備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

コラム

「古地図で楽しむ神戸」(風媒社)

202001古地図で楽しむ神戸018

妻は生まれも育ちも神戸ですが、筆者は結婚するまで神戸には縁もゆかりもなく、仕事の都合で引っ越してきてからまだ数年。
そのため、神戸の地理や歴史について面白そうな本を見かけると読むようにしているのですが、年末に本屋で見かけた「古地図で楽しむ神戸」(風媒社)は、横溝正史のエッセイを引用していたため即買いでした。

本書自体は、江戸時代、明治時代の古地図を紐解きながら街の変遷を追っており、神戸初心者には非常に興味深い内容が満載ですが、後半に「古地図で読む近代文学」というコーナーがあり、文学作品に登場する神戸について紹介されています。
筆者的には、神戸の文学者といえば横溝正史。
今のハーバーランド近くの東川崎で生まれ育ったとエッセイでたびたび回顧しており、小説にも神戸はちょこちょこと登場します。
本書では横溝正史のエッセイ「探偵小説五十年」の一節を引用し、「明治三十五年うまれの私が物心ついたころ、湊川はまだ町のそばを流れていた」という記述に対して「湊川の付け替え工事は1901年に着手。03年には河川は水がなかったことが地図から判明する。物心ついたころ、というのは横溝正史の勘違いだろう」とツッコミを入れています。
神戸をご存じない方には若干の説明が必要ですが、楠木正成討死にの地として名高い湊川はたびたび水害を引き起こしたことから明治34年から付け替え工事が行われ、流路が変更されました。
横溝正史が生まれたのはその旧湊川に近い地域で、正成を祀った湊川神社もすぐ近く。「正史(本名:まさし)」は「正成」にちなんだものです。
旧湊川の跡地には新たに大繁華街「新開地」が作られ、横溝正史の少年時代には「東の浅草、西の新開地」と言われるほど栄えていたと言われています。
「物心ついたころにまだ川が流れていた」という何気ない記述に「勘違い」と指摘するあたり、ミステリ・プロパーの書いた本ではなかなか出てこない話なので、それだけでも本書の価値はあるというものです。

一方で、ミステリ・プロパーならありえない「勘違い」も見られます。
神戸へ横溝正史を訪ねた江戸川乱歩が、元町での体験を記したエッセイ「お化け人形」(「悪人志願」収録)も紹介されていますが、この記事の中で、乱歩と横溝の初対面は乱歩が作家デビューする前の1920年のこと、と書いてあります。
いったい何を参照してこんな勘違いをされたのかちょっと見当がつきませんが、正確には乱歩と横溝との出会いは1925年4月11日と日付まで特定されていると、それぞれがエッセイで述懐しています(といっても、乱歩が「探偵小説四十年」で記している日付を横溝正史が「探偵小説五十年」で引用しているだけですが。ただし、証拠としてハガキが残っているようなので、正確でしょう)。
そもそも、作家デビュー前の2人が面会するというのはありえない展開です。

といったチョンボを見つけてはしまったものの、フルカラーで往年の神戸を紹介している本書はずっと眺めていられる楽しい内容です。
つい最近読んだ西東三鬼「神戸・続神戸」(新潮文庫)の冒頭はトアロードから始まりますが、戦前のトアロードを撮った写真も掲載されており、なるほどこんな風景か、ということがよくわかりました。

古地図で楽しむ神戸 (爽BOOKS)
大国 正美
風媒社
2019-12-23


神戸・続神戸 (新潮文庫)
西東 三鬼
新潮社
2019-06-26


岩波文庫の美装ケース入りセットが大好き

20191217岩波文庫

本屋から帰り道、最もうきうきした気分になれるのはどんなとき?
それは、岩波文庫の「美装ケースセット」を買ったとき!
「美装ケースセット」というのは、岩波文庫の箱入りセットです。巻数が多いシリーズや同じテーマの書籍などをまとめたもので、かなりの種類が出ています。

