先月末に出たばかりの本ですが、語学書専門のアルクから出版されているせいか、文芸書売場であまり見かけないので、紹介しておきます。
著者の宮脇孝雄氏は言わずと知れた「死の蔵書」の訳者。数多くのミステリを翻訳しています。
また翻訳家としてのエッセイも多く、アルクから発行する著書もこれで3冊目です。
アルクは語学好きをターゲットとしているため、これまでの著書は文学好きというよりは、一歩踏み込んで、原書を読んだり、更には翻訳家を目指したりと言った層を対象にしている印象がありました。
今回の「洋書天国へようこそ」もタイトルからわかる通りそういった読者を念頭には置いているものの、よく見ると帯に「翻訳で読んでもおもしろい!」と書いてあるではないですか。
そう、筆者のように、学生時代に最も苦手だった科目は英語、小説は好きなのに原書を読んだことは一度もない、英語を読めたらどんなに楽しい読書生活が広がることかと、嘆息しているな読者でも楽しめる内容なのです。
取り上げている小説は、知らないものもたくさんありましたが、大半はミステリ・SFファンには馴染みのある有名作品です。
作家の文章の癖や、微妙なニュアンスなど、翻訳家らしい視点を織り交ぜながら作品の魅力を語っており、未読の本を読みたくなるのはもちろん、昔読んだ本も「あれ、そんなに面白い小説だったっけ?」と、改めて読み返したくなる。
読書ガイドとして非常に楽しい内容になっています。
取り上げている作品は以下のとおりです。
『移動祝祭日』アーネスト・ヘミングウェイ
『さらば愛しき女よ』レイモンド・チャンドラー
「プロシア士官」D・H・ロレンス
『よき兵士』フォード・マドックス・フォード
『情事の終り』グレアム・グリーン
『サン・ルイス・レイ橋』ソーントン・ワイルダー
『大転落』イーヴリン・ウォー
『スタイルズ荘の怪事件』アガサ・クリスティ
『碾臼』マーガレット・ドラブル
『チップス先生さようなら』ジェイムズ・ヒルトン
『女ごころ』サマセット・モーム
『八月の光』ウィリアム・フォークナー
『クリスマス・キャロル』チャールズ・ディケンズ
『二十日鼠と人間』ジョン・スタインベック
『ゴールド・フィンガー』イアン・フレミング
『ツバメ号とアマゾン号』アーサー・ランサム
『ジャマイカの烈風』リチャード・ヒューズ
『夏への扉』ロバート・A・ハインライン
『結晶世界』J・G・バラード
『ミレー詩集』エドナ・セント・ヴィンセント・ミレー
『ジェニーの肖像』ロバート・ネイサン
『ナイン・ストーリーズ』J・D・サリンジャー
『長距離走者の孤独』アラン・シリトー
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック
『魔法の樽』バーナード・マラマッド
『九マイルは遠すぎる』ハリイ・ケメルマン
『ローズマリーの赤ちゃん』アイラ・レヴィン
『ガラスの動物園』テネシー・ウィリアムズ
『時計じかけのオレンジ』アントニイ・バージェス
『風にのってきたメアリー・ポピンズ』P・L・トラヴァース
『デイジー・ミラー』ヘンリー・ジェイムズ
『ガラスの鍵』ダシール・ハメット
『帽子収集狂事件』ジョン・ディクスン・カー
『アラバマ物語』ハーパー・リー
『遠い声 遠い部屋』トルーマン・カポーティ
『ライオンと魔女』C・S・ルイス
『秘密の花園』フランシス・ホジソン・バーネット
『エジプト十字架の謎』エラリー・クイーン
『死体をどうぞ』ドロシー・L・セイヤーズ
『床下の小人たち』メアリー・ノートン
『白鯨』ハーマン・メルヴィル
『ナンタケット生まれのアーサー・ゴードン・ピムの物語』エドガー・アラン・ポー
『宇宙船ビーグル号』A・E・ヴァン・ヴォクト
『刺青の男』レイ・ブラッドベリ
『勇気ある追跡』チャールズ・ポーティス
『卒業』チャールズ・ウェッブ
『幻の女』ウィリアム・アイリッシュ
『ラブ・ストーリィ』エリック・シーガル
『ギリシア詞歌集』ピーター・ジェイ
邦題がいくつかある作品については、著者が最初に触れた翻訳本に合わせていると思われます。
『勇気ある追跡』って、コーエン兄弟が「トゥルー・グリッド」としてリメイクした映画の邦題やんか、と思いましたが、旧作が公開されたときはこのタイトルで翻訳が出ていたんですね。