備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

井波律子

『水滸伝』備忘録 あらすじと登場人物(六回~十回)

201709水滸伝130

前回に続き、現在刊行中の新訳「水滸伝」(講談社学術文庫)を読みながら、メモとして作成しているあらすじと登場人物です。

第六回 九紋龍剪径赤松林 魯智深火焼瓦罐寺

登場人物: 魯智深、史進
あらすじ: 魯智深の旅はさらに続く。ある日、通りかかった瓦罐寺で一食を乞うが、断られる。この寺は僧侶のふりをした強盗二人、崔道成と丘小乙に乗っ取られていたのだった。寺の老僧から話を聞いた魯智深は二人とやりあうが、腹が減っていたためやっつけることができず、逃げ出す。しばらく行ったところで追い剥ぎに出くわすが、実はこれは史進だった。史進は魯智深と別れたあと、王教頭を探して旅を続けていたが、旅費が足りなくなったため、追い剥ぎをして調達しようとしていたところ、魯智深に出くわしたのだった。魯智深は史進から食料をわけてもらい、元気を取り戻すと二人で寺へ取って返し、崔道成と丘小乙を成敗する。寺の老僧たちは、はじめに魯智深が負けたのを見て絶望し、みんな首を吊って死んでいた。このため、魯智深と史進は瓦罐寺に火をかけて焼き払う。その後、史進はやはり朱武たちに混じって山賊になると話し、魯智深と別れる。魯智深は東京の大相国寺へたどり着く。大相国寺の長老は、魯智深のような暴れ者を押し付けられて弱ってしまうが、寺の菜園に近所のゴロツキが集まって野菜を盗んだりしているため、魯智深に管理させることにする。ゴロツキたちは新しく赴任する魯智深を肥溜めへ落として懲らしめようと画策する。

第七回 花和尚倒抜垂楊柳 豹子頭誤入白虎堂

登場人物: 魯智深、林冲、高?
あらすじ: 魯智深は、自分を肥溜めへ落とそうとしたゴロツキどもを逆に肥溜めへ放り込んだ。ゴロツキどもは魯智深に従うことを誓った。さっそく宴会が始まると、カラスの鳴き声が聞こえた。柳の木の上に巣を作っているのだ。魯智深はその柳の木を引き抜いてしまい、ゴロツキどもを平伏させる。そんなある日、魯智深が六十二斤ある特注の禅杖を振り回し、ゴロツキたちが喝采を受けていると、破れた塀の向こうから見ていた一人の役人が拍手を送った。この男こそ、八十万禁軍の教頭・林冲だった。妻と共に隣の廟へお参りに来たところ、魯智深の見事な武術に見惚れて、妻だけ先に行かせて眺めていたのだ。魯智深と意気投合して、さっそく酒を酌み交わそうとした時、召使いが飛んできた。林冲の妻が怪しげな男に捕まっているという。駆けつけると、妻にちょっかいを出していたのは高衙内だった。高衙内は高?の養子で、父の威勢を借りて、人妻へちょっかいばかり出していた。高?は林冲の直属の上司に当たるため、林冲は殴りつけたいのを我慢する。一方の高衙内は林冲の妻を手に入れようと画策し、林冲の友人・陸謙を使って林冲をおびき出すが失敗し、病に伏せる。それを知った高?は林冲を罪に陥れることにする。

第八回 林教頭刺配滄州道 魯智深大閙野猪林

登場人物: 林冲、張教頭
あらすじ: 林冲は冤罪を主張し、林冲の舅の張教頭も役人に袖の下を渡すなど、減刑のための活動をする。役人も冤罪を見抜いてはいるが、高?の手前、無罪にはできない。このため、死罪は避け、滄州へ流すこととし高?も了承する。残される妻を慮って離縁状を書こうとする林冲に、張教頭は「娘はどこへも嫁がせない。帰りを待たせる」と約束するが、林冲は頑なに離縁しようとする。それを知った夫人は嘆き悲しみ、気絶してしまう。林冲の護送を請け負った役人二人に、陸謙は金を渡し「護送の途中で殺してくれ」と依頼する。護送役人は林冲の足に大火傷を負わせてまともに歩けない状態にした上で、休憩をとった林の中で、殴り殺そうと棍棒を振り上げる。

