備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

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『水滸伝』備忘録 あらすじと登場人物(四十一回~四十五回)

201711水滸伝142

前回に続き、現在刊行中の新訳「水滸伝」(講談社学術文庫)を読みながら、メモとして作成しているあらすじと登場人物です。赤字は百八星の初登場回です。講談社学術文庫版「水滸伝」は第二十二回までが1巻、第二十三回からが2巻の収録です。

第四十一回 宋江智取無為軍 張順活捉黄文煩

登場人物:侯健、欧鵬、蒋敬、馬麟、陶宗旺
あらすじ:一同で黄文炳に復讐しようと考えていたところ、現れた侯健の情報により、黄文炳の屋敷に火を放つ。黄文炳は生け捕りとなって殺された。宋江は梁山泊入りを決意する。一同が梁山泊へ向かう途中、欧鵬、蒋敬、馬麟、陶宗旺という四人の豪傑も合流する。全員で梁山泊へ向かい、宋江を頭領として宴が催される。ところが突然、宋江は山を降りて行かなければ行けないところがあると言い出す。

第四十二回 還道村受三巻天書 宋公明遇九天玄女

登場人物:宋江、宋清、李逵
あらすじ:宋江は父と弟とを迎えに行ったのだった。ところが、弟の宋清は、宋江が戻ってきたら逮捕しようを役人が見張っているから、早く去れと言う。やはり追手が迫ってきた。宋江は通りかかった廟へ逃げ込む。追手は廟の中を調べようとするが、一陣の風が吹き上がったため、祟を恐れて追手は廟を出る。すると、廟の中へ二人の子どもが姿を表し、女神の使いだと名乗る。宋江は廟の裏へ導かれ、そこには満天の星が輝き、爽やかな風が吹く美しい道があった。その先で女神に出会い、宋江は三巻の天書を受け取る。女神は呉用以外の人には見せてはいけないという。夜が明けると、宋江は李逵たちに助けられる。宋江は父を連れて梁山泊へ入る。すると、公孫勝も母を迎えに行きたいと言い出し、百日で戻る約束で旅立つ。それを見ていた李逵は、自分も母を迎えに行きたいと言い始める。

第四十三回 仮李逵剪径劫単人 黒旋風沂嶺殺四虎

登場人物:李逵、宋江、朱貴 
あらすじ:宋江は李逵に「酒を飲まない、武器を持たない、お母さんをすぐに連れ帰る」という条件を出して送り出す。それでも李逵が旅先でひと暴れするのではないかと心配した宋江は、朱貴が同郷と聞き、李逵を見守るよう頼む。郷里の村外れで朱貴と李逵は会い、朱貴の弟・朱富の居酒屋で酒を飲む。そのあと、村へ向かう李逵は朱貴の忠告も聞かず山道を行き、追い剥ぎに出会う。ところが、その追い剥ぎは「われこそは黒旋風李逵だ」と李逵の名を騙る。李逵は怒って男を殺そうとするが、李鬼というその男は「病の母を養うために追い剥ぎをした」と弁解するため、李逵は許し、金も与える。さらに道を進むと一軒の家があったため、李逵はその家で食事の提供を受けようとする。家の女が支度をしていると、男が帰ってきて「ホンモノの李逵にあってしまった。うまく騙して金を巻き上げた」というのが聞こえる。怒った李逵が李鬼を殺すと、女は逃げてしまった。李逵は李鬼の肉を肴に飯を食い、家に火を放って立ち去った。李逵は村へ入り、家へ帰ると、母を背負って梁山泊へ戻ろうとする。兄の李達は反対するが、それを押し切って家を飛び出す。途中の山中で母のために水を汲みに谷へ降り、戻ってくると母は虎に食べられてしまっていた。李逵は嘆きながらも四頭の虎を退治する。山を降りてきて出会った猟師に虎退治の話をすると、みな大喜びで、村の金持ち・曹太公の家へ招かれ歓待を受けた。ところが、そこを李鬼の妻が覗き、夫を殺した李逵だと告発する。李逵は役人の李雲に捕まる。李逵が捕まったと噂を聞いた朱貴は朱富と一計を案じ、護送の行列へ酒を振る舞い、そこへしびれ薬を混ぜておいた。李雲は酒を飲まないため、薬を混ぜた肉を食わせた。全員が倒れたところで李逵を解放すると、李逵は村へ戻り、曹太公と李鬼の妻を殺した。やがて、しびれ薬の効き目が切れた李雲が追ってきた。

