ギリシア神話は星座の伝説にも絡めて語られており、日本でも馴染みがあるのですが、プロメテウスだとかアポロンだとかイカロスだとか、登場する神々、人々の名前はなんとなく知っていても、体系的な物語としてはあまり深くは理解されていないのではないでしょうか。
しかし、ヨーロッパの文学、絵画、映画を鑑賞する際には聖書と並んで必須の知識となってきます。
今回は、ギリシア神話をコンパクトに理解するための本をいくつかご紹介します。
そもそも、ギリシア神話というのはベースになる本があるわけではありません。
古代ギリシアにおいて、口承されてきた伝説が詩や劇の形でじょじょに体系化されていったものであり、同じエピソードでも出典によって内容にゆらぎがあります。つまり、「この1冊を読めばギリシア神話のことはバッチリ!」という本は存在しないのです。
とはいえ、専門的に研究しようというのでなければ、有名なエピソードだけつまみ食いすれば充分です。
日本でおそらく一番よく読まれているギリシア神話の本は、阿刀田高のこの本ではないでしょうか。
全く初心者でも有名なエピソードを理解できるよう、興味深く平易な文章で書かれた入門書です。
一般的な教養としては、この本に書かれているレベルのことを知っていれば充分でしょう。
ただし、紹介されていないエピソードも多く、事典的な読み方には向いていません。
阿刀田高は本書以外にも聖書やコーラン、あるいは古事記や源氏物語、シェイクスピアなど、世界各国の文化の基礎になっている書物をやさしく紹介するシリーズを書いており、いずれもよく読まれています。
同じく初心者向け入門書でありながら、世に知られているエピソードをほぼもれなく収録しているのがトマス・ブルフィンチの著書です。日本での翻訳は現在、2種類が入手可能です。
ブルフィンチは19世紀のアメリカの作家で、アメリカの読者のためにヨーロッパの神話や伝承をまとめた著作を残しました。本書もその一つです。
非常に読みやすく、ギリシア神話の全体像を手軽に読むにはおすすめです。
角川文庫版に「完訳」と書かれていますが、岩波文庫版も完訳です。野上弥生子は戦前にこの作品を日本で最初に訳したことで知られていますが、本書は1978年に改訳されたものなので、それほど古臭い訳文ではありません。角川文庫版のほうが圧倒的に新しい訳ではありますが、ですます調の優しい文体で書かれた野上訳の方が筆者は好きです。
もう少し突っ込んで、ギリシア神話の深いところまで分け入っていくのであれば、こちらの本が決定版でしょう。
新潮文庫で長年、版を重ねているロングセラーなので、手軽な入門書かと思ったら大間違い。神話のエピソードはもちろん、その出典に至るまで非常に詳しく書かれた本で初心者が最初に読むには骨が折れるでしょう。
とはいえ、ギリシア神話について一通り理解した上で手に取れば、文庫本でありながら事典代わりにも使える充実した内容です。映画や小説で「?」と気になったことがあっても、本書が手元にあればすぐに調べられます。
というわけで、ギリシア神話についての一通りの知識は上記の本が揃っていれば充分です。
さらに深く、「原典」と呼ばれるものに触れてみたい、という方には以下のようなものがあります。
いずれも古代ギリシアの書物を翻訳したものです。
とはいえ、これが「原典」というわけではありません。冒頭に書いたとおり、ギリシア神話はさまざまな口承伝説の集合体だからです。これらの書物が表された時点ですでに、昔々から伝えられている物語を記述した、というものなのです。
ただし、ギリシア神話はその後、ローマ神話と混同され、エピソードや神々の性格づけがずいぶんと変質したと言われています。現代のヨーロッパで流布しているのはその変質後の神話なので実際のところ、教養としては変質後の物語を知っていればよいわけですが、岩波文庫などから出ている「原典」は変質前に記述されたものであり、そういった点では興味深いものがあります。
最後に、子ども向けにはこちらを。
石井桃子が書いた、児童向けギリシア神話の決定版。
読みやすく、とっつきやすいエピソードが集められており、星座から神話に興味を持った子どもにはおすすめの一冊です。
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