備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

筋肉少女帯

元ネタ探究 筋肉少女帯「レティクル座妄想」

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「レティクル座」とは南天にある実在の星座です。天文愛好家の間では「レチクル座」という言い方のほうが一般的であるようです。日本では鹿児島以南でしか見られないそうです。
筋少のアルバムタイトルにこんなマイナーな星座が登場するのは、ほかでもありません。UFOによるヒル夫妻誘拐という、その筋では有名な事件があり、そのUFOがレティクル座から飛来したとされているのです。(詳しくはWikipediaのヒル夫妻誘拐事件参照)

1.レティクル座行超特急

5曲目の「さらば桃子」とモチーフが共通しているように感じます。
【ジム・モリソン】
The Doorsのボーカリスト。詩人としても有名。「水晶の舟」はデビューアルバムの中の一曲。

2.蜘蛛の糸

タイトルは言うまでもなく、芥川龍之介の短編「蜘蛛の糸」から。
内容的には、この曲とほぼ同時期に発売されたオーケンの長編小説「グミ・チョコレート・パイン」とモチーフが共通しています。

3.ハッピーアイスクリーム

筆者はよくしらないのですが、70年代から80年代にかけて、「ハッピーアイスクリーム」という遊びが流行ったそうです。友人と会話していて、たまたま同じ言葉をかぶって言ってしまうということがありますが、そんなときに先に「ハッピーアイスクリーム」と叫んだほうが勝ち、というものだそうです。曲のタイトルはそれが念頭にあるようです。
【ノゾミ・カナエ・タマエ】
オーケンの歌詞に繰り返し登場します。「望み叶え給え」ということですが、「欽ちゃんのどこまでやるの」という番組の中で結成されたユニット「わらべ」の3人につけられた名前が元ネタです。わらべは「めだかの兄妹」や「もしも明日が」という曲がよく知られています。

5.さらば桃子

オーケンの短編小説集『くるぐる使い』に収録された「のの子の復讐ジグジグ」とモチーフが共通しています。

6.ノゾミ・カナエ・タマエ

タイトルは先に書いたとおり、「わらべ」が元ネタです。この歌は筋少がメジャーデビューする前から少しずつ形を変えて歌い続けられてきたものです。「レティクルの神様」はこのアルバムにあわせて登場したもので、初期のバージョンには出てきません。

7.愛のためいき

原田知世主演・大林宣彦監督の角川映画「時をかける少女」のワンシーンを完コピしたもの。単に歌詞やセリフをなぞるだけでなく、「ららら」という合いの手や、セリフの間まで、完全に再現しています。
おかげさまで筆者は、結婚したばかりの頃に妻と一緒にDVDで「時をかける少女」を見ていて、該当シーンを完璧にハモってしまい、ドン引きされました。

8.ワダチ

【ゆうべ一人の男が死んだ】
杉良太郎の歌「君は人のために死ねるか」の冒頭「昨日ひとりの男が死んだ」から。この歌は「大捜査線」という刑事ドラマの主題歌でした。かなりアクの強い歌で、その筋では有名です。
【大きな歴史の転換の蔭には……】
歌詞カードに明記されているとおり、木村久夫の文章の引用。木村久夫というのは京都帝大の学生で、太平洋戦争に学徒出陣し、戦後にB級戦犯として処刑されました。これは、その遺書の一節です。

12.飼い犬が手を噛むので

【ルイス・キャロル】
「不思議の国のアリス」の作者。
【アリス・リデル】
「不思議の国のアリス」のアリスのモデル。
【フーディーニ】
20世紀初頭の活躍したアメリカの奇術師。
【バーニー・ヒル】
レティクル座から来たUFOにさらわれた夫婦の夫の方。
【トーマス・F・マンテル】
UFOを追跡した後に墜落したアメリカ空軍大尉。オーケンの小説「グミ・チョコレート・パイン」の登場人物たちは「キャプテン・マンテル・ノーリターン」という名のバンドを結成します。
【ケネス・アーノルド】
UFO事件に巻き込まれたアメリカの社長。
【カスパール・ハウザー】
19世紀初頭のドイツに現れた謎の少年。
【風船おじさん】
本名・鈴木嘉和。1992年にヘリウム入りの風船を大量につけたゴンドラで琵琶湖畔から空へ飛び立ち、アメリカへ向かうという言葉を残して消息を絶った。このアルバムが発売される2年前のできごとです。

以上、固有名詞が多すぎるので有名なものは省略しました。


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元ネタ探究 筋肉少女帯「UFOと恋人」

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プロデューサーとして佐久間正英を迎えているためか、ポップな曲調のものが多いアルバムです。とはいえ、タイトルや、乱歩ネタだらけの裏ジャケットなど、筋少らしさも横溢しています。

1.おサル音頭

【ボーン・トゥー・ビー・ワイルド】
Steppenwolfの1968年の曲「Born to be wild」から引用。おサルの歌に挿入するセンスが最高だと思います。
【ボレボレ島】
歌詞カードや、詩集「花火」では「ボレボレ島」となっていますが、実際の歌唱は「ポレポレ島」と聞こえます。いずれにしてもそんな島はありません。サブカル関係者には馴染みが深い映画館「ポレポレ東中野」と関係があるのかどうか?
【Let it be】
言わずと知れた、ビートルズの曲。