第九回 柴進門招天下客 林冲棒打洪教頭

登場人物: 林冲、魯智深、柴進
あらすじ: 役人が棍棒を振り下ろそうとすると、林の中から禅杖が飛び出してきた。たまたま繁みの中にいた魯智深が、林冲と役人とのやりとりを全て聞いていたのだ。林冲は「この役人たちも陸謙から頼まれただけなので」と二人を殺さないよう魯智深に頼み、四人で旅を続ける。護送先の滄州が近づき、街中に入ると魯智深は大相国寺へ帰っていった。林冲たち三人は、このまちの柴大官人(柴進)が流罪になった罪人たちの面倒を見ていると聞き、その屋敷を訪れる。しかし、柴進は留守であった。がっかりしながら街から出ようとすると、一群の人馬とすれちがった。真ん中の若い男が林冲を見かけ、名を尋ねる。この男こそが柴進だった。林冲が名乗ると柴進は馬から降り、屋敷へ招く。柴進の屋敷へ出入りしていた洪教頭と林冲は勝負をすることになり、見事に洪教頭を打ち負かす。柴進は林冲にたくさんの金を持たせて送り出す。滄州の監獄は、看守に袖の下を渡すのが当然という場所だった。林冲は柴進から貰った金のお陰で看守から気に入られ、楽な役目に回してもらうことができた。その後も柴進からはちょこちょこと心付けが届き、いつしか四、五ヶ月が過ぎたある日、突然「林教頭、なぜあなたがここに」と呼び止められた。

第十回 林教頭風雪山神廟 陸虞候火焼草料場

登場人物: 林冲、李小二
あらすじ: 呼び止めたのは、いつか林冲が世話をしてやった居酒屋の給仕、李小二だった。李小二は、今は監獄の前で店を開いているのだった。李小二はなにかと林冲の面倒を見るようになった。ある日、李小二の店へ怪しい客がやってくる。実はこの客の正体は陸謙だった。李小二は林冲に気をつけるよう伝える。そのころ、林冲はマグサ場の管理を任されることになった。マグサ料の一部の懐へ入るおいしい役目で、ふつうは袖の下を弾まなければ任せてもらえない仕事だった。着任したのはちょうど大雪の日だった。林冲が酒を買いに外出しているあいだに、マグサ場の小屋は雪の重みで潰れてしまった。仕方なく近くの廟で過ごしていると、マグサ場で火の手が上がった。そして、三人の男が廟からマグサ場を眺め、「林冲を始末できて、高衙台も喜ぶに違いない」と言い合った。陸謙と看守とが謀って、林冲を殺すためにマグサ場の仕事を充てがい、小屋へ火をつけたのだった。林冲はその場で三人を槍で刺し殺す。林冲は大雪の中を役所へ向かって歩きはじめたが、途中の藁葺き屋根の家で暖を取らせてもらえないかと頼む。しかし、家にいた四~五人の男から冷たくあしらわれたために怒り、槍で殴りつける。男たちは逃げ出し、林冲は一人で酒を飲む。そこへ二、三十人で取って返してきた男たちに林冲は連行される。



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『水滸伝』備忘録 あらすじと登場人物(一回~五回)

201709水滸伝130

前回の記事に書いたとおり、「水滸伝」新訳刊行にあわせ毎月一冊ずつ読んでいるわけですが、登場人物があまりに多すぎて人間関係を覚えきれないので、備忘録をつけていきたいと思います。
興味のない方には何の価値もないコーナーですが、同じく「水滸伝」を読んでいる最中の方には便利なものになるのでは、と思います。
基本的には、一回ごとに登場する人物名、および簡単な人物関係とその回のあらすじです。赤字は百八星の初登場回です。5回ごとに記事をわけて連載していきます。

