備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

DVD未発売名画

日本でDVDが発売されていない名画その3「光と闇の伝説 コリン・マッケンジー」

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ニュージーランド出身のピーター・ジャクソンは、「ロード・オブ・ザ・リング」を監督するまで、日本ではマニアにしか知られていない存在でした。
なにしろ撮っていた映画がゲテモノのホラーばかり。







「バッドテイスト」は記念すべき初監督作ですが、これはほぼ手作りの自主製作映画です。
友人を集めて休日にコツコツと撮りためるという、100%趣味で製作していたものなのですが、これで才能を認められます。
……しかし、ここまでバカげた映像のなかに、将来、超大作「ロード・オブ・ザ・リング」を完璧に仕上げてしまうような才能を見いだせるかというと、筆者にはさっぱりわかりません。ほんと、ピーター・ジャクソン以上に、この才能を見出した人たちの慧眼に恐れ入ります。
続いて「ブレインデッド」「ミート・ザ・フィーブルズ」と血まみれのふざけた映画を撮り続け、ホラーファンのカルト的な人気を博したのち、「乙女の祈り」を監督。幻想的な雰囲気の中に少女たちの繊細な心の動きを見事に描いて、一般の映画ファンからも高い評価を受けました。
これにより、ニュージーランドを代表する映画監督となります。

と、いま「ニュージーランドを代表する」と書きましたが、ニュージーランドの映画人ってほかにいるか?
そもそもニュージーランドには映画産業と言えるようなものがありませんでした。ピーター・ジャクソンはそこへ現れた超新星。空前絶後、唯一無二の存在。

ところが、そのピーター・ジャクソン自身がその評価に待ったをかけます。
いやいや、ニュージーランドを代表する映画監督は俺じゃないよ。
コリン・マッケンジーだろ。
え? コリン・マッケンジー知らないの?

ということで、テレビ用に製作されたドキュメンタリーがこの「光と闇の伝説 コリン・マッケンジー」(原題:Forgotten Silver)です。
(初公開時の邦題は「コリン・マッケンジー/もうひとりのグリフィス」)

はて、コリン・マッケンジーとは何者か?

実は映画の草創期、ニュージーランドにおいてさまざまな映画技法に挑戦し続けた幻の監督がいたのです。世界初の長編映画も彼が作り、世界初のトーキーを撮ったのも実は彼。
というわけで、実は映画の歴史を開拓したのはグリフィスではなく、ニュージーランドのコリン・マッケンジーだったのです!
ところが、コリン・マッケンジーは「リアル」にこだわりすぎました。
世界初のトーキー映画はカンフー映画でしたが、登場する中国人たちは当然、中国語を話します。このため、ニュージーランドの観客には「トーキー映画の言葉は理解できない」と思われしまい、失敗に終わります。さすがに「吹き替え」や「字幕」というところまでは知恵が回らなかったわけです。
コリン・マッケンジーが制作しようとした超大作「サロメ」のセットを探して山の中へ分け入り、ついに巨大なセットの廃墟を発見するという感動的なシーンで、この物語は幕を閉じます。

……しかし、それにしてもコリン・マッケンジーなんて聞いたことないな。
それもそのハズ。実はこれはフェイク・ドキュメンタリー、いわゆるモキュメンタリーというやつで、内容は完全にフィクションです。
ニュージーランドではフィクションであることを伏せてテレビ放映し、全国民を驚きと感動で包んだ挙げ句に、翌日になってネタバラシをして、大騒ぎになったと言われています。

さて、このような映画愛全開、ピーター・ジャクソンの魅力がつまった素晴らしい内容なのですが、日本では劇場公開後にVHSが発売されたのみで、なぜかDVDになりませんでした。
このため、筆者はアメリカで発売されたDVDを購入しています。筆者が購入したものはリージョンフリー。日本のプレイヤーでも再生できます。
ただし、このDVDの難点は英語字幕すら入っていない点。
まあ、中国語で喋りまくっているトーキーなんかは「なるほどこれね」とわかるのですが、ほぼ全編、ナレーションを背景に静止画が切り替わる形で話が進むので、筆者のヒアリング力では全く理解できません。

しかし、この映画には強力な副読本があります。

コリン・マッケンジー物語
デレク・A. スミシー
パンドラ
1999-10


映画本編同様、ノンフィクションの体裁でコリン・マッケンジーの評伝が出ているのです。
著者名からしてふざけていますが、翻訳したのは柳下毅一郎先生。特殊翻訳家の面目躍如です。
映像はほぼ本書と同じ内容で進行するため、この本があれば、字幕なしのDVDでも怖くありません。




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『鼻行類』『偽書百選』……「嘘本」とは何か?

