にまいりますッ」と叫びながら死んでいきます。要するに、陛下も後からついてきてくださるでしょう、ということ。
関根恵子演じるヒロイン・美代は、結婚したばかりの夫が召集されますが、その銃後の会話。
「天皇陛下も戦争に行くのかしら?」「天子さまは宮城だョ、ずーっと」
こんなセリフを昭和天皇存命中にバンバンと飛ばしていたわけです。
しかし、筆者としては最も感動したのはラストシーンです。
美代と夫・幸吉の再会シーン。
これは何度読んでも泣けます。もはやシナリオとは言えないレベルの描写。そして、映画本編を見ると、その通りの完璧な演技をしている関根恵子に驚き、またまた涙が出てきます。
個人的には、笠原和夫のシナリオの中で最も好きなシーンです。




「昭和の天皇」
(未映画化)
これはぜひとも映画を完成させてほしかった一本です。
「あゝ決戦航空隊」や「太平洋戦争」で激しく天皇批判を繰り広げた笠原和夫ですが、昭和天皇への思いは愛憎相半ばしており、同時代人として敬意を抱いていたことも伺われます。
「昭和の劇」の中で昭和天皇について語って部分は特に興味深いものです。
この「昭和の天皇」は、1984年(昭和59年)に執筆されたものですが、右翼関係への調整がうまくゆかず結局、流れてしまったようです。
どんな内容なのか読んでみたいとずっと願っていたところ、2010年に雑誌「en-taxi」の付録として刊行されたことがあり、筆者はその時に読みました。
内容的には極めて穏やかに、昭和天皇のよく知られているエピソードをまとめており、正直なところ笠原和夫にはもっと過激なものを期待してしまっていましたが、まあ商業映画として公開することを目的としているからには、妥当なラインだったのでしょう。
読んでみると拍子抜けですが、とはいえ、笠原和夫ファンとしては一読の価値があるシナリオです。

「226【第1稿】」(1989年 五社英雄・監督 萩原健一・主演)
二・二六事件を描いた、奥山和由製作の松竹映画。
ポイントは「第1稿」という点にあります。
「昭和の劇」では、この映画について奥山和由への不満をしきりに語っています。
笠原和夫は「二・二六事件は壬申の乱だった」、つまり昭和天皇と秩父宮との皇位をめぐる対立が背景にあったという考えを示しており、「226」の第1稿は、それを前提として物語が組み立てられていたようです。
監督はそのままの内容で撮りたがったということですが、タブーに触れる内容に恐れをなした奥山は秩父宮に関するくだりを外すよう要求し、代わりに「ハチ公物語」がヒットしていたから、犬を登場させてくれ、という話になり、笠原が考えていたのはまるで違う映画になってしまった、ということを語っています。
この映画のシナリオは劇場公開当時に書籍として刊行されていますが、改稿後のものです。
今回の「傑作選」では、どこに埋もれていたのやら、なんと幻の「第1稿」を収録するとのこと。「昭和の天皇」に期待したものの拍子抜けした「過激な笠原和夫」を、今度こそ期待しても良さそうです。




「仰げば尊し」(未映画化)
笠原和夫最後の脚本ですが、未映画化に終わっています。
三芳八十一著「だちかん先生」という、ほとんど誰も聞いたことのない本を原作に、田舎の教師と子どもたちとのふれあいを描くという、全く笠原和夫らしからぬ物語のようですが、笠原本人は、本来こういうのをやりたかったんだよ!と語っています。東映に入社してしまったがためにチャンチャンバラバラのシナリオばかり書いてきたが、それは本意ではなかったとのこと。
「昭和の劇」のインタビュワー荒井晴彦は、シナリオの教科書みたいなホンだと、絶賛しています。これまで公刊されたことはありませんが、この機会に「本来の笠原和夫」を読めるわけで、楽しみです。

笠原和夫を「読む」

スポンサーリンク
profile

筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

プロフィール

squibbon