備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

シナリオ

笠原和夫 シナリオコレクション

前回の記事に引き続き、笠原和夫の話題です。
前回ご紹介した『昭和の劇』を読んでいると、シナリオそのものを読みたいという気になってきます。
実際、映画本編と比べてみると、実はシナリオそのものを読んだ方が、一つ一つのセリフの輪郭がくっきりと浮かび、迫力を感じられます。
笠原和夫ファンは、ぜひシナリオを読んでみることをおすすめします。

とはいえ、実はこれがなかなか難しい。
いくつかのシナリオは公刊されており、どんな形で刊行されているのかさえわかれば、古本屋などで比較的容易に入手できます。
しかし、いったいどんな本、あるいはどの雑誌のどの号に収録されているのか、網羅的にチェックできるものがないため、調べるのは大変です。
筆者は古本屋のサイトなどを定期的に巡回したり、あるいは笠原和夫作品が劇場公開された辺りの雑誌の内容を検索してみるなどして、かなり入手しましたが、しかしこれが刊行された全てとは思えません。
可能であれば、手に入るシナリオは全て読みたいと思っており、今も収集は継続中ですが、同じように笠原和夫のシナリオを探している方のため、参考までに筆者の手元にある笠原和夫のシナリオが収録された書籍・雑誌を発表年代順にご紹介します。

公開年 タイトル
1964年 日本侠客伝 「シナリオ」2015年3月号(高倉健・菅原文太の追悼特集で)
1965年 股旅三人やくざ 『笠原和夫 人とシナリオ』 シナリオ作家協会 2003年11月
1965年 日本侠客伝 関東篇 「キネマ旬報」1971年増刊8.30号(特集:任侠映画傑作選)
1968年 博奕打ち 総長賭博 『笠原和夫 人とシナリオ』
1969年 日本暗殺秘録 『笠原和夫 人とシナリオ』
1971年 博奕打ち いのち札 『笠原和夫 人とシナリオ』
1972年 関東緋桜一家 「シナリオ」1972年4月号
1973年 仁義なき戦い 『仁義なき戦い』 幻冬舎アウトロー文庫 1998年
1973年 仁義なき戦い 広島死闘篇 『仁義なき戦い』
1973年 仁義なき戦い 代理戦争 『仁義なき戦い』
1974年 仁義なき戦い 頂上作戦 『仁義なき戦い』
1974年 あゝ決戦航空隊 『笠原和夫 人とシナリオ』
1975年 県警対組織暴力 『笠原和夫 人とシナリオ』
1976年 やくざの墓場 くちなしの花 「シナリオ」1976年11月号
1980年 二百三高地 「シナリオ」1980年10月号
1982年 大日本帝国 「シナリオ」1982年8月号
1983年 日本海大海戦 海ゆかば 「シナリオ」1983年7月号
1984年 零戦燃ゆ 「シナリオ」1984年9月号
1989年 226 『226 昭和が最も熱く震えた日』 双流社 1989年6月

未映画化シナリオ
1963年 いれずみ決死隊 『昭和の劇』太田出版 2002年11月
1974年 実録・共産党 「映画芸術」2003年春号
1975年 沖縄進撃作戦 『映画はやくざなり』 新潮社 2003年6月
1984年 昭和の天皇 「en-taxi 第29号」2010年

雑誌「シナリオ」は、かつては笠原和夫のホームグランドのような状態で、代表作はだいたい映画公開時に掲載されていますし、エッセイや対談もたくさん載っています。『昭和の劇』に収録されたものもありますが、掲載誌でしか読めないものも多くあります。しかし、エッセイや対談はシナリオ以上に収録された雑誌の号数を調べる方法がなく、困っています。
ただ、古本は非常に入手しやすいです。神保町の矢口書店にはリーズナブルな値付けで大量に置いてありますし、ネット通販でもごろごろ転がっているので、目的の号数さえはっきりしていれば、簡単に見つかります。

また、公刊された書籍・雑誌以外にも、映画制作現場の関係者から流出する台本も古本屋では目にします。
こちらは目的のものを探し出せるかどうかは運次第で、かなり難しいのですが、筆者はたまたま「真田幸村の謀略」(1979年)を矢口書店で見つけて持っています。これは昭和史とは関係ない娯楽時代劇なので、興味が無いといえば全く無いシナリオではあるのですが。

2018年9月追記:
国書刊行会から「笠原和夫傑作選」が刊行されることとなり、笠原和夫の代表作はほぼそこで読めるようになる見込みです。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
国書刊行会「笠原和夫傑作選」刊行開始!



関連記事:
笠原和夫を「読む」

笠原和夫を「読む」

「仁義なき戦い」などで知られる映画脚本家・笠原和夫の著作をまとめてみます。
代表的な著作である『昭和の劇』を読むとよくわかりますが、笠原和夫が好んで書いたテーマは、ひとことで言えば「昭和の闇」です。

・ヤクザ……「仁義なき戦い」「日本侠客伝」「博奕打ち総長賭博」など
・戦争……「二百三高地」「大日本帝国」「あゝ決戦航空隊」など
・テロ……「日本暗殺秘録」「226」など
そのほか、未映画化作品の「昭和の天皇」「実録・共産党」など、他の脚本家が恐れをなすようなシナリオも積極的に引き受けています。
笠原和夫の特長として、徹底的な取材があります。リアルな脚本に反映されるのはもちろんのこと、取材の裏話、こぼれ話をエッセイやインタビューなどで遺しており、それが昭和裏面史として格別に面白い読み物となっているのです。
映画好きはもちろんのこと、昭和史が好きな人間には笠原和夫の著作は非常に興味深いものです。

シナリオ関連

2002年末に亡くなった笠原和夫は、最晩年にインタビュー集『昭和の劇』を遺しています。
氏が書いたシナリオについては、この一冊で、すべてが濃密に語られています。
笠原和夫という脚本家を知るために、まず読むべきはこの本です。
どんなネタでも飯の種にしてしまう東映という会社。それに真剣につきあって、傑作をものにする脚本家。その対比の面白さがまずあります。また、冒頭に書いたとおり、脚本製作の背景には昭和史への深く鋭い洞察があります。ともかく全ページ興味深い話題が満載で、この本1冊で何ヶ月か退屈せずに過ごせるくらいです。
筆者が「無人島へ行くとき持っていく1冊」を選ぶとしたら、数千冊の我が家の蔵書から、間違いなく本書を選びます。



(リンク先はAmazon。古本のみ販売)


笠原和夫が書いた主要なシナリオを集めたのが『笠原和夫 人とシナリオ』です。
これは没後に刊行されました。
笠原和夫の真髄を知るには、やはりシナリオそのものを読むのが一番です。作品によっては、映画を見る以上に迫力を感じます。特に「博奕打ち 総長賭博」「あゝ決戦航空隊」は読み応えがあります。
収録作品は以下のとおりです。
「股旅 三人やくざ 秋の章」「博奕打ち 総長賭博」「日本暗殺秘録」「博奕打ち いのち札」「仁義なき戦い 代理戦争」「あゝ決戦航空隊 」「県警対組織暴力」
荒井晴彦による編集後記によれば、「日本暗殺秘録」は、ビデオ化されないだろうから、ということで収録したとのことですが、本書刊行後7年ほど経ってからDVDが発売されて驚きました。
笠原和夫 人とシナリオ
シナリオ作家協会
2003-12

(リンク先はAmazon。古本のみ販売)


シナリオ集としてはほかに、代表作である「仁義なき戦い」シリーズをまとめた本も出ています。



さらに、「仁義なき戦い」執筆時の取材メモをまとめたものも没後に刊行されました。通読するものではありませんが、笠原和夫の偉大さを肌で感じ取れる一冊です。

「仁義なき戦い」調査・取材録集成
笠原 和夫
太田出版
2005-07-09


こちらも没後にまとめられた本ですが、シナリオ制作の極意を語ったもの。
収録されている「秘伝シナリオ骨法十箇条」では北野武映画をシナリオ作法の観点から痛烈に批判して、話題となりました。

映画はやくざなり
笠原 和夫
新潮社
2003-06-01

《エッセイ》

笠原和夫はエッセイもいくつか残しています。
こちらは、数多くのやくざ映画を執筆した氏が、取材を通して知り得たやくざの実像、またそこで出会った男たちについて綴ったもの。やくざ映画ファンには興味深い話題が満載です。

破滅の美学 (ちくま文庫)
笠原 和夫
筑摩書房
2004-02-11


次は自伝的なエッセイです。戦中戦後を通して体験したエリート街道とはほど遠い凄絶な生き方が、その後の笠原作品の根っこにしっかりと横たわっているということがよく理解できます。



次回は、笠原和夫のシナリオが収録された本をご紹介します。

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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