第四十四回 錦豹子小径逢戴宗 病関索長街遇石秀

登場人物:李逵、李雲、朱貴、朱富、戴宗、楊林、鄧飛、孟康、裴宣、楊雄、石秀、潘巧雲
あらすじ:追ってきた李雲へ朱富は、李逵の護送に失敗したらもう役所へは帰れないでしょう、と共に梁山泊入りすることを説得する。そして全員で梁山泊へ戻った。ところで、百日で戻ると約束した公孫勝がまだ戻らない。神行法の使い手・戴宗が様子を見に行くことになった。戴宗が神行法で旅を続けると、急に声をかけられた。それは楊林という男だった。楊林は公孫勝から戴宗の話を聞いて、梁山泊入りを希望していたのだった。戴宗は楊林も神行法で同行させることにする。途中の山中で山賊に出会うが、互いを豪傑と認め合う。山賊は鄧飛と孟康で、裴宣を頭領にした砦を築いていた。戴宗と楊林は砦で歓待を受けた。裴宣たちも梁山泊入りを希望していた。戴宗と楊林は引き続き公孫勝を探し回ったが見つからない。すると、処刑を終えたばかりの牢役人・楊雄が人々に祝福されながら歩いているのを見かける。そこへ現れた張保が因縁をつけ、喧嘩になる。すると、通りかかった大男が楊雄の助太刀を買って出る。楊雄が張保を追って去っていってもまだ暴れている大男を戴宗はなだめる。大男は石秀だった。戴宗・楊林・石秀は酒屋に腰を据えて飲み始める。そこへ楊雄が大勢の兵を率いて戻ってきたため、戴宗と楊林は驚いて逃げてしまった。石秀と楊雄は意気投合して義兄弟となる。楊雄には巧雲という妻がいた。巧雲の父・潘公は石秀と肉屋を開く相談をする。石秀は楊雄の家へ泊まり込んで肉屋をはじめた。

第四十五回 楊雄酔罵潘巧雲 石秀智殺裴如海

登場人物:石秀、楊雄、潘巧雲、裴如海、王公 
あらすじ:楊雄の妻・潘巧雲は家へ出入りしていた僧侶の裴如海と深い仲になる。楊雄が留守の晩は逢引し、夜が明けると寺の頭陀に外で合図をさせることにした。石秀は毎晩、調理場で寝ていたが、外で頭陀が木魚を叩いているのを怪しみ、秘密に気づく。楊雄に忠告し、潘巧雲の浮気の証拠を押さえる方法を考える。ところが、酔った楊雄が潘巧雲を詰ったため、逆にこれは石秀の陰謀だと吹き込まれてしまう。石秀は楊雄に恥をかかさぬよう、いったん家を出る。そして、頭陀を殺して衣服と木魚を奪うと計略を働かせ、裴如海の間男の現場を押さえ、こちらも殺してしまう。そこへ粥屋の王公じいさんが通りかかり、死体の近くで転んで血まみれになってしまう。

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岩波文庫版の江戸川乱歩は初心者にもマニアにもおすすめ

岩波文庫へ続々と乱歩作品が収録されています。

10年ほど前に「江戸川乱歩短編集」として短編の傑作選が刊行されましたが、それでオシマイと思っていたところ先々月から毎月、新たな作品が収録されている状況です。

乱歩作品の著作権は一昨年消滅したことから、各社が人気作を刊行するであろうことは予想していましたが、古典的名著専門の岩波文庫まで参戦するとは驚きでした。
とはいえ、岩波文庫に収録されるからには、何かしらセールスポイントがあるだろうと期待していたところ、やはり、これはなかなか良いですよ。

