備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

ストリートビュー

井上靖「しろばんば」の舞台をGoogleストリートビューで巡る

当ブログで紹介するまでもない、井上靖の名作「しろばんば」。
筆者も高校生の頃に初めて読んでから大好きな小説で、「夏草冬濤」、「北の海」へと至る三部作をこれまでに何度も何度も繰り返し読んでいます。
そんなわけで、今回は「しろばんば」に登場する景色をGoogleストリートビューで巡ってみます。
「しろばんば」は井上靖の自伝的小説であり、おおむね実体験に基づいて話が進んでいきます。「幼き日のこと」などのエッセイを読むと、思っていた以上に創作の部分が多いようで驚きますが、舞台地についてはだいたい現実に即しているようです。

といっても、筆者は実際に現地を訪れたことはありません。
当ブログでストリートビューを使って舞台めぐりをする記事は、これまでいずれもある程度の土地鑑があるところばかり選んでいましたが、今回はリアルでは全く未知の土地なので、おかしなところがあるかも知れません……と一応、お断りしておきます。
それから、湯ヶ島での井上靖の足跡はだいたいこちらのサイトで教えてもらえます。
伊豆市観光協会天城支部 天城温泉郷観光ガイド
今回の記事の元ネタはだいたいこちらです。

さて、まずは洪作がおぬい婆さんと住んでいた土蔵の跡地。


土蔵から目と鼻の先に母の実家である「上の家」があります。


向かいは友人・幸夫の実家が営んでいた金物屋でしたが、2018年現在は更地になっているようです。本記事執筆時点でストリートビューを見ると、角度によっては2012年に撮影された画像が表示され、そこにはまだ金物屋が写っています。ストリートビューの表示ではいずれ消えそうなので、スクリーンショットも。
金物屋

馬車の駐車場跡。


かつて小学校があった場所は郵便局になっているようです。



次に湯ヶ島から出て、沼津へ。
「夏草冬濤」ではこちらがメインの舞台となります。
かみきの家はこの通り沿いにあったようです。


洪作が初めて海を見た、千本浜の写真もGoogleにアップされていました。


というわけで、「しろばんば」を読んでいて印象的な風景をいくつか探してみました。
それにしても、小説に登場する湯ヶ島は本当にとんでもないド田舎ですが、100年経った今はずいぶん開けています。その中に、上の家などが当時のままで建っているのは、なんとも不思議です。

島田荘司「北の夕鶴2/3の殺人」とスターハウス



201808北の夕鶴249

島田荘司の最高傑作の一つに数えられる「北の夕鶴2/3の殺人」。
リアルな世界を扱っているはずだった吉敷竹史シリーズで奇想天外な大トリックを仕掛け、さらには別れた妻とのハードボイルドな人間ドラマで泣かせるという、まあともかくどこから切り取っても超絶好調の一編で、細かく語り始めるとキリがありません。

ところで、今回は物語に深く分け入るわけではなく、この大トリックの舞台となったマンションの話です。
その名も「三ツ矢マンション」。
作中ではこのように紹介されています。
マンションは、東京で見かけるような四角く味気ないコンクリートの箱ではなく、言わば五階建ての塔とでも呼んだ方がよいような造りで、上から見ると、五月のこいのぼりの先につけた三枚羽根の風車のような形をしている。これは、マンションの所有者三矢氏が自分の名前をもじってこういう形にしたものらしい。
そして島田ミステリのお約束である、見取り図も載っています。(光文社文庫版より)

201808北の夕鶴250

さて、筆者は中学2年生のときにこの小説を読んだのですが、このような形の建物は見たことがなく、作中での説明を鵜呑みにして、これは「斜め屋敷」と同じく、トリック成立のための作者が考え出した特殊な建築物だと思いこんでいました。

それから約20年後。30を過ぎてからとある地方都市へ引っ越しました。その近所にこの形の団地を見かけたときは、本当に仰天しましたね。なんと実在したんだ!
この団地は昭和30年代後半から開発されたニュータウンで、なかでも最も古い建物がこの形でした。3棟並んでいましたが、筆者が見かけた時点ですでにボロボロの廃墟のようになっており、近くまでいってみたものの、人は住んでいませんでした。(今はすでに取り壊されてなくなっています)
その時点では、こんな建物が本当にあったとはねえ……と、単なる偶然の一致程度に考えていたのですが、その後、原武史「レッドアローとスターハウス」(新潮社)を読んで、実はこれは「スターハウス」というマンションのタイプで、全国的に展開されていたものだと知りました。



本書は東京のひばりが丘を中心にした文化・思想史を綴ったものですが、西武池袋線沿線で10年ほど暮らしたこともある筆者には、非常に興味深いものでした。
この中で、スターハウスについても詳しく語られています。
ひばりが丘では1棟だけ、モニュメント的にスターハウスが保存されているということです。(冒頭のGoogleストリートビュー)

また、ひばりが丘だけでなく、全国各地に今もまだ人が住んでいたり、あるいは単に取り壊されずに残っているだけ、といういった形で現存しているようです。



こちらは関西の仁川団地。スターハウスが何棟か立ち並んでおり、まさに三ツ矢マンションの様相です。

島田荘司ファンはぜひ一度、ご覧になることをおすすめします。

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島田荘司『占星術殺人事件』京都観光マップ

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201706占星術殺人事件088

島田荘司『占星術殺人事件』では、事件の手がかりを求めて御手洗潔と石岡和己が京都近辺を探索します。
と言っても、石岡くんの方はほぼ観光旅行に徹しており、京都が好きな読者には、そのあたりも楽しめます。
初版と現行版とでは、表現に若干の違いがあります。
●明らかなミスの修正
 ・初版では昭和53年に廃止されたはずの京都市電に乗っている。(御手洗と石岡が京都へ行ったのは昭和54年4月)
  →現行版ではバスで移動。
 ・四条河原町から橋をわたると、いきなり京阪三条駅へワープ。
  →京阪四条駅に訂正。
●表現の簡素化
 ・初日に昼食を取る中華料理店の名が「飛車角」
  →店名表記がなくなる。
……などなど。
このあたりの解説も加えつつ、Googleマップを作成してみました。





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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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