備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

怪談

小学1年生の次男が幽霊を目撃

今日未明、午前3時頃のこと。
この春から小学校へ上がり、自分のベッドで一人で寝るようになった次男の部屋から、「うわぁっー!」という、ものすごい悲鳴が聞こえてきました。
寝ぼけているんだろうと思いつつ覗きにいってみると、ベッドの横に呆然と座り込んでいます。
なんだベッドから落ちたのか、と思って、トイレへ連れていっておしっこだけさせると、もう一度寝かしつけました。

朝になってから、夜中に起きちゃったね、と声をかけると、はじめうちはあまり覚えていない様子だったのですが、急に思い出すと
「カーテンのところに知らない人の足があったから、ビックリしちゃった」
などと言い出すのです。そして淡々と
「でもね、ぼくがキャーってさけんだら、すぐに逃げちゃったから怖くなかったよ」
と続けます。

おいおい、それってむちゃくちゃ怖い話やんか。
朝の食卓は大騒ぎになりましたが、妻は、息子が怖がって、もう自分の部屋では寝ない、と宣言するのを恐れているのか「怖い夢を見ちゃったんだね」とか「オバケだったら足が無いはずだから、それはオバケじゃないよ」とか、一生懸命慰め、最終的には本人も「きっと、昨日寝る前に鬼太郎を見てたから、怖い夢を見ちゃったんだ」と納得していました。
しかし、いやいや、これはまぎれもなくオバケでしょう!

「足」と聞いて、私が思い出すのは、15年ほど前にあった一件です。
当時は東京で、新築のビルの中に開所したばかりの事業所に勤務していました。
ある日、女性スタッフが倉庫へ行って、戻ってくると、顔が真っ青になり、ぐったりとしているのです。
急に気分でも悪くなったのかと尋ねると「いや、大丈夫です、大丈夫です」と言いながら、やはり青ざめて冷や汗までかいています。周囲はみな心配して「少し横になったら……」などと声をかけていると、「実はイヤなものを見てしまって……」と言い出しました。

何を見たかというと、倉庫の棚の間から
「ゲートルを巻いた足」
がゴロンと突き出していたというのです。

怪談好きの私としては、それを聞いて「キタッー」と叫びたいくらい興奮したものですが、当の本人はずっと青ざめたままで、すぐ隣で大喜びするのは憚られる雰囲気でした。その後、この話はなんとなくタブーのような扱いになって、職場で口にする人はありませんでした。
そもそも、そのビルが立っているのは、かつて刑場があったという場所からほど近く、東京の怪奇スポット、という類の本を読むとその地域は必ず登場するようなところだったのです。
先輩の女性社員が退職する際、送別会の席で「休みの日に友人と一緒に建物の前を通りかかったので、ここが私の会社、と言ったら、友人は建物をジッと見つめて、あまり長いことここに勤めないほうがいいよ、と言われてしまった」などという話を披露していたこともあったりして、実はなかなか恐ろしい場所だったようです。

昔に聞いたそんな話を思い出したりして、朝からすっかり興奮してしまいましたが、私自身はこれまで怖い体験というのは全くないんですよね。
まあ、怖い目に遭いたいとは思っていないのでそれでいいのですが、次男は以前から、夜寝るとき、ふすまが開いたままだと「怖い怖い」と言ってなかなか寝ようとしませんでした。
なので、夏でも締め切った部屋で汗だくになって寝ていたものですが、単に幼いから怖がり、というだけでなく、もしかすると、いろいろ不思議なものが「視える」子どもだったりするのかもしれません。
とうとうの、俺の家族にそんな奴が現れたか、と怪談好きとしてはなかなか感慨深いものがあります。
引き続き彼の言動には注目していきたいと思っています。

現場写真
 DSC_0131


↓ ぜんぜん視えない人間としては、「そうか、視える、というのはこういうことなのか」というのがビジュアルでよく理解できる、非常に興味深い本。

視えるんです。 (幽ブックス)
伊藤三巳華
KADOKAWA/メディアファクトリー
2010-05-18


平成最後に買った本:松原タニシ「恐い間取り」二見書房

201905恐い間取り323

30年にわたった平成という時代は、筆者にとっては13歳から43歳という人生で最も本をたくさん読むであろう時期ときれいにかぶっていたわけですが、その時代が終わろうとしているとき最後に買った本は何か?
それは松原タニシ「恐い間取り」でした!
別に狙ったわけでなく、これを購入後数日間、特に何も本を買っていなかったら令和になっちゃったってだけなんですが。

