備忘の都

40年間の読書で得た偏った知識をツギハギしながら、偏った記事をまとめています。同好の士の参考に。

映画本

なぜか文庫化されない俊藤浩滋インタビュー本「任侠映画伝」(1999年・講談社)

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1999年に講談社から刊行された「任侠映画伝」という本があります。
60年代の東映任侠路線をほぼ一人で取り仕切ったプロデューサー俊藤浩滋に山根貞男がインタビューしたものです。本書が刊行された2年後に俊藤は亡くなっていますが、劇場公開作として最後の作品となった「残侠」の公開にあわせて刊行されました。

俊藤浩滋は東映やくざ映画史を語る上では最もページ数を費やされるべき存在です。
映画界に入るまではヤクザだった……ということがよく冗談めかして言われますが、冗談ではなくて本当にヤクザだったんじゃないかというような迫力のある親分肌の人物で、鶴田浩二も高倉健も俊藤浩滋がいなければあれほどの大スターにはなり得ませんでした。

東映任侠路線が下火になると「仁義なき戦い」を皮切りに実録路線がスタートします。
「仁義なき戦い」一作目こそはプロデューサーに名を連ねた俊藤ですが、実録路線には否定的でした。あくまで任侠の美学を追求しており、「仁義なき」なんてのはとんでもない、という一貫した姿勢でした。このため、東映では立場がなくなり、同時に任侠映画も滅びます。まさに「残侠」というわけです。本書の終盤は俊藤の思いが溢れており、読んでいて胸が熱くなってきます。

というわけで、任侠映画好きには非常に興味深い内容の本なのですが、不満がないでもありません。
2段組で約300ページというそこそこのボリュームはあるのですが、それにしては非常に内容を薄く感じる。
東映に関するインタビュー本というと、本書の数年後に次々と刊行された「昭和の劇」「映画監督 深作欣二」「遊撃の美学」などがありますが、この辺の大作感が本書にも欲しかったところです。映画一編ずつに対する突っ込みが足りません。
とはいえ、俊藤浩滋をまともに扱った本というのは今のところ本書くらいしかなく、すでに亡くなっているので改めてインタビューすることもできない。つまり、東映任侠映画に関する証言としては唯一無二の本なのです。

そんな貴重な本なのに、単行本が出たきり、一度も文庫化されていないのはどういうわけなのか。
いくら時間が経っても本書の重要性は変わりません。どこか(できれば、ちくま文庫)が拾ってくるくれることを祈っています。

任侠映画伝
俊藤浩滋・山根貞男
講談社




俊藤浩滋の愛人としても知られた銀座マダムの伝記。こっちは文庫にもなって版を重ねています。


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「東映実録バイオレンス浪漫アルバム」杉作J太郎(徳間書店)

「東映実録バイオレンス浪漫アルバム」杉作J太郎(徳間書店)

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ここ最近、順調に新刊が出続けている杉作J太郎・植地毅の「浪漫アルバム」シリーズですが、来ました! 今回は「東映実録バイオレンス」です。

新刊紹介の前に、この「浪漫アルバム」とは何か?
徳間書店の「ロマンアルバム」といえば、アニメガイドブックの老舗シリーズとして知られていますが、同じ徳間書店でもこっちは「浪漫アルバム」。杉作J太郎先生がひたすら東映への愛を語り続ける男のための映画ガイドブックシリーズです。
第一弾は「仁義なき戦い浪漫アルバム」。刊行から20年たった今も版を重ね、これを超える「仁義なき戦い」関連本は現れることがない、空前絶後の内容です。

仁義なき戦い 浪漫アルバム
杉作 J太郎
徳間書店
1998-05-01


これが出た当時は、単発の企画と思われましたが、翌年すぐさま第2弾が出ました。



これは「女囚さそり」や「女番長」など、東映のプログラムを埋めるため量産された東映ポルノを総括するもの。

このあと続刊が途絶えたため、この2冊で終わったと思っていたところ、15年のブランクの後に刊行されたのがこちら。

トラック野郎 浪漫アルバム (一般書)
杉作 J太郎
徳間書店
2014-04-08


言わずと知れたトラック野郎。これまた、最強の「トラック野郎」本となっています。
そして、お次はこちら。

東映スピード・アクション浪漫アルバム
杉作 J太郎
徳間書店
2015-09-16


「スピードアクション」というまとめ方で、「狂った野獣」「新幹線大爆破」「暴走パニック大激突」など70年代の人気作をまとめて扱っています。宇宙暴走族