筆者はこの「美装ケースセット」をこよなく愛しており、セット組されているというだけで購買意欲が湧き上がります。
以前、こちらで書いたことがありますが、岩波文庫以外のケース入りセットは買いません。中身を確認できないため、小口研磨された本が混じる恐れがあるためです。しかし、岩波文庫に限っては小口研磨本というものは存在しないので、中の本は間違いなく美本です。安心して買えるというわけです。
いずれも重厚感があり、書棚に飾ると文庫とは思えない存在感を発揮します。さらにケース入りだと少々ホコリをかぶってもあまり気にする必要もなく、20年くらい経っても中の本はきれいなままです。
というわけで、読みたい本がセットになっていたら間違いなくそれで買いますし、どうかすると読みたいわけでない本まで、読みたいような気になって買ってきたりしてしまいます。(上の画像に写っている「南総里見八犬伝」とか。20年間積ん読中だけど、死ぬまでには読む)

そんな素敵な美装ケースセットなのですが、いろいろ調べてもリストが見当たりません。
そこで、わかる範囲内で一覧にしてみます。過去には販売されていたけど、今は手に入らない、というものも含まれますのでご注意ください。筆者が調べた範囲内なので、漏れはあると思われます。気づいたら追加します。
なお、リンク先は全てAmazonの販売ページですが、中古品の場合は箱無しの場合があります。というより、Amazonの中古品に箱がついていることはめったにありません。
リンク先で新品が販売されていれば、箱入りのはずです。

赤帯

外国文学

文庫で読める唯一の「西遊記」全訳。


これは訳が古くてなかなか読むのが大変です。





紅楼夢 12冊セット (岩波文庫)
曹雪芹
岩波書店
1995-07

単行本は新訳ですが、こちらは旧訳です。




こういう本も、箱入りセットなら持っていてもいいかな、という気になりますね。買ってないけど。

ドン・キホーテ 全6冊 (岩波文庫)
セルバンテス
岩波書店
2001-07-09

読みやすい新訳。



戦争と平和(全6巻) (岩波文庫)
トルストイ
岩波書店
2006-11-01

これも読みやすい新訳。

静かなドン 全8巻 (岩波文庫)
ショーロホフ
岩波書店




千一夜物語 13冊セット (岩波文庫)
渡辺一夫
岩波書店
1995-07-01


10年に一度しか重版されないようです。前回重版分はまだ在庫がある!