日本でDVDが発売されていない名画その2「オズ」

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1985年の映画「オズ」(Return To OZ)は、国内版DVDの発売が最も熱望されている映画ではないでしょうか。
VHSは発売されたものの、日本ではなぜかずっとDVD化されないまま。本国アメリカではDVDはもちろん、Blu-rayも発売されています。

これは「オズの魔法使い」の続編である「オズのオズマ姫」を原作にした物語です。
筆者はこの映画が公開された当時、小学生でしたが、リアルタイムでは見ませんでした。さかんに宣伝されていた記憶はあるのですが、なんとなく「女の子が見る映画」と決めつけていたように思います。
これはそれほど誤った認識でもなかったようで、大人になってから同世代の女の子と話をしていると、子どもの頃に見たトラウマ映画として「オズ」を挙げる人に何人も会いました。

トラウマ映画、と書きましたが、実際、子どもの頃この映画と出会った人は、口を揃えて「怖かった、怖かった」と言います。首のない王女やら、手足が車輪になった人間に追いかけられたりとか。

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こんなのに追いかけられる。

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こんなのにも追いかけられる。

いったいどんな映画なのか興味がわきましたが、いくら待てど、日本ではDVDが発売されず。とうとう、輸入盤を購入しました。
筆者は、15年くらい前(20代後半のころ)は、寝ても覚めてもDVD蒐集のことばかり考えており、自宅にはリージョン1のDVDを再生できるプレイヤーも設置して、国内盤、輸入盤(北米盤)を手当たり次第に買い漁っていました。

というわけで、20代後半になって初めてこの映画を観たわけで、子どもの頃からの熱心にファンに比べれば思い入れというものはそれほどでもないのですが、しかし素晴らしい映像を堪能しました。「ダーククリスタル」のスタッフが特撮などに参加しているということで、非常によくできたテクニックが光ります。
DVDには英語字幕が入っているため、リージョン1の再生環境さえあれば、鑑賞は容易です。

しかしその後、わが家の再生環境は大きく変化しました。
結婚を機にリージョン1のプレイヤーを泣く泣く廃棄。それに伴って、この映画を見直すこともできなくなりました。
いや、PCを思い切ってリージョン1にしてしまえば、また見ることもできるんですけどね。しかし、かなり不便になるので思いきれません。
違法行為となることを気にしなければ、再生する方法は他にもあるのですが、今はその環境もないし、方法はここでは書きません。

……ということを考えていましたが、実は3年前にアメリカで発売されたBlu-rayであれば、日本のプレイヤーでも再生できるハズです。筆者は妻の監視があるため「買い直す」ということができないのですが、これから初めて買う方や、平気で買い直せる環境の方は一度トライしてみてはいかがでしょうか。
ただし、筆者は実験していませんので、保証できません。Blu-rayの制限はDVDに比べてかなり厳しいので、プレイヤーの購入時期によっては再生できない可能性もあります。
ともかく、日本国内で普通に再生できる可能性があるディスクはこのアメリカ版Blu-rayのみなのですが、初回プレスで終了してしまったのか、今のところAmazon.co.jp、Amazon.comとも、マーケットプレイスでしか買えません。
まあ、再発売の可能性もあるので、日本版DVDを待ち続けるよりは、そっちをチェックし続けるほうが現実的な選択ではあります。



それにしても、なんで日本版のDVDが出ないんでしょうね。事情が全然わかりません!

