今回は第44巻「人間豹」をご紹介します。昭和48年11月の刊行です。
原作は昭和9年から「講談倶楽部」に連載された同題の「人間豹」。
リライトは氷川瓏が担当しています。昭和29年にポプラ社から「少年探偵小説文庫」の一冊として刊行されました。これは、乱歩作品を少年向けにリライトした初めてのものと思われます。このシリーズにはほかに横溝正史、高木彬光、海野十三など収録されていますが、いずれもはじめからジュブナイル作品として書かれたものばかりで、リライト版は「人間豹」のみです。
(ポプラ社のサイトを参照:『少年探偵小説文庫(全13巻)』での検索結果)
表紙絵・挿絵とも岩井泰三が担当しています。いずれも本書の描き下ろしです。
原作は、乱歩作品最大の珍作です。しかし、これがやたら面白くて、個人的には大好きな作品です。
そもそも、「人間豹」は人間ではありません。明智小五郎よりも、仮面ライダーかバットマンが相手をしたほうがよさそうな、 まさしく「怪人」です。
どういうつもりでこんな作品を書き始めたのか、さっぱりわけがわからないのですが、 乱歩自身は「人間が人間に化ける話はいろいろ書いてしまったので、今度は人間がけだものに化ける怪異談を書こうとしたのであろう」と、これまたいまいちよくわからないコメントを残しています。
さて、改変の内容ですが、 主人公の神谷芳雄は青年ではなく、「少年」となっています。最初の犠牲者、弘子はカフェの女給ではなく、神谷の顔なじみの花売り。また、二番目の犠牲者、レビューの花形・江川蘭子は江川ハルミという名で、こちらも神谷の恋人ではなく、単なる仲のよい友人です。
神谷の名「芳雄」は小林少年とかぶっているのですが、小林君は原作にも登場し、リライト版にも登場します。いずれも、下の名前は書かれておらず、「小林少年」と表記されています。
さて、このあたり以外は、原作通りの展開で、人間豹・恩田の活躍がきちんと描かれています。明智小五郎シリーズ史上、最も人気があると言われる熊のきぐるみに入った文代さんもちゃんと登場しています。
本書で最も価値があるのは、表紙絵ではないかと思います。ここに描かれた恩田は、作中の描写を完璧に再現していて、原作ファンも一見の価値があります。原作を収録している創元推理文庫版には、岩田専太郎画伯の雑誌連載時の挿絵を収録していますが、本作ばかりは岩井泰三の圧勝です。
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