エセー 6冊セット (岩波文庫)
モンテーニュ
岩波書店
1996-07-01


ジャン・クリストフ 全4冊 (岩波文庫)
ロマン・ロラン
岩波書店
2003-09-09


レ・ミゼラブル 全4冊 (岩波文庫)
ヴィクトル ユーゴー
岩波書店
2003-09-09

定番の豊島与志雄訳。

モンテ・クリスト伯 7冊美装ケースセット (岩波文庫)
アレクサンドル デュマ
岩波書店
2007-12-18

これも定番の山内義雄訳。

モリエール作品集 全9巻 (岩波文庫)
モリエール
岩波書店
2009-06



読みやすい新訳。


岩波からまさかの「風と共に去りぬ」。新訳。


これまでに刊行されたボルヘスの作品をまとめたセット。



グリム童話集 5冊セット (岩波文庫)
ヴィルヘルム・グリム
岩波書店
1995-07-01




「イギリス民話集」「イタリア民話集 上・下」など、各国の民話集11冊をまとめたもの。

荒涼館魅せられたる魂デカメロンのセットも存在しますが、なぜかAmazonでは販売ページを確認できず。

緑帯

日本文学


岩波文庫美装ケース入りセット史上、最大。

寺田寅彦随筆集 セット (岩波文庫)
寺田 寅彦
岩波書店
2010-08-01


夜明け前 全4冊 (岩波文庫)
島崎 藤村
岩波書店
2010-08-01




日本近代随筆選(全3冊セット) (岩波文庫)
長谷川郁夫
岩波書店
2016-12-01


江戸川乱歩短篇集/怪人二十面相・青銅の魔人/少年探偵団・超人ニコラ/江戸川乱歩作品集I/江戸川乱歩作品集II/江戸川乱歩作品集III の6冊を収録。

正岡 子規
岩波書店
2002-07-09

黃帯

日本古典

日本書紀 5冊 (岩波文庫)
坂本太郎
岩波書店
1995-07-01




源氏物語 全6冊 (岩波文庫)
山岸 徳平
岩波書店
2010-08




平家物語 (岩波文庫 全4冊セット)
山下宏明
岩波書店
2000-07-07


太平記(全6冊セット) (岩波文庫)
兵藤裕己
岩波書店
2017-05-01


南総里見八犬伝 全10冊 (岩波文庫)
曲亭 馬琴
岩波書店
1995-07


川柳集成 全8冊セット (岩波文庫)
山沢英雄
岩波書店
1995-07



青帯・白帯

歴史・哲学・自然科学・政治など

史記列伝 全5冊 (岩波文庫)
司馬遷
岩波書店
1995-07-01



「ローマ帝国衰亡史」は、岩波文庫版は品切れですが、筑摩文庫版も箱セットがありますね。小口研磨されているかもしれない、というリスクはありますが。

名将言行録 8冊セット (岩波文庫)
岡谷 繁実
岩波書店
1997-12


米欧回覧実記 全5冊セット
久米邦武
岩波書店
1996-12




ファーブル昆虫記 10冊セット (岩波文庫)
ファーブル
岩波書店
1995-07-01


神の国 セット(全5冊) (岩波文庫)
アウグス ティヌス
岩波書店
1999-08


新エロイーズ 全4冊 (岩波文庫)
ルソー
岩波書店
1997-07


存在と時間(全4冊セット) (岩波文庫)
熊野純彦
岩波書店
2013-12-01




シンボル形式の哲学 (岩波文庫) 全4冊
エルンスト・カッシーラー
岩波書店
2010-01








ロシア革命史 全5冊セット (岩波文庫)
トロツキー
岩波書店
2001-07


金枝篇(全5冊セット) (岩波文庫)
フレイザー
岩波書店
2002-07-09


リヴァイアサン 4冊セット (岩波文庫)
ホッブズ
岩波書店
1996-07-01

その他







Video & TV SideViewはVPNでレコーダへ接続できない

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今日は本とは全く関係ない記事です。

わが家では昨年(2018年)の正月に買ったソニーのBDZ-ZW1500を使っています。
10年前に買った同じくソニーのブルーレイレコーダの動作がずいぶんと不安定になってきたため、壊れる前に買い替えたものです。

購入した時点で「どこでも録画予約・どこでも視聴・おでかけ転送」の機能があることはわかっていたのですが、わが家の家電でスマホと連動させているものは一つもないため、「外からつなごうと思ったら、当然、ルータのポートを開放しないといけないだろうし、設定が面倒だな」と思い込んでいて、1年半以上も試すことはもちろん、調べてみることすらありませんでした。
にも関わらず、最初の設定でなんとなく自宅のWi-Fiにだけはつないでいたわけです。

先日、デスクトップPCを買い替えてあれこれいじっていたら、PCのアプリからレコーダの中身を覗けることに気づきました。
Wi-Fiでつながっていて、同じネットワーク内なので、これ自体は別に驚きはありません。
権限がないため再生はできないのですが、PCで録画番組を見られたら、子どもたちにテレビを占領されているあいだにも録画番組消化ができるようになってちょっと便利だなと思いついたわけです。

そこでネットワーク越しの再生方法について初めて調べてみたのですが、まずPCで見るには「PC TV Plus」というアプリのインストールが必要で、これが3000円(わが家の環境で再生可能なのかは未確認)。
ちと高い。
そこでスマホのアプリを調べると「Video & TV SideView」というソニー製品用のアプリがあり、これが500円。というわけで、失敗しても大したことない価格なので購入しました。

