河出書房新社のムックシリーズ「文藝別冊」から渡哲也特集号が刊行されました。
渡哲也といえば、「西部警察」大門軍団のイメージが強いのですが、個人的にはあまりそこには思い入れがありません。中学生のころ(平成元年ごろ)は、夕方に帰ってくるとほぼ毎日「西部警察」が再放送されていて、当然熱心に見ていたわけですが、当時はこの世で一番カッコいい男は舘ひろしだと思い込んでいて、ポッポこと鳩村刑事目当てで見ていたわけです。
同じ時間帯に裏で「あぶない刑事」の再放送をやっていると、そっちを見ていたりして、特に渡哲也には注目をしておりませんでした。
では、渡哲也といえば何が真っ先にあがるかといえば、深作欣二監督の名作「仁義の墓場」です。
渡哲也が亡くなったことで大門軍団にフォーカスした書籍や雑誌特集などが色々出ているものの、それらはすべてスルーしていました。
文藝別冊もそれほど期待はしていなかったのですが、書店でパラパラと眺めると前半を春日太一氏が責任編集ということで「仁義の墓場」についてもかなりページが割かれていました(なんと多岐川裕美のインタビューまで!)。
一気にテンションが上って買ってきたわけです。
「仁義の墓場」は私が生まれた年に公開された映画なので、見たのは大人になってDVDが発売されてから。実録シリーズの一つとして、特に予備知識もなく見たのですが、これは強烈でした。
以降、何度も見直しています。
鴨井達比古によるシナリオが深作欣二のお気に召さず、松田寛夫、神波史男によって改稿(というレベルではなくイチから作り直した)シナリオを元に撮影されています。
それを含めた製作過程については、これまでに
・深作欣二へのインタビュー(ワイズ出版「映画監督 深作欣二」に収録)
・鴨井達比古による第四稿とエッセイ(月刊「シナリオ」1975年5月号に収録)
・神波史男による鴨井達比古への反論エッセイ(「映画芸術」2012年12月増刊「ぼうふら脚本家神波史男の光芒」に収録)
などで読んでいました。
それぞれ比較すると話に若干の食い違いがあるように感じるものの、総じて「大変だった」ということになるのですが、今回の「文藝別冊 渡哲也」に収録された助監督・梶間俊一氏へのインタビューはこれまで読んだ中で最も面白い内容でした。
シナリオを巡るトラブルはサラッとしか触れていませんが、タイトルバックのエピソードからして抱腹絶倒。深作欣二がどんな風にすごい監督だったかということが、非常によくわかります。
余談ですが、私が「仁義の墓場」で一番好きなのはこのタイトルバックで、自分の結婚式のとき、恒例の「生い立ちビデオ」はこのタイトルバックのパロディにしようと思っていたくらいなのですが、音源が手に入らず、うまくまとめるセンスもないため諦めました。
渡哲也や田中邦衛の怪演についても壮絶な話ばかりで、いやこれはほんと、シナリオ云々を超越して「深作欣二と渡哲也の映画」だったんだなあ、と思いました。
梶間俊一、多岐川裕美のインタビューを合わせて、「仁義の墓場」については20ページも語られています。ファンはお見逃しなく。