第一回 張天師祈禳瘟疫 洪太尉誤走妖魔

登場人物: 洪信
あらすじ: 天下の災厄を祓い清める天師を迎えるため龍虎山へ登った洪信は、そこで誤って伏魔之殿の封印を剥がしてしまい、妖魔を逃してしまう。

第二回 王教頭私走延安府 九紋龍大閙史家村

登場人物: 高?、王進、史進、朱武、陳達、楊春
あらすじ: 遊び人の高?は、蹴鞠の腕前を買われ、トントン拍子で出世し、殿師府大尉(近衛部隊の大将)に取り立てられる。殿師府教頭の王進は、高?が父の王昇を恨んでいることを知っていたため、命の危険を感じて逃げ出し、延安府を目指す。旅の途中、とある屋敷で泊めてもらうことになる。王進はこの屋敷の息子・史進に武芸を仕込むことになり、しばらく滞在して鍛える。王進が去って半年も経たないうちに史進は家督を継ぐことになるが、少華山の頂きに山賊が砦を築いていることを聞く。山賊は朱武、陳達、楊春の三人で、役所も捕まえられず、三千貫の懸賞をかけていた。一方、山賊たちは食料調達のために山を降りることを考えるが、史進の豪傑ぶりを噂に聞き、襲撃をためらう。陳達一人が、あとの二人の制止を聞かずに史進の屋敷へ攻撃を仕掛け、捕まってしまう。朱武と楊春は一計を案じ、二人揃って史進を訪ね、「陳達とは三人で義兄弟の契りを結び、一緒に死のうと誓いあっている。陳達が捕まったからには、我ら二人も共に役所へ突き出してほしい」と涙ながらに訴えた。史進は義に厚い二人を捕縛することができず、陳達ともども解放する。その後、史進と山賊三人のあいだには交流が生まれることになる。ところが、この交流が役所に知られるところとなってしまい、史進の邸宅で集まって酒盛りしているところを、役所の軍勢が取り囲んでしまう。

第三回 史大郎夜走華陰県 魯提轄拳打鎮関西

登場人物: 史進、魯達(魯智深)、李忠
あらすじ: 史進は屋敷に火を放つと、朱武、陳達、楊春と共に包囲を突破して逃げ出した。史進は師匠の王教頭を頼って延安府を目指すことにし、山賊に別れを告げる。山賊たちは砦へ戻っていった。史進は旅の途中、休憩した茶店で隊長の魯達(のちの魯智深)と知り合う。史進と魯達とが飲み屋を探しながら街を歩いていると、史進の昔の師匠、李忠と出会い、三人で飲むことにする。酒楼へ入ると、隣室から泣き声が聞こえる。事情を尋ねると、この父娘(金じいさんとその娘)は肉屋の鄭からひどい目に遭っているとわかった。魯達は金父娘に旅費を渡して逃がすことにし、翌朝、肉屋の鄭を訪ねる。そして鄭に無茶な注文をつけからかった挙句、殴り殺してしまう。魯達はそのまま街から逃げ出す。逃亡先の町で、高札があがり、人々が群がっているのを見かける。人垣の中へ潜り込んでいくと、突然、魯達の袖を引く者が現れる。

第四回 趙員外重修文殊院 魯智深大閙五台山

登場人物: 魯達(魯智深)
あらすじ: 魯達の袖を引いたのは、酒楼で助けた金じいさんだった。金は、自分のせいでお尋ね者になった魯達が自身の手配書を眺めているところに出くわしたため、匿うことにした。金じいさんの娘婿・趙員外の紹介で、魯達は身を隠すために五台山に登り、和尚となって、魯智深と名乗る。魯智深は仏門のことなど何も知らず、寺では騒動を巻き起こす。ある日、酔って仁王やあずまやを叩き壊してしまったため、とうとう五台山から追放されてしまう。

第五回 小覇王酔入銷金帳 花和尚大閙桃花村

登場人物: 魯智深、李忠、周通
あらすじ: 五台山の長老の弟弟子が住職をしている東京の大相国寺へ行くことになった魯智深。注文していた、特注の禅杖と戒刀が出来上がるのを待って旅に出た。途中、劉太公の屋敷で宿を借りる。屋敷全体が騒然としているため、どうしたのかと尋ねると、桃花山の山賊が太公の娘を娶るため、夜に屋敷を訪れることになっているという。魯智深は「自分が山賊を改心させる」と約束し、娘の部屋に隠れて待ち構える。そして、何も知らずに入ってきた山賊に、説教はせず殴りかかった。その後、山へ逃げ帰っていった山賊の兄貴分が劉太公の屋敷を襲撃する。立ちふさがった魯智深を見た山賊はカラカラと笑う。見れば、なんと李忠だった。魯智深に殴られた山賊は周通といい、李忠とやりあって打ち負かされ、弟分になっていたのだった。魯智深は劉太公の娘から手を引くことを約束させる。魯智深が旅立つことになると、李忠と周通は餞別を渡すため、桃花山の麓を通りかかった行列を襲うことにする。それを聞いた魯智深は呆れ、山賊の砦にあった金銀の酒器を潰して自分の荷物へ縛りつけると、山の裏を転げ落ちて立ち去った。李忠と周通の二人はその後も桃花山で山賊稼業を続けた。