で、インストールして驚いたのは全く何の設定の必要もなく繋がってしまったこと。
ルータについてはもともと使えるポートが用意されているのかどうかわかりませんが、何もせず。
さらに、WAN側のIPアドレスを調べて入力したりとか(で、変わるたびに書き換える)、そういう作業も予想していたのですが、これも一切なし。
まあ、考えてみれば、この手の家庭用機器はネットワークの知識が完全にゼロの人でも使えるようにしなければいけないので、かなり頑張って開発しているんでしょうね。職場のシステムとはワケが違う。
IPアドレスについては、同一ネットワーク内でアプリを立ち上げレコーダと接続した際に取得していると思われます(したがって、外出中にIPアドレスが変わってしまうとつながらない)。

というわけで、無事に設定できて、子どもがテレビを見てるあいだどころか、通勤途中にも録画番組を消化できる身分となり、ずいぶんと楽になりました。

ところが、不満がいくつか。
まず「どこでも視聴」は、外出先からレコーダへ接続して、そのまま録り溜めた番組を再生させる機能ですが、当然、通信量が膨大になります。
それほどリッチな回線契約をしているわけでないので、ちょっとでも使ったらパンクします。そこで、出張先のホテルで、部屋の無料Wi-Fiにつないで試してみました。
しかし、これで見続けるのはそうとう厳しい。おおよそ30秒ごとに10秒くらいのペースで、データの読み込みのために固まってしまうという状態で、早送りもできないため、45分の「探偵ナイトスクープ」を見るために1時間以上かかりました。

そうなると、予めスマホへ番組を転送しておく「おでかけ転送」の出番です。
ところが、これを出張先のホテルから試したところ転送できないのです。
どうやら、同一ネットクワーク内でないと転送できない仕様となっているのです。
テレビ番組はデジタルの時代になってからガチガチにプロテクトがかかるようになってしまったので、これもその一環なのでしょう。

しかしこれはなかなか不便です。
筆者が通勤や出張中の暇つぶしに見るだけなら予め準備しておけばよいだけなのですが、できれば家族で旅行するときも、車内や宿泊先で、子どもたちのために自宅の録画番組を見られるようにしたいと考えていたからです。いつも、DVDへ焼いたりしていろいろ手間がかかっているので、手軽にアクセスできるようになったら楽チンだな、と。
ところが、同一ネットワーク内でなければ転送できないとなると、DVDへ焼くよりは楽ですが、やはり事前準備は必要ということ。なんとかならないものか。

そこで思いついたのがVPNです。
自宅のネットワークとスマホをVPNで繋げば、同一ネットワーク内ということになるので、外出先でも「おでかけ転送」できるのではないか。
というわけで、ルータのマニュアルをWebで探して一生懸命、設定しましたよ。
こんなことをわざわざやるのは初めてのことですが、内容を見ると家庭用のルータとはいえ、なかなかセキュアにVPN設定ができるようになっていて感心。
で、1時間近くかけてようやくスマホがつながりました。
これでバラ色の未来が広がっている!と、スマホを自宅Wi-FiからLTEへ切り替え、レコーダへつないでみたいのですが、なんと転送できない!

で、Webでいろいろ検索してみたのですが、やはり同じようにVPNで「おでかけ転送」しようとしている人は他にもいて、皆一様に「できない」と結論しています。
VPNでつないでいれば、レコーダからすれば紛れもなく同一ネットワーク内に見えているはずなのですが、これ、いったいどういう仕組みなんでしょうね。
外出先からサクッと機器へつながる理屈は推測できますが、VPNを阻止している方法は見当がつきません。
方法だけなく、理由もわかりません。著作権保護の観点から言っても、VPN接続まで排除しなくてもいいんじゃないの? どっちみち許容されている転送回数は10回までだぜ? と思ってしまうのですが。

というわけで、本日の記事は同じなようなことを思いついて、試している方向けのものでした。
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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
ブログ更新通知:https://twitter.com/squibbon19

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