備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

絵本

もじゃもじゃペーター Der Struwwelpeter

ぼうぼうあたま016

「もじゃもじゃペーター」という絵本をご紹介します。
これは原題を"Der Struwwelpeter"というドイツの絵本です。
子どもの教育のためのお話が並んでいるのですが、内容はなかなか強烈で、マッチで火遊びしていた少女は全身火だるまになり、何度注意されても指をしゃぶり続ける男の子は、部屋へ飛び込んできた「服屋さん」にハサミで指をちょん切られてしまいます。
というような教育に良いのか悪いのかイマイチわからない本ですが、本国ドイツでは非常に人気があり、amazon.deで検索すると、ポップアップ絵本やパロディやなど、たくさんの本が上がってきます。
筆者は以前、ポップアップ絵本を取り寄せてみましたが、服屋さんのハサミがチョキチョキ動いたりと、かなり悪趣味な出来栄えでした。

日本語版は3種類出ており、それぞれ訳文とイラストが異なります。



まず、日本で最初に翻訳されたものの復刻版。これは現在、銀の鈴社から『ぼうぼうあたま』というタイトルで出ています。訳者は「いとうようじ」となっていますが、実はこれは帝国海軍で大佐だった伊藤庸二という人です。この人は技術将校でレーダーの研究などをしていました。同盟国であったドイツに留学経験があり、そこで知ったStruwwelpeterを昭和11年に翻訳したのでした。
本書の特徴としては、まず翻訳が古い。戦前の訳なので当然ですが、これが実は奇妙な味わいをかもしており、個人的には非常に気に入っています。また、イラストは細密で美しいのですが、これは著者であるホフマンの死後に、別の画家によって描き直されたものです。本国ではこのイラストが最もスタンダードなものとなっています。



次に、ほるぷ出版から刊行された『もじゃもじゃペーター』。このタイトルは"Der Struwwelpeter"の訳題として、日本ではスタンダードなものとなっています。1985年発行のため、読みやすい訳文です。イラストは『ぼうぼうあたま』に比べるとずいぶん下手くそなのですが、実はこれこそ作者ホフマンが描いたオリジナルのイラストなのです。そういう意味では、貴重な一冊です。



最後に、生野幸吉・訳、飯野和好・絵の『もじゃもじゃペーター』。もとは1980年に集英社から発行されましたが、しばらく絶版となり、2007年にブッキング(復刊ドットコム)にて復刊されています。
これはイラストが飯野和好氏によるものであり、ホフマンのイラストを参考にはしていますが、もっとも「ふつうの絵本」という印象を受けます。「もじゃもじゃペーター」というタイトルでの翻訳は本書が最初ではないでしょうか。

実は、現在のところ「もじゃもじゃペーター」の2冊はいずれも絶版となり、新刊書店で買えるのは「ぼうぼうあたま」のみとなっています。さすがにドイツ本国ほどの人気は日本では維持できていないようです。
とはいえ、筆者は「ぼうぼうあたま」バージョンを訳文・イラストともに一番気に入っていますので、おすすめするのに問題はありません。

最恐トラウマ絵本「ことろのばんば」とは

201711ことろのばんば150

福音館書店は、幼稚園を通して申し込むと毎月一冊ずつ絵本を届けてくれるというサービスを実施しています。
いずれも以前に月刊誌「こどものとも」として刊行されたことのある作品ですが、その後は一般の書店では流通していない絵本ばかりです。
現在、年中の次男のためにわが家でも購読しているのですが、11月に受け取ってきた絵本がとんでもないものでした。
タイトルを見ただけでは、いったい何のこっちゃという感じで、特に興味を持たなかったのですが、妻が子どもへ読み聞かせているのを横で聞いていて仰天。めっちゃくちゃ怖い!

「ことろ」というのがいったい何かというと、「子盗ろ」です。
意味がわかると、このタイトルだけでゾッとしますね。
「ことろのばんば」は山で子どもを見かけると、壺を手に持って「コートロ、コトロ」と唱えます。すると、その子どもはみるみる小さくなって壺の中へ吸い込まれてしまうのです。

201711ことろのばんば151

壺を抱えて岩屋へ帰ると、今度は親指くらいの大きさになった子どもたちを壺から出し、遊ばせます。可愛い子どもたちが石けり、おにごっこなどしている姿を見るのが、ことろのばんばの何よりの楽しみなのです。しばらく遊ばせるとまた「コートロ、コトロ」と唱えて、子どもたちを壺へ戻します。
そんなやまんばに兄をさらわれた女の子が山へ救出へ向かうというストーリーなのですが、いやはや、子どもの頃から怖い絵本は大好きでしたが、こんなものがあったとは全然知りませんでした。
何より怖いのは、やまんばが子どもを「ばんばのたから」と思い込んでいるところ。イーストウッド監督の「チェンジリング」を思い出しました。

文章を書いているのは長谷川摂子です。この人は昔話の絵本を得意としており、岩波書店から出ている「てのひらむかしばなし」なども手がけています。
この「ことろのばんば」に元になる話があるのかどうかわかりませんが、昔話風の物語としてとてもよくできています。
奥付を見ると月刊誌「こどものとも」に掲載されたのが1990年11月号ということで、筆者はその頃はもう中学生だったので、知らなくて当然でした。その後、特製版という形で幼稚園・保育園を通して何度か販売されたことがあるようです。
一般書店で流通させても、最恐トラウマ絵本として名作の殿堂入りするように思うのですが、このような形態のみで刊行することにしたのは、なのか選別の基準があるんでしょうかね。
ふつうには購入しづらいためか、ネットで検索するとAmazonではマーケットプレイスのみに出品されていて、かなりの高額になっています。
ともかく、非常にラッキーな年に子どもを幼稚園に通わせていたものだ、と実はパパが一番喜んでいたりします。

肝心の子どもの反応はというと、実は目下、一番ハマっている絵本がこれだったりします。
こんな怖い話、子どもに聞かせてええんかいな、と思ってしまいますが、この食いつきぶりを見ると、やはり子どもは怖い話が好きなんだな、と思います。
特に次男は「ねないこだれだ」というこれまたかなり怖ろしい絵本を書いている、せなけいこが大好きで、一時期は寝る前に読む本はせなけいこばかり、という時期がありました。基本的に怖い絵本が好みに合っているようです。

というわけで、なかなか入手困難ではあるのですが、怖い絵本が好き方には確実に満足を保証できる絵本です。

ことろのばんば (こどものともコレクション2009)
長谷川 摂子



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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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