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201709水滸伝130

「水滸伝」は子どもの頃、岩波少年文庫で読み大興奮して以来、完訳できちんと読みたいものだとずっと思っていました。
しかし、ここ最近は容易に入手できる完訳は吉川幸次郎訳の岩波文庫のみでした。吉川訳は「名訳」とされているのですが、終戦直後に翻訳されたものであり、また訳者の教養レベルがあまりに高すぎるため、店頭でパラパラ眺めても、筆者には「こりゃ、ムリだ」としか思えない文章です。
以前は駒田信二訳も刊行されており、講談社文庫やちくま文庫へ収録されていましたが、今はいずれも品切れになっています。駒田信二訳は吉川訳に比べると遥かに「ふつうの日本語」で書かれていましたが、入手が難しい状況です。

このため、どこかから駒田訳が復刊されるか、あるいは新訳が出るかしないかな、と思っていたところ、講談社学術文庫で今月から、井波律子による新訳刊行が始まりました。
筆者は「三国志演義」も、3年前にやはり講談社学術文庫へ収録された井波律子訳で読んでおり、すいすいと読み進められたため、「水滸伝」新訳の報には快哉を叫びました。
実際手にとってみると、吉川訳や駒田訳では書き下し文しかなかった詩に現代語訳が併記されていたり、細かい注釈がついているなど、期待通りの仕上がりです。訳文自体は駒田訳のほうがより話し言葉にちかく感じられて、筆者としては読みやすく感じるのですが、それはまあ読む前からわかっていたことで。「三国志演義」にも見られた井波訳独特のクセ(良く言えば、味)を飲み込めば、かなりスピードで読むことが出来ます。

岩波少年文庫では、ほぼ同時期に「西遊記」「三国志」も読みましたが、面白さでは「水滸伝」が断トツでした。とはいえ、小学5年生の時に読んだはずなので、すでに30年以上も昔のこと。正直、ほとんど全部忘れました。覚えているのは花和尚魯智深が肉屋に時間をかけてミンチを作らせた挙句、それを投げ捨ててその肉屋を殴り殺すシーンのみでしたが、改めて全訳を読んでみたら、思いっきり冒頭のエピソードでした。(しかも、まだ魯智深と名乗っていない)
登場人物があまりに多く、また脱線も多いので、あらすじを覚えているともう少しストレスなく読めそうですが、それにしてもやっぱり面白い。徹夜本と言ってもよいくらいハマります。

読みながら最も強く感じるのは、「任侠の源はここだったか」ということです。
出てくる豪傑はいずれも暴力・殺人・強盗を平気でやらかすアウトローばかりで、全員が官憲に追われている状態なわけですが、そんな登場人物たちに爽快さを見出し、共感することが出来るのは、彼らが一本筋の通った精神を持っているからです。それこそが任侠道。東映やくざ映画と全く同じ世界です。
法は犯しても任侠道には背かない。どんな身分の者であれ、任侠精神のない人間は悪人として描かれます。
実際、現実のヤクザの皆さんのあいだでも「水滸伝」は絶大な人気を博しているようで、「花和尚魯智深」をたまたまGoogleで検索したら、彫り物の画像がズラッと出てきてギョッとしましたが、確かに魯智深を背負って生きていきたい気持ちはよく理解できます。
理想的な「おとこ」が勢揃いしている、そんな小説なのです。

「水滸伝の全訳をいつかは読もう」と思っている方には、今回の新訳刊行の機会を強力にオススメします。
というのは、大長編を一度に全て通して読むとなるとけっこう大変なのですが、毎月1冊ずつであれば、たいした負担にならず、気がつくと最後まで読めてしまうものだからです。
筆者はこの方法でこれまで、「レ・ミゼラブル」「三国志演義」「新・平家物語」などの大長編を読破してきました。
「水滸伝」のように続きが気になって気になって……という小説の場合、続刊を待つのがつらい部分もありますが(「レ・ミゼラブル」もそうでした)、大長編読破を目論むならば、新訳刊行のタイミングは狙い目です。美本の入手も容易ですし(以前の記事参照)。

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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