備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

ポプラ社少年探偵団

ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集31「赤い妖虫」

31赤い妖虫038

今回は第31巻「赤い妖虫」をご紹介します。昭和45年8月の刊行です。
原作は「キング」に昭和8年から連載された「妖虫」です。
「キング」連載作品にはほかに「黄金仮面」「大暗室」などありますが、それらに比べると地味な印象があります。乱歩の自作解説では「動機はちょっと珍しい着想」という程度のことしか触れておらず、あとは本作の着想を流用した二十面相モノ「鉄塔の怪人」が映画化されたときの思い出という、あまり関係ない話を書いています。
リライトは氷川瓏が担当しています。初出は昭和31年「日本名探偵文庫12」としてポプラ社から刊行されました。
表紙絵・挿絵はともに柳瀬茂。いずれも昭和42年に刊行された「名探偵シリーズ」版からの流用です。

原作は明智小五郎ではなく、三笠竜介という老探偵が登場しますが、本書ではもちろん、明智小五郎が探偵役を努めます。三笠竜介は麹町にある二階建てレンガ造りの家に住んでいたため、本書の明智探偵事務所も麻布の二階建てレンガ造りということになっています。小林君も事務所に住み込んでいます。
また、主人公は原作では相川守という青年ですが、これが少年となり、賊に狙わえる珠子さんも高校生という設定です。乱歩が「ちょっと珍しい」と自負する動機は少年向けではないため、サラッと書かれて終わります。

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ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集30「大暗室」

30大暗室037

今回は第30巻「大暗室」をご紹介します。昭和45年10月の刊行です。
原作は「キング」に昭和11年から連載された同題の「大暗室」です。
「黄金仮面」「妖虫」につづいての「キング」での長編連載であり、乱歩自身、「おそろしく大時代的」と語っていますが、善玉悪玉の命懸けの闘争という筋立てをみると、相当な気合を込めて連載したのでは、と感じられます(成功しているかどうかはともかくとして)。
リライトは氷川瓏が担当しています。筆者が持っている本(1998年37刷)では「はじめに」でも氷川瓏と明記されていますが、当初は武田武彦がリライトしたと紹介されていたようです(筆者が子どもの頃に図書館で借りた本にも武田武彦と書いてあったように記憶しています)。
初出は昭和31年「日本名探偵文庫21」としてポプラ社から刊行されました。
(2017/12/20追記 中川右介「江戸川乱歩と横溝正史」によれば、武田武彦版の「大暗室」は昭和31年に小学館の雑誌「小学六年生」に連載されたもので、ポプラ社から出た氷川瓏版とは別に存在するようです。また名張図書館発行の「江戸川乱歩執筆年譜」には初出の単行本について「代作(氷川瓏。乱歩は武田武彦と記録。)」という記述があります)


表紙絵は柳瀬茂、挿絵は山内秀一が担当しています。いずれも昭和42年に刊行された「名探偵シリーズ」版からの流用です。

さて、このポプラ社のシリーズ中、最も派手な改変が施されているのが本書でしょう。
原作は、天使・有明友之助と悪魔・大曾根竜次の闘争物語でしたが、本書ではなんと明智小五郎と怪人二十面相の戦いということになっています(有明と大曾根はそれぞれの変名)。
怪人二十面相が人を殺すなんて……と、小学生時分に読んだ時はショックを受けたものです。
大筋では原作通りの展開なのですが、明智と二十面相とを導入したことで、親子二代にわたる因縁ではなく、大曽根竜次一代の物語となっています。また、原作では大人だった人物が少年・少女になっていたり、小林君が登場したりと、細かいところを挙げはじめるとキリがありません。

ところで、このたび30年ぶりに原作を読み返してみたのですが、リライト版がこの小説を明智と二十面相の物語に置き換えたのは、案外、的を得た処理だったかも、と思いました。
というのは、二十面相の悪事というのは、全体を通して明確な動機がありません。いったい何の意図があって子ども相手に幼稚な悪さばかりしているのか。全体を通し特に説明がなく、バイキンマンが執拗にアンパンマンを攻撃しているのと同じくらい謎なのですが、大曾根の悪事は、それと同じで、全く理由がないのです。
にもかかわらず、大曾根は壮大な悪を夢見て、有明は明朗快活に戦う。これは二十面相と明智の関係と同じだ、と気づいた氷川瓏はエライ、と今さらながら思いました。

Amazon販売ページ(古本は入手できます)
30大暗室037
江戸川 乱歩
ポプラ社
1970-10


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ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集29「魔術師」

29魔術師036

今回は第29巻「魔術師」をご紹介します。昭和45年10月の刊行です。
原作は講談社の雑誌「講談倶楽部」に昭和5年から連載された同題の「魔術師」です。
「講談倶楽部」は「キング」と並ぶ講談社の看板雑誌で、「蜘蛛男」に引き続いて連載されたものです。
本書のリライト担当は氷川瓏ですが、本書の中には明記はありません。初出は、昭和32年「名探偵明智小五郎文庫1」としてポプラ社から刊行されています。
表紙絵は柳瀬茂、挿絵は山内秀一が担当しています。いずれも昭和42年に刊行された「名探偵シリーズ」版からの流用です。

原作は、のちの明智夫人となる文代さんの初登場作ということで、ファンにとっても重要な作品です。本書でも、そのあたりはきっちりと描かれています。原作は、その後「吸血鬼」事件につながることを記しつつ幕を閉じますが、本書は「べつの物語に」という表現で、ぼかされています。
大きな違いとしては、原作で妙子の兄として登場した二郎青年が、探偵好きな弟の二郎少年となっています。話の展開上、それで全く問題はありません。また、波越警部が中村警部となっていますが、乱歩作品において両警部の使い分けには明確な意図が感じられないため、これまたノープロブレム(横溝正史の場合だと、磯川警部と等々力警部とは全く別人なので、磯川警部登場作がドラマ化されて等々力警部になっていたりすると、それだけでイライラしますが)。

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28呪いの指紋035
江戸川 乱歩
ポプラ社
1970-10


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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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