備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

スルース

ピーター・アントニイ「衣装戸棚の女」は映画「スルース」好きにおすすめ

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毎年恒例の創元推理文庫復刊フェア。
今年のラインナップには「衣装戸棚の女」が入っていたので買ってきました。
この本、それほど激レアというわけではないのですが、筆者はこれまでずっと買うタイミングを逃していました。以前にこちらの記事に書いたとおり、 小口研磨本を買えないという持病のため、書店で平積みされている期間に買い損ねると、あとで棚に並んでいても手を出せなくなってしまうのです。
数年ぶりの重版となる今回は、Twitterという文明の利器のおかげフェア開始前から情報を入手でき、ようやく美本で購入できました。

というわけで、今回はじめて読みました。
ピーター・アントニイというのは兄弟合作のペンネームなのですが、その正体はピーター・シェーファーとアンソニー・シェーファー。ピーターは「アマデウス」の作者、アンソニーは「スルース」の作者といういずれも偉大な代表作を持つ天才劇作家です。
解説を読むとあまりエッセイなどを書いていないようで、ミステリの好みなどはよくわからないのですが、戯曲「スルース」や映画「ナイル殺人事件」「ウィッカーマン」の脚本などを執筆したアンソニー・シェーファーがミステリマニアであることは間違いありません。(「スルース」については、以前にこちらの記事で紹介しています)
また、モーツァルトを描いた「アマデウス」も、全体の構成は実にミステリ的なんですよね。

会話によって物語がどんどんと展開していくのは、さすが劇作家コンビです。
密室には死体が一つと、クローゼットに紐で縛られて放り込まれていた女が一人。容疑者が窓から出入りしているところが目撃されたりなど、いろいろな要素が複雑に絡み、あらゆる面から事件が検証されていくという本格ミステリです。
そして最後に明かされるネタ! これは「スルース」の作者らしい人を食ったものですね。ドタバタしたユーモラスな展開のおかげでとても愉快な気分で読み終えました。しかし考えてみると、こういうことをユーモアで包まずにガチでやっているのが島田荘司だよな、とも思いました。
ちなみに、筆者が「スルース」を知ったのは、島田荘司「斜め屋敷の犯罪」の中で、御手洗潔がこの映画についてひとくさり語るシーンがあったためです。

ともかく、映画「スルース」が好きな方にはぜひおすすめの一冊です。この機会をお見逃しなく。

衣裳戸棚の女 (創元推理文庫)
ピーター・アントニイ
東京創元社
1996-12-21



日本でDVDが発売されていない名画その1「探偵スルース」

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DVDが普及してから20年近く経ったものの、名作と言われながら、なぜか未だに日本でDVDが発売されていない映画がたくさんあります。
その中で、筆者が海外盤を持っているものを、そのレビューも兼ねてご紹介します。
第一回目は1972年の映画「探偵スルース」。

これはミステリ映画の名作の一つと数えられており、筆者も大好きな映画です。
老作家(ローレンス・オリヴィエ)の元を訪れる、青年(マイケル・ケイン)。青年は作家の妻と不倫関係にあるのだが、作家は青年に対して実に意外な申し出をする……という形で幕を開けます。
登場人物はわずかこの2人だけ。
にも関わらず、騙しあい、盗難、殺人、謎解き、どんでん返し、とミステリのお愉しみがぎっしり詰まっているというミステリ好きにはたまらない作品です。
筆者がこの作品を知ったのは、島田荘司「斜め屋敷の犯罪」の中で、御手洗潔が「おや、こりゃ『スルース』の!」と叫んで、この映画について一くさり語るというシーンからなのですが、その後、NHKのBS放送で放映されたときに初めて観ました。

日本でも人気のある映画なので、当然DVDが発売されていてもおかしくないのですが、なぜか出ていません。
2007年には老作家をマイケル・ケイン、青年ジュード・ロウという配役でリメイクされたので、いよいよ旧作もDVD化か、と待ち構えましたが、やはり何のニュースもありませんでした。

さて、国内盤は未発売ですが、アメリカでは何度か形を変えて発売されています。
筆者は2002年に発売されたものをAmazon.comで取り寄せて持っています。
このディスクはリージョンフリーのため、日本のプレイヤーでも再生できます。
確認のため、現在、我が家にあるソニーの「BDZ-ZW1500」にも入れてみましたが、ちゃんと再生できました。
(ただし、現在Amazon.co.jpで検索すると、リージョン1と表示されています。DVDは製造時期によってリージョン制限が異なる場合があるため、これから購入を検討されている方に保証はできません)

Sleuth [DVD] [Import]
Laurence Olivier
Anchor Bay
2002-07-29


しかし、このディスクには残念な点があります。字幕が収録されていないのです。
日本語字幕がないのは当然ですが、英語字幕もありません。
二人だけの全編セリフ劇といってよい作品のため、筆者のように英語ヒアリング能力がゼロの人間は字幕がないとさっぱり内容がわかりません。

ただし、クローズド・キャプションという字幕情報だけは入っています。
クローズド・キャプションはDVDの字幕機能(subtitle)とは異なるもので、映像データの中に信号が入っており、テレビ画面に字幕を表示できる機能です。
アメリカではテレビ放送にクローズド・キャプションの信号が含まれているなど一般的なものですが、日本では馴染みのない規格のため、普通では見られません。
一昔前のDVDプレイヤーであれば、プレイヤーとテレビとをつなぐ映像ケーブルのあいだにデコーダをかませてやれば表示できたため、筆者はその形で字幕を表示させていましたが(アメリカのDVDにはほぼクローズド・キャプションが含まれているのです)、HDMIケーブルでプレイヤーとテレビとをつなぐようになると、あいだにデコーダをかますことが出来ません。
しかし、パソコンで再生すると、ソフトにもよりますが、クローズド・キャプションは表示できます。

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この映画は舞台劇が元になっています。この戯曲を書いたアンソニー・シェーファー自身が映画の脚本も担当しています。
アンソニー・シェーファーは他に「ウィッカーマン」「ナイル殺人事件」などの脚本で知られており、また双子の弟であるピーター・シェーファーは「アマデウス」を手がけているという、天才兄弟です。
兄弟の合作で「衣装戸棚の女」というミステリ小説も書いています。

衣裳戸棚の女 (創元推理文庫)
ピーター・アントニイ
東京創元社
1996-12


映画の元になった戯曲は、実は日本でも出版されています。南雲堂から大学用の語学テキストとして販売されているのです。
筆者はなんとも幸運なことに、大学時代にこのテキストを使っていた先生の授業を受けることができ、一年かけてじっくりと堪能することができました。
この本、Amazonで検索しても出てきませんが、恐らく書店では取り寄せができるだろうと思います。
http://nanun-do.hondana.jp/book/b250978.html
筆者は学生時代に授業で使ったものを、未だに大切に持っています。
DVDに字幕がなくても、このテキストがあれば、セリフも展開もほぼ同じなので、問題ありません。

しかし、英語の戯曲がそのまま出版されているのに、DVDが手に入らないって、なんだこの状況は……。
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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