今年に入って岩波文庫から刊行された乱歩作品のラインナップは以下の通り。
少年ものが2冊続いたあと、「江戸川乱歩作品集」と銘打って名作集の刊行が始まっています。


収録作:「怪人二十面相」「青銅の魔人」


収録作:「少年探偵団」「超人ニコラ」「智恵の一太郎ものがたり(抄)」

収録作:「接吻」「日記帳」「人でなしの恋」「蟲」「孤島の鬼」「防空壕」

まず少年物について。
岩波文庫はエンタメ目的ではなく学術文庫なので、底本や校正にこだわります。
少年物の底本はいずれも「最初に刊行された単行本」です。このため、ポプラ社から出ているものとは文字遣いなどが大きく異なります。
とは言え、光文社文庫版「江戸川乱歩全集」も同じく最初の単行本を底本としているため、大きな違いはありません。
では、岩波文庫版のどこに独自の価値があるのか。
それは「超人ニコラ」です。
というのは、「超人ニコラ」は乱歩最晩年の作品であり、雑誌連載終了後、単行本として刊行される前に亡くなってしまいました。
このため、雑誌連載バージョンから単行本化するに当たっての文章の整理は乱歩本人によるものではありません。ポプラ社から「黄金の怪獣」と改題されて刊行されたのがこの作品の初単行本ですが、その後の講談社「江戸川乱歩推理文庫」、光文社「江戸川乱歩全集」などいずれの収録時も文章に手が加えられています。
しかし、岩波文庫としては乱歩本人による改訂と認められないものを収録するわけにいきません。このため、雑誌掲載バージョンに手を加えることなく収録しています。
というわけで、岩波文庫版「超人ニコラ」は他社とは全く別バージョンとなっています。
「超人ニコラ」以外の収録作は、他社版とそれほど大きな違いはないはずですが、岩波文庫は校正については信用できますので、細かい違いはたくさんあるはずです。マニアであれば少年物2冊は押さえておく価値があるでしょう。

次に「江戸川乱歩作品集」Ⅰ~Ⅲですが、こちらは初心者におすすめです。
底本は桃源社版全集なので創元推理文庫版と同じであり、別に珍しいものではありません。
すばらしいのは編集の切り口です。
一巻目のテーマは「愛のゆくえ」。きれいな言葉ですが、要するに乱歩が得意とした変態性欲の世界です。「人でなしの恋」「蟲」「孤島の鬼」と、確かにこの切り口でいえば代表作といえる作品が並んでいます。
二巻目は「謎と推理」。収録作は「陰獣」「黒蜥蜴」「一枚の切符」「何者」「断崖」となっています。「陰獣」は乱歩が書いた本格ミステリの中で文句なしの代表作ですが、短篇で「二銭銅貨」ではなく「一枚の切符」を選ぶあたり、センスを感じます。「一枚の切符」はデビュー作「二銭銅貨」とほぼ同時期に書かれた作品ですが、本格ミステリとしての出来映えは明らかに「二銭銅貨」より上です。乱歩も二作を同時に投稿しつつ、「一枚の切符」の方に自信を持っていたようですが、先に「二銭銅貨」が掲載されたため、影に隠れた存在となってしまいました。

三巻の収録作は今のところまだ公表されていませんが、この調子であれば3冊揃えれば乱歩という作家の特異性を概観できる、好シリーズが完結すると思われます。
乱歩作品を全部そろえているような読者にはあまり価値はないかも知れませんが、「乱歩の代表作を手軽に一通り読んでみたい」という方には強力におすすめできます。定番として長く書店に常備されるようになってほしいものです。
(収録作がわかったら、この記事、更新します。)

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ポプラ社 少年探偵江戸川乱歩全集の27巻以降

「動物農場」を読むなら、おすすめの文庫はどれ? 各社版徹底比較!

201711動物農場140

ジョージ・オーウェルは「一九八四年」がよく知られていますが、もう一つの代表作が「動物農場」です。薄くて読みやすい作品であるためとてもよく読まれており、翻訳は4種類刊行されています。
ハヤカワepi文庫、岩波文庫、角川文庫、ちくま文庫。
今回は各社版を比べて見たいと思います。



