備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

江戸川乱歩

講談社・大衆文学館「明智小五郎全集」は、実は乱歩ファン必見

201903明智小五郎全集309

電子書籍業界には疎いので、これが初めてなのかどうかよく知りませんが、講談社・大衆文学館から出ていた「明智小五郎全集」の電子書籍版が配信されているようです。

大衆文学館は、1995年から1997年にかけて講談社から刊行されていた文庫版の叢書で、講談社文芸文庫の大衆文学版のような位置づけのものでした。
文芸文庫と同じく、発刊当初は「絶版にせず永続的に刊行を続けるから価格がちょっと高め」と謳われていたような記憶がありますが、新刊が止まると同時に既刊もあっという間に店頭から姿を消してしまいました。
レベルの高い作品、レアな作品が並んでいたことから、今も熱心なコレクターがいるシリーズです。

江戸川乱歩の作品は本作のみ。
明智小五郎が登場する短編を全て集めています。
乱歩の小説作品は、刊行された95年頃には様々な形で入手可能であり、「わざわざこんなものを出す価値があるんかいな」と、当時思った記憶がありますが、店頭で手にとってびっくり。急いでレジへ走りました。
というのは、乱歩の著作集にこれまで一度も収録されたことがなかったという「脚本・黒手組」なるものが収録されていたのです。
これは、それ以前はもちろん、それ以後も他の本には収録されておらず、この本でしか読めません。
新保博久氏の解説によれば、脚色者は「小納戸容おなんどいる」となっていますが、短編「闇に蠢く」に「御納戸色」という人物が登場したことからもわかる通り、乱歩自身の筆名ということです。
というわけで、乱歩の著作でありながら、これまで全集などには全く収録されていないということになるのです。

平凡なタイトルからあまり大したことがないと見過ごされてきた観のある本書ですが、そういうわけで乱歩ファンは手元に持っていて損はないでしょう。
古書の入手もそれほど難しくはありませんが、電子書籍で容易に読めるようになりましたので、この機会にどうぞ。

※4月25日追記
大変申し訳ありませんが、「小納戸容おなんどいる」が乱歩の筆名、というのは筆者の読み間違いでした。新保博久氏の解説にはそのような記述はされていません。該当部分を引用します。
脚本黒手組」は昭和六年、二世市川猿之助と衝突して春秋座を脱退した末弟・市川小太夫が新興座を主宰、その旗揚げ公演の演目の一つに「黒手組」を取り上げ、「小納戸容」のペンネームでみずから脚色、東京、京阪神など全国で上演したものである。コナン・ドイルをもじった筆名は、かつて乱歩が初めての長編「闇に蠢く」(大15・1~11 苦楽)において、作品全体を作中作という体裁で、真の作者の筆名として設定した御納戸色にあやかってもいるのだろう。
 記事を削除したほうがよいレベルの勘違いですが、訂正文をつけていったんこのまま残します。お詫びを申し上げます。


明智小五郎全集 (講談社文庫)
江戸川乱歩
講談社
2019-03-15



テレビ朝日ドラマ「名探偵・明智小五郎」登場人物元ネタ

今月末にテレビ朝日で2夜連続ドラマ「名探偵・明智小五郎」が放映されるということです。
宣伝などを見ていると少年探偵団シリーズ第一作「怪人二十面相」をモチーフとしているようですが、海外ドラマ「シャーロック」を意識しているのか、完全に現代ドラマに置き換えられています。
というわけで、ドラマの内容自体は期待半分怖さ半分といったところですが、ひとまず登場人物名の元ネタを解説。

明智小五郎の助手・小林芳雄は、昭和5年の「吸血鬼」に助手として初登場し、昭和11年「怪人二十面相」から始まる少年探偵団シリーズでは、準主役級の活躍をします。戦後の作品にもずっと登場し続けますが、永遠に少年のままです。
ドラマには成人した小林くんが登場するようで、その奥さんは「小林真由美」と命名されています。
原作にはこのような女性は登場しませんが、少年探偵団シリーズでは途中から「花咲マユミ」という少女助手がメンバーに加わりました。おそらくこの少女をモデルにしていると思われます。

明智の奥さんは、やはり昭和5年の「魔術師」に初登場し「吸血鬼」で結婚した文代さんです。少年探偵団シリーズにも優しいお母さんといった役どころでちょこちょこと登場しますが、「怪人二十面相」には名前が一度出てくるだけで、登場はしていません。大人向け小説では「魔術師」はもちろん「人間豹」なんかでもとんでもない姿でよく出てくるのですが、少年探偵団シリーズではあまり重要キャラではないですね。

警察関係では浪越警部が出てきます。浪越警部といえば、どちらかといえば乱歩の大人向け小説「蜘蛛男」や「魔術師」の印象が強く、少年探偵団シリーズによく登場しているのは中村警部です。
また、中村警部は「中村善四郎」とフルネームが命名されていますが、浪越警部の下の名前が書かれたことはありません(たぶん)。
しかし、ドラマでは下の名前もついていますね。まあ「新宿鮫」の鮫島警部も映画化されたときは下の名前があったのでそういうもんです。
また、少年向け「怪人二十面相」を原作としながら、ドラマに登場するのが中村警部ではなく浪越警部となっているのは、制作局がテレビ朝日のためです。
テレビ朝日で明智小五郎といえば、言わずとしれた天知茂の美女シリーズ。ここではレギュラーとして荒井注演じる浪越警部が登場していました。テレビ朝日で乱歩作品を映像化するのであれば、浪越警部は必須、というわけです。