もう一年近くも前、昨年の6月に出た本で、本屋の棚に並んでいるのはずっと気づいていたのですが、しかし「自分には関係ない本」と思い込んで、手に取ることすらせずに通り過ぎていました。
本ブログでは、刊行後、しばらく時間が経ってから買った本については、今更感の言い訳として、いったんdisりまくるのが恒例となっていますが、今回も買わなかった理由を先に。
筆者は怪談、それも実話怪談と言われるものは大好きなのですが、現実の殺人事件などを怪談ネタにしているのはどうも品がないような気がして好きになれません。
まあ、そういうものが好きな人がいるということは理解できるのですが、自分の趣味とは一線を画していました。したがって「事故物件怪談」という触れ込みだけで、興味の対象外となっていました。
また、著者が芸人という点。
これまた偏見に満ちた見解ですが、芸人が書いた怪談というのは、ラジオやテレビでふだん怪談にあまり馴染みが無い層から人気を得ているだけで、ネタとして怖くもないし、文章力もない、という思い込みがあり、「事故物件住みます芸人」という肩書で完全にアウト。
さらに言えば「怖い間取り」ではなく「恐い間取り」となっている時点で、怪談の素養はゼロ! 俺は読まなくていい本! と決めつけていたわけです。

しかし、たまたま見かけた紹介記事で、本書が「事故物件」というものにこだわっているわけでなく、単なる実話怪談として怖い内容だということを知り、それなら読まなければ!ということで買ってきたのでした。

結果的には……これは、めちゃくちゃ怖い!
著者の文章力もしっかりしており、またもや偏見で食わず嫌いしていたことを大後悔の内容でした。
大晦日になると訪れる謎の老人とか、写真までバッチリ載せちゃっているけど、なんなんだこれは。
なかには、あまり好きになれないタイプの「事故物件調査報告」的なエピソードもありますが、ほとんどの話は実話怪談として非常によくできています。
というか、怖すぎてサクサク読めないため、実は未だに最後まで読み切っていないのです。

というわけで、今更紹介するまでもないくらいよく売れているようですが、筆者同様、「幽」に載っているような上品な怪談は好きだけど、竹書房から出ているような怪談は勘弁だな、と考え、本書を同様のものだと思っている方、実はめちゃくちゃ怖い実話怪談集でした。
著者は7月にも同じく二見書房から新刊を出すようで、そちらも楽しみです。

事故物件怪談 恐い間取り
松原 タニシ
二見書房
2018-06-26


 
恐い旅(仮)
松原 タニシ
二見書房
2019-07-22

怪談専門雑誌「幽」30号で終刊!

201812幽303

怪談専門雑誌「幽」30号が発売されました。
「平成怪談、総括!」という特集に「これは大変」とさっそく買ってきたのですが、なんとなんと、今号を最後に「幽」の刊行には区切りをつけ、来夏からは「怪」とあわせたリニューアルが行われるということです。
2004年に「幽」が創刊されたときは、本当に興奮しましたね。
今回の特集でも語られていますが、怪談がブームとして認識されるようになったのはメディアファクトリーから再刊・シリーズ化された「新耳袋」がきっかけで、これが1998年のことでした。
それから数年、小説・エッセイの分野で怪談を得意とする書き手が次々と登場し、機が熟したところで「幽」の創刊。これぞ怪談文芸の本拠地、という場所が出来た印象でした。
あれからもう15年も経つとは。

当初は狂喜し、20号くらいまでは毎号必ず買っていたのですが、しかし、どんどん増える置き場所に困り、数年前にとうとう「気に入った連載は単行本を買うからいいや……」と、買うのをやめてしまいました。
うーん、30号で終わると先が見えていたら、やっぱりちゃんと買っていればよかった。

それはともかく、「平成怪談文芸年表」や怪談実話を巡る座談会、角川ホラー文庫の回顧など、筆者の世代には懐かしく、また資料価値も高い記事が満載。さらには、伊藤潤二と高橋葉介の対談まで!
最後まで、怪談については絶対の信頼をおける雑誌でした。
リニューアルで「怪」と一緒になるというのが気になりますが(「妖怪」と「幽霊」とは厳然と違うので)、今後、どんな展開をするのか楽しみにしたいと思います。

怪談専門誌 幽 VOL.30 (カドカワムック 763)
KADOKAWA
2018-12-18


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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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