3.くるくる少女

『くるぐる使い』に収録された短編「キラキラと輝くもの」とモチーフが共通する曲です。ちなみに、この短編集の表題作「くるぐる使い」は、タイトルは似ていますが、内容は全く関係ありません。

4.高円寺心中

【ヘイ・ユー】
1973年の左とん平「とん平のヘイ・ユウ・ブルース」から。この曲はのちに大槻ケンヂのソロアルバムでカバーもしています。筋少でカバーする計画もあったものの、一部のメンバーから拒否されたそうです。
【高円寺純情通商店街】
高円寺に実在する商店街は「高円寺純情商店街」。ねじめ正一がこのタイトルの短編集で平成元年に直木賞を取っています。

6.きらめき

筋少らしからぬ爽やかな印象のラブソング。その辺の「らしくなさ」を「野口五郎が歌うよな」「あたかもニューミュージックのような」と自身で茶化していますが、筆者は個人的に名曲だと思っています。

7.君よ!俺で変われ!

これまた、非常に美しい歌詞なのですが、オーケンの回想によると、受けそうな単語を羅列して意図的に作ったものだそうです。
【カフカ・フェリーニ・マザーグース】
サブカル少女が好みそうなものを羅列してみた、ということではないかと推測します。
【ダークサイドだオブ・ザ・ムーン】
オーケンの詩に頻出の「月の裏側」という意味ですが、ここでの元ネタはピンク・フロイドのアルバム「The Dark Side of the Moon」からかな、という気がします。

8.俺の罪

タイトルはレッド・ツェッペリンの曲から。
【イージー・カム イージー・ゴー】
「悪銭身につかず」といった意味のことわざなので、一般的な英語表現ですが、タイミング的にB'zの「Easy Come, Easy Go!」を意識している可能性も。(いや、それはないか?)
【ボーン・トウ・ビー・モンキー】
「おサル音頭」の「ボーン・トゥー・ビー・ワイルド」をさらに引用。「Let it be」も再度登場します。

10.パレードの日、影男を秘かに消せ!

【影男】
乱歩の長編小説「影男」から。「パレード」という単語も乱歩を連想させます。
【猟奇の果て】
乱歩の長編「猟奇の果」を意識しています。前作アルバム「エリーゼのために」には「世界の果て~江戸川乱歩に」という曲も収録されています。

11.タイアップ

このアルバムがタイアップ曲だらけになったことを自ら皮肉のつもりで歌ったものの、「そんなに金がほしいのか」というコアなファンからの苦情もあったそうです。

13.バラード禅問答

【ドアホウ!】
水島新司の1970年の漫画「男どアホウ甲子園」が念頭にあるのでは、と推測します。無理矢理な関西弁もこの漫画を意識しているのではないでしょうか。


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元ネタ探究 筋肉少女帯「エリーゼのために」

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タイトルは言わずと知れたベートーベンのピアノ曲ですが、当時オーケンがつきあっていたエキセントリックな彼女をことを指しているとも言われています。
このアルバムで初めて佐久間正英をプロデューサーとして迎え、ポップな恋歌が混ざってきています。

1.人生は大車輪

このアルバムの発表直前に初のベストアルバム「筋少の大車輪」を発売しています。
ちなみに筋少は「大~」というタイトルのアルバムが多いのですが、これは『大槻ケンヂ20年間わりと全作品』によれば、松本零士の漫画「男おいどん」に「大食堂」とか「大ラーメン」とかいう表現がよく出てきて、内田雄一郎とともにそれが好きだったから、ということです。

2.世界の果て~江戸川乱歩に~

タイトルは乱歩の長編「猟奇の果」を意識しています。歌唱にピー音が入っていますが、「狂人」という言葉が引っかかったとのこと(『大槻ケンヂ20年間わりと全作品』より)。オーケンは、このような場合はふつうは歌詞を変更するそうですが、この時は単純に時間がなかったそうです。(とはいえ、「ピー」の位置がややずれているため、歌詞カードを見なくてもはっきり聞き取れますが……)
【浅草ロック座】
「猟奇の果」はもちろん、「押絵と旅する男」など、乱歩作品にはしばしば浅草が登場します。しかし、乱歩が浅草を舞台に小説を書いていた時期、ロック座はまだありません。オーケンがそれを念頭に置いていたかどうかは定かでありませんが、主人公の男は乱歩の世界を追憶していると解釈すべきでしょう。
なお、詩集「花火」のあとがきには「レッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)のパクリ」と書いてありますが、音楽に疎い筆者にはよくわかりません。

3.ソウルコックリさん

全体的に、吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」(1984年)のパロディ、というかほとんど替え歌のようなものです。

6.生きてあげようかな

当時つきあっていた、自殺志願のエキセントリックな彼女のために作った曲、ということです。

7.スラッシュ禅問答

【二日酔いの 無念極まる僕のため もっと電車よ真面目に走れ】
絶叫歌人・福島泰樹の短歌。歌集『バリケード・一九六六年二月』(1969年)から。
【幾時代かがありまして……】
歌詞カードにもある通り、中原中也の詩「サーカス」から。

10.新興宗教オレ教

このアルバムの直前に長編小説「新興宗教オモイデ教」を発表しています。内容的にはこの曲とはつながりはありません。

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profile

筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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