その他、今のところ発表されているあらすじに見えるキーワードを拾うと
「チームBD」……ハッカー集団ということですが、「BD」は「Boys」「Ditective」の略で、少年探偵団の略称です。団員は「BDバッジ」というアイテムを持っており、いろいろな場面で活用します。
「羽柴壮二」……「怪人二十面相」冒頭で家宝の宝石を狙われる大富豪の次男。少年探偵団の生みの親のような存在です。

というところで、今のところあまり情報がないのでこれくらいですが、放映後にまた気づいたことを書いてみたいと思います。

Kindleにて無料で読める青空文庫の探偵小説 江戸川乱歩編

怪人二十面相

本好きには有名なものですが、著作権の切れた作品をボランティアがテキスト入力し、無料で公開している「青空文庫」というサイトがあります。
ここで公開されている文章の一部は電子書籍化されており、AmazonではKindle版を無料でダウンロードすることができます。
しかし、いざKindleで探してみようとすると、どんな作品が公開されているのか、一覧がないためなかなか全貌を把握しづらかったりします。
そのため、自分の備忘も兼ねて一覧およびダウンロードページへのリンクを作成してみました。
今回は江戸川乱歩編。乱歩の著作権は2016年に切れているため、それ以降、あちこちの出版社から大量に乱歩の著作が刊行されています。電子書籍でも全作品まとめて200円、なんてのものを見かけますが、せっかくなら無料で読みたい、という方は参考にしてみてください。
なお、リンク先は記事作成時点(2019年3月3日)のものです。
青空文庫に記載されている、テキスト入力の底本も、それぞれ参考までに紹介しておきます。

『赤いカブトムシ』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。年少向けであり、ポプラ社版全集には未収録。
『赤い部屋』
 底本:光文社文庫/短編。
『悪魔の紋章』
 底本:光文社文庫/長編
『一枚の切符』
 底本:光文社文庫 /短編。
『一寸法師』
 底本:光文社文庫 /長編
『宇宙怪人』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『黄金豹』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『押絵と旅する男』
 底本:光文社文庫 /短編。
『お勢登場』
 底本:光文社文庫 /短編。
『恐ろしき錯誤』
 底本:光文社文庫 /短編。
『踊る一寸法師』
 底本:光文社文庫 /短編。
『怪奇四十面相』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『怪人と少年探偵』
 底本:光文社文庫/少年探偵団シリーズ。ポプラ社版全集には未収録。
『怪人二十面相』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『かいじん二十めんそう』
 底本:光文社文庫/少年探偵団シリーズ。1959年「たのしい一年生」連載開始。ポプラ社版全集には未収録。
『かいじん二十めんそう』
 底本:光文社文庫/少年探偵団シリーズ。1959年「たのしい二年生」連載開始。ポプラ社版全集には未収録。
『海底の魔術師』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『鏡地獄』
 底本:新潮文庫(江戸川乱歩傑作選)/短編。
『火星の運河』
 底本:光文社文庫/短編。
『奇面城の秘密』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『吸血鬼』
 底本:光文社文庫/長編
『黒手組』
 底本:光文社文庫/短編。
『黒蜥蜴』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『五階の窓』
 底本:光文社文庫/合作長編の第一回。
『湖畔亭事件』
 底本:光文社文庫/短編。
『サーカスの怪人』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『少年探偵団』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『心理試験』
 底本:光文社文庫/短編。
『青銅の魔人』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『接吻』
 底本:光文社文庫/短編。
『双生児』
 底本:光文社文庫/短編。
『算盤が恋を語る話』
 底本:光文社文庫/短編。
『探偵小説の「謎」』
 底本:現代教養文庫/エッセイ集。
『D坂の殺人事件』
 底本:光文社文庫/短編。
『鉄人Q』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『鉄塔の怪人』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。ポプラ社版では「鉄塔王国の恐怖」と改題。
『塔上の奇術師』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『透明怪人』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『虎の牙』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。ポプラ社版では「地底の魔術王」と改題。
『二銭銅貨』
 底本:光文社文庫/短編。
『日記帳』
 底本:光文社文庫/短編。
『二癈人』
 底本:光文社文庫/短編。
『人間椅子』
 底本:光文社文庫/短編。
『灰色の巨人』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『白昼夢』
 底本:光文社文庫/短編。
『パノラマ島綺譚』
 底本:光文社文庫/短編。
『一人の芭蕉の問題』
 底本:双葉文庫(日本推理作家協会賞受賞作全集 7 幻影城)/
『一人二役』
 底本:光文社文庫/短編。
『百面相役者』
 底本:光文社文庫/短編。
『ふしぎな人』
 底本:光文社文庫 /少年探偵団シリーズ。年少向けであり、ポプラ社版全集には未収録。
『魔法博士』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。
『まほうやしき』
 底本:光文社文庫(文庫の雑誌/ぼくらの推理冒険物語 少年探偵王 本格推理マガジン)/少年探偵団シリーズ。年少向けであり、ポプラ社版全集には未収録。
『夢遊病者の死』
 底本:光文社文庫/短編。
『モノグラム』
 底本:光文社文庫/短編。
『屋根裏の散歩者』
 底本:光文社文庫/短編。
『幽霊』
 底本:光文社文庫/短編。
『指環』
 底本:光文社文庫/短編。
『妖怪博士』
 底本:江戸川乱歩推理文庫/少年探偵団シリーズ。


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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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