日本でDVDが発売されていない名画その1「探偵スルース」

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DVDが普及してから20年近く経ったものの、名作と言われながら、なぜか未だに日本でDVDが発売されていない映画がたくさんあります。
その中で、筆者が海外盤を持っているものを、そのレビューも兼ねてご紹介します。
第一回目は1972年の映画「探偵スルース」。

これはミステリ映画の名作の一つと数えられており、筆者も大好きな映画です。
老作家(ローレンス・オリヴィエ)の元を訪れる、青年(マイケル・ケイン)。青年は作家の妻と不倫関係にあるのだが、作家は青年に対して実に意外な申し出をする……という形で幕を開けます。
登場人物はわずかこの2人だけ。
にも関わらず、騙しあい、盗難、殺人、謎解き、どんでん返し、とミステリのお愉しみがぎっしり詰まっているというミステリ好きにはたまらない作品です。
筆者がこの作品を知ったのは、島田荘司「斜め屋敷の犯罪」の中で、御手洗潔が「おや、こりゃ『スルース』の!」と叫んで、この映画について一くさり語るというシーンからなのですが、その後、NHKのBS放送で放映されたときに初めて観ました。

日本でも人気のある映画なので、当然DVDが発売されていてもおかしくないのですが、なぜか出ていません。
2007年には老作家をマイケル・ケイン、青年ジュード・ロウという配役でリメイクされたので、いよいよ旧作もDVD化か、と待ち構えましたが、やはり何のニュースもありませんでした。

さて、国内盤は未発売ですが、アメリカでは何度か形を変えて発売されています。
筆者は2002年に発売されたものをAmazon.comで取り寄せて持っています。
このディスクはリージョンフリーのため、日本のプレイヤーでも再生できます。
確認のため、現在、我が家にあるソニーの「BDZ-ZW1500」にも入れてみましたが、ちゃんと再生できました。
(ただし、現在Amazon.co.jpで検索すると、リージョン1と表示されています。DVDは製造時期によってリージョン制限が異なる場合があるため、これから購入を検討されている方に保証はできません)

Sleuth [DVD] [Import]
Laurence Olivier
Anchor Bay
2002-07-29


しかし、このディスクには残念な点があります。字幕が収録されていないのです。
日本語字幕がないのは当然ですが、英語字幕もありません。
二人だけの全編セリフ劇といってよい作品のため、筆者のように英語ヒアリング能力がゼロの人間は字幕がないとさっぱり内容がわかりません。

ただし、クローズド・キャプションという字幕情報だけは入っています。
クローズド・キャプションはDVDの字幕機能(subtitle)とは異なるもので、映像データの中に信号が入っており、テレビ画面に字幕を表示できる機能です。
アメリカではテレビ放送にクローズド・キャプションの信号が含まれているなど一般的なものですが、日本では馴染みのない規格のため、普通では見られません。
一昔前のDVDプレイヤーであれば、プレイヤーとテレビとをつなぐ映像ケーブルのあいだにデコーダをかませてやれば表示できたため、筆者はその形で字幕を表示させていましたが(アメリカのDVDにはほぼクローズド・キャプションが含まれているのです)、HDMIケーブルでプレイヤーとテレビとをつなぐようになると、あいだにデコーダをかますことが出来ません。
しかし、パソコンで再生すると、ソフトにもよりますが、クローズド・キャプションは表示できます。

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この映画は舞台劇が元になっています。この戯曲を書いたアンソニー・シェーファー自身が映画の脚本も担当しています。
アンソニー・シェーファーは他に「ウィッカーマン」「ナイル殺人事件」などの脚本で知られており、また双子の弟であるピーター・シェーファーは「アマデウス」を手がけているという、天才兄弟です。
兄弟の合作で「衣装戸棚の女」というミステリ小説も書いています。

衣裳戸棚の女 (創元推理文庫)
ピーター・アントニイ
東京創元社
1996-12


映画の元になった戯曲は、実は日本でも出版されています。南雲堂から大学用の語学テキストとして販売されているのです。
筆者はなんとも幸運なことに、大学時代にこのテキストを使っていた先生の授業を受けることができ、一年かけてじっくりと堪能することができました。
この本、Amazonで検索しても出てきませんが、恐らく書店では取り寄せができるだろうと思います。
http://nanun-do.hondana.jp/book/b250978.html
筆者は学生時代に授業で使ったものを、未だに大切に持っています。
DVDに字幕がなくても、このテキストがあれば、セリフも展開もほぼ同じなので、問題ありません。

しかし、英語の戯曲がそのまま出版されているのに、DVDが手に入らないって、なんだこの状況は……。
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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