備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

ポプラ社少年探偵団

ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集37「暗黒星」

37暗黒星044

今回は第37巻「暗黒星」をご紹介します。昭和46年4月の刊行です。
原作は昭和14年に雑誌「講談倶楽部」に連載された同題の「暗黒星」。
リライトは氷川瓏が担当しています。初出は昭和33年「名探偵明智小五郎文庫7」としてポプラ社から刊行されました。
表紙絵は武部本一郎、挿絵は木村政志が担当。いずれも本書の描き下ろしです。

黒岩涙香にも「暗黒星」というタイトルの作品がありますが、この作品とは全くつながりはありません。
「地獄の道化師」と同じく、探偵小説を書くのが難しくなってきた戦前最末期の作品であり、長編としては非常に短い仕上がりです。

この作品も、原作にも明智小五郎が登場するため、リライト版では大きな変更はありません。謎の覆面男がバットマンのようなイラストになっていてかっこいいです。
 作品が短いため、本書には乱歩のデビュー短編「二銭銅貨」も併録されています。
こちらは主人公を明智に変更されており、 学生時代の話ということになっています。友人の松村が見事の暗号文を解くと、明智が「ウワハハハ……」と笑い飛ばし、「勝負はやはり明智の勝ちであった」という一文で物語が終わるという、原作の「私」に比べるとかなり嫌なヤツになっています。

Amazon販売ページ(古本は入手できます)
37暗黒星044
江戸川 乱歩
ポプラ社
1971-04


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ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集の27巻以降

ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集36「影男」

36影男043
今回は第36巻「影男」をご紹介します。昭和46年4月の刊行です。
原作は昭和30年に光文社の雑誌「面白倶楽部」に連載された同題の「影男」。
リライトは氷川瓏が担当しています。初出は昭和35年「名探偵明智小五郎文庫15」としてポプラ社から刊行されました。
表紙絵は吉田郁也、挿絵は中村猛男が担当。表紙絵は本書の描き下ろしですが、挿絵は「名探偵明智小五郎文庫」からの流用と思われます。

乱歩の戦後の長編は数えるほどしかありませんが、還暦を迎えた昭和30年にそのうち三編が集中しています。ほかは『化人幻戯』、『十字路』と、乱歩としては新機軸を打ち出したものですが、『影男』のみは戦前の通俗長編に回帰した内容で、「パノラマ島奇談」と「大暗室」とをミックスしたような話です。乱歩自身も、この年に書いた長編の中では、「私の体臭の最も濃厚なもの」としています。

原作には明智小五郎も登場するため、リライト版では大きな変更はありません。過激なシーンを削除したり、表現を薄めている程度で、ほぼ原作通りに展開します。
底なし沼へ沈められる女性については、子供心にもショッキングでしたが、断末魔の叫びをあげている挿絵までついていて、これはシリーズ中随一のトラウマイラストでした。
乱歩の戦後作品は、戦前に比べると文体がやや明るくなっている印象があり、例えば「ぺてん師と空気男」などにそれは顕著ですが、原作となった「影男」もピカレスク 小説としても読めるような雰囲気があります。リライト版では、その辺の魅力が消えてしまい、他の通俗長編とほとんど変わらない印象になってしまっているのが、残念なところです。

Amazon販売ページ(古本は入手できます)
36影男043
江戸川 乱歩
ポプラ社
1971-04-15


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ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集35「地獄の道化師」

35地獄の道化師042

今回は第35巻「地獄の道化師」をご紹介します。昭和46年4月の刊行です。
原作は昭和14年に雑誌「富士」に連載された同題の「地獄の道化師」。
リライトは氷川瓏が担当しています。初出は昭和34年「名探偵明智小五郎文庫9」としてポプラ社から刊行されました。
表紙絵は柳瀬茂、挿絵は岩井泰三が担当。いずれのイラストも本書の描き下ろしです。

原作の掲載誌である「富士」というのは、講談社の雑誌「キング」が、戦時中、敵性語を避けるため誌名を変更していたものです。したがって、「黄金仮面」や「大暗室」と同じ雑誌に掲載されたということになります。
誌名が変更されていることからもわかる通り、この頃は世の中が対米英戦へと向かいつつある時期で、探偵小説への圧力も強くなってきており、この年を最後に乱歩の戦前の長編連載は終わることになります。
そのいったこともあってか、長編としては非常に短い仕上がりです。
また、冒頭は「蜘蛛男」、犯人像は「妖虫」の焼き直しような感じで、あまりパッとしない作品です。
原作もリライト版も、大きな筋にほとんど変更はありません。明智先生も小林君も原作にちゃんと登場するので、とてもリライトしやすかった作品の一つでは、という気がします。

作品が短いため、本書には短編「心理試験」のリライト版も掲載されています。こちらも氷川瓏の筆になります。原作を忠実に、そして簡潔に要約しており、子どもの頃に読んだときも、非常に面白く感じたことをよく覚えています。本書の価値は、どちらかというとメインの「地獄の道化師」よりも、「心理試験」の方にあるように思います。

Amazon販売ページ(古本は入手できます)


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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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