備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

ポプラ社少年探偵団

ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集34「緑衣の鬼」

34緑衣の鬼040

今回は第34巻「緑衣の鬼」をご紹介します。昭和45年8月の刊行です。
原作は「講談倶楽部」に昭和11年に連載された同題の「緑衣の鬼」。イギリスの作家イーデン・フィルポッツの「赤毛のレドメイン家」を下敷きとした小説です。
リライトは氷川瓏が担当しています。初出は昭和33年「名探偵明智小五郎文庫3」としてポプラ社から刊行されました。
表紙絵は柳瀬茂、挿絵は武部本一郎が担当。昭和42年「名探偵シリーズ」版からの流用です。

「赤毛のレドメイン家」は、乱歩が激賞したおかげ今でも海外ミステリの古典としてよく知られています。
乱歩が感心したポイントして、登場する男女の恋愛が事件の進展や解決へ大きく影響を与えるということがあります。「緑衣の鬼」原作版でも、その点はしっかりと、というかむしろ強調しすぎなきらいがあるくらい書き込まれています。
その恋に狂う探偵小説家・大江白虹の役割を、リライト版「緑衣の鬼」では小林君が努めます。原作の折口幸吉の役を務めるのが「大江少年」。芳枝さんとの関係が「姉の友だち」という点で大江白虹の役を一部引き継ぎますが、物語自体には折口と同じく、ほとんど登場しません。(そもそも、「赤毛のレドメイン家」には折口に相当する人物はいないのですが)
また、原作の「緑衣の鬼」には明智は登場せず、乗杉龍平という探偵が登場します。「赤毛のレドメイン家」という原作があるため、明智を出しづらかったのかも知れませんが、あるいは読者に「もしかして探偵が犯人?」と疑わせるために明智ではない名探偵を出してきた可能性もあります。というのは、原作では恋に惑う大江白虹が、「お前が犯人だ」と乗杉に詰め寄るのです。
しかし、リライト版では、大江役を小林君が努め、乗杉役を明智が努めているため、小林君が明智先生を告発することなどできません。また、小林君は少年なので、もちろん未亡人に恋心を抱いたりはせず、したがって、曇った目で推理を披露することもありません。
このため、原作では重要となっているこのシーンでは、突然登場してきたド田舎の警察署長さんが、明智先生に「犯人はお前だろう」と、詰め寄ることになります。
恋に目がくらんだのではなく、単なる田舎者でよくわかっていなかっただけ。恋愛ミステリのクライマックスがえらくショボい展開になってしまいました。

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34緑衣の鬼040
江戸川 乱歩
ポプラ社
1970-08-30


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ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集33「黒い魔女」

33黒い魔女041

今回は第33巻「黒い魔女」をご紹介します。昭和45年11月の刊行です。
原作は新潮社の大衆文芸雑誌「日の出」に昭和9年に連載された「黒蜥蜴」。三島由紀夫が戯曲化し、その舞台や映画などで非常に有名な乱歩の代表作の一つです。
リライトは氷川瓏が担当しています。初出は昭和32年「名探偵明智小五郎文庫2 黒いトカゲ」としてポプラ社から刊行されました。昭和42年に「名探偵シリーズ」へ収録される際、「黒い魔女」と改題されました。
表紙絵は柳瀬茂、挿絵は岩井泰三が担当。いずれも「名探偵シリーズ」版からの流用です。

原作は比較的短めの話なので、小林君が無理やり顔を出す以外は、ストーリーはほぼ原作通りです。
本書の大きな改変ポイントは、過激なシーンです。
・冒頭のストリップシーン
黒蜥蜴が宝石を散りばめたアクセサリー以外、一糸まとわぬ姿となって踊りますが、本書では真っ黒なイブニングドレスで登場するだけ。
・左腕の刺青
トレードマークの黒い蜥蜴は、左腕に彫った刺青から「トカゲをデザインしたブローチ」に変わっています。迫力なさすぎ。
・囚われた早苗さん
原作では裸で牢屋へつながれますが、本書では「からだにぴったりとあったナイロンのシャツ」を着せられています。ちなみに、博物館の標本も、みんなナイロンのシャツを着ています。(どっちかというと、こっちの方がいやらしくないですか?)
・ラスト
明智が黒蜥蜴の額へ口づけしますが、本書ではそのようなことはしません。

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ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集32「地獄の仮面」

32地獄の仮面039

今回は第32巻「地獄の仮面」をご紹介します。昭和45年10月の刊行です。
原作は「報知新聞」に昭和5年から連載された「吸血鬼」。乱歩最長の長編であり、前作「魔術師」で出会った明智小五郎と文代さんとが結婚したことが明かされる一篇です。また、明智の助手として小林少年が、二十面相シリーズに先駆けて初めて登場した作品でもあります。
リライトは氷川瓏が担当しています。初出は昭和33年「名探偵明智小五郎文庫4」としてポプラ社から刊行されました。
表紙絵は柳瀬茂が担当。昭和42年に刊行された「名探偵シリーズ」版からの流用です。
挿絵は岩井泰三で、これも「名探偵シリーズ」からの流用と思われます。名張市立図書館の「江戸川乱歩著書目録」には、本書も「名探偵シリーズ」も、挿絵は武部本一郎とありますが、これは誤りでしょう。

原作は文代さんも小林君まで出てくるので、少年向けリライトにあたって、無理やり設定を変更する必要は全くありません。ストーリーは、原作を適度に圧縮しながら、大きな改変はなく展開していきます。
大きな違いといえば、ラスト、氷柱に閉じこめられる母子が、原作では真っ裸なのに対して、本書では裸なのか服を来ているのか、何も説明がないという点くらいでしょうか。

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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