(リンク先はAmazon)
昨年夏にCGを駆使したディズニー映画が公開され話題となった「ジャングル・ブック」。
あちこちの文庫から原作の新訳も刊行されました。
この機会に読んでみようという方のために、各文庫の特色をご紹介します。
「ジャングル・ブック」について
まずは、「ジャングル・ブック」とはどんな小説でしょうか?原作は19世紀末にイギリスの作家ラドヤード・キプリングによって書かれました。キプリングはのちにノーベル文学賞を受賞します。
物語はイギリス統治時代のインドのジャングルが舞台となっています。人間界から離れてジャングルに住む少年モウグリと動物たちとの交流がメインの連作短編集です。
実は原作では、モウグリが登場しないエピソードもいくつか書かれているのですが、日本で刊行されている翻訳のほとんどでは、主人公はモウグリということになっており、それ以外のエピソードは省略されています。
もともとは「The Jungle Book」「The Second Jungle Book」と2冊に分かれて刊行されていますが、その中からモウグリが登場する8篇を選ぶのが、一般的なのです。
また、ディズニー映画でも、かつてのアニメ版、今回の実写版いずれも、やはりモウグリが登場しないエピソードは省略されています。
もちろん、「ジャングル・ブック」全体で最も重要なのはモウグリの物語ですし、また、映画を見て原作も……という方にはこれで十分なわけですが、せっかくだからキプリングの書いた全てを読みたい、という方には、実は選択肢は一つしかありません。
角川文庫『ジャングル・ブック』『ジャングル・ブック2』 山田蘭・訳
それは角川文庫です。角川文庫版も今回の映画化にあわせて新たに訳出されたものですが、完全訳を原著通り2冊にわけて出しています。それ以外には、これといった特長はないのですが、実は「ジャングル・ブック」の完訳は、過去にもほとんど例がなく、大変な偉業と言ってもよいことなのです。
新潮文庫『ジャングル・ブック』 田口俊樹・訳
今回の映画化にあわせて、新潮文庫からも新訳が出ましたが、こちらはモウグリの話だけを集めています。新潮文庫の良い点は、原著の挿絵を収録しているところです。これは、他の文庫にはありません。筆者はこの点が気に入って、新潮文庫版で読みました。
ミステリの翻訳を数多く手がけている田口俊樹氏が訳しているのがちょっと意外です。
文春文庫『ジャングル・ブック』 井上里・訳 金原瑞人・監訳
一方、文春文庫の売りは、児童文学翻訳の第一人者、金原瑞人氏が「監訳」している点でしょう。この偕成社文庫版が全2冊にわかれており、「完訳版」と謳っているため、「お、これは完全訳か?」と思ってしまうのですが、実は2冊にわけているだけで、内容はモウグリのエピソードのみです。それぞれの短編については、完訳、ということのようです。まあ、サブタイトルに「オオカミ少年モウグリの物語」とありますので、嘘はついていないのですが、若干紛らわしいです。
児童向けの翻訳は、ほかにも岩波少年文庫などいろいろ出ていますが、完全訳はありません。
というわけで、完全訳をお望みなら、角川文庫版を、そうでなければ、お好みで新潮文庫か文春文庫を、というのが本日の結論です。