最も新しい訳がハヤカワepi文庫版で、2017年に出たばかりです。
訳者の山形浩生氏はSF小説、経済学、コンピュータ関連の翻訳をたくさん手がけており、各方面での言論活動でも有名です。
本書の解説は訳者自身が書いていますが、ソビエト連邦を知らない若い世代へ向けて、ということで非常にわかりやすい内容になっており、筆者の印象では「動物農場」を読むならば、この解説込みでハヤカワepi文庫版を選択するのがベストだと思っています。
また、訳文自体も、豚が演説するシーンでは左翼のアジテーションを思わせる口調になっていたりと、かなり楽しんで読むことができます。
本編とあわせてオーウェルによる「序文案」と「ウクライナ語版への序文」とが収録されており、作品理解の助けになります。
この文庫で読むと良い点がさらにもう一つあり、それはオーウェルの代表作「一九八四年」もハヤカワepi文庫から刊行されているため、「動物農場」もハヤカワepi文庫で揃えると、背表紙が揃います。「一九八四年」は他社からは出ていないのです。



ハヤカワ文庫と並ぶおすすめは、岩波文庫版です。
こちらは本編に加え2種類の序文を収録している点ではハヤカワ文庫と同じ。価格も同じようなものです。
おすすめポイントは膨大な注釈と、懇切丁寧な解説です。訳者はオーウェル研究の第一人者として知られています。
ただ、そもそも文章やストーリー自体には全く難しいところはないため、特に注釈がなくてもすいすい読める作品です。膨大な注釈は、著者の研究の成果を披露するためのものでは、という印象を受けます。
ハヤカワepi文庫は「若い人向け」と明快なコンセプトを打ち出していますが、岩波文庫それよりも上級者向け、文学書として読みたい方向けに仕上がっていると言ってよいでしょう。
岩波文庫からはほかに「オーウェル評論集」が出ています。文庫で読めるオーウェル作品は現在では「一九八四年」「動物農場」以外にはこの「評論集」くらいですので、ファンは要チェックです。今年2017年夏の一括重版の対象となっていたので、この記事を公開した時点では容易に入手できます。



さてここまでハヤカワepi文庫版と岩波文庫版とを紹介してきましたが、あとの2種類、角川文庫版とちくま文庫とは「開高健」がキーになります。

動物農場 (角川文庫)
高畠文夫・訳


角川文庫版は例によって非常に古く、昭和40年代に刊行されたものです。といっても、読みづらいということはありません。
本編のほかにオーウェルのエッセイ「象を撃つ」「絞首刑」「貧しいものの最期」を収録しており、一見、短編集のような体裁になっています。さらには開高健のオーウェル論「24金の率直 オーウェル瞥見」を収録していて、内容的には盛り沢山です。解説も古い内容ながらしっかりしています。
にもかかわらず価格は一番安くて、お得感のある一冊です。
なお、「象を撃つ」と「絞首刑」については岩波文庫の「オーウェル評論集」にも収録されているので、オーウェルのエッセイをもっとたくさん読みたいという方は本編を岩波文庫かハヤカワepi文庫で読み、あわせて「オーウェル評論集」も読む、という読み方もおすすめできます。



ちくま文庫版の「動物農場」は開高健が訳しています。本編以外にも開高健の論考「談話・一九八四年・オーウェル」「オセアニア周遊紀行」「権力と作家」を収録しています。
奥付によれば、本書はもともと「今日は昨日の明日 ジョージ・オーウェルをめぐって」と題してオーウェル関係のエッセイ・評論、そして「動物農場」の翻訳をまとめていた単行本を、文庫化したもののようです。
ただし、角川文庫版「動物農場」にも収録されている「24金の率直」は文庫化にあたって削除されています。
オーウェル好きよりは開高健のファンにおすすめバージョンですが、元版を完全収録していない点が少し引っかかります。
価格は他の文庫と比べると一番高いです。

というわけで、まとめますと、

◎本編だけを読むなら
 ソ連を知らない若者は → ハヤカワepi文庫
 チャラチャラした雰囲気が嫌な読書子に寄す → 岩波文庫

◎本編以外も読みたいなら
 さらっと読みたい → 角川文庫
 しっかり読みたい → 岩波文庫(またはハヤカワepi文庫)+岩波文庫「オーウェル評論集」

◎開高健ファン
 一通り読みたい → ちくま文庫
 全て読みたい → ちくま文庫+角川文庫

ということになります。
どれが最強なのか、結局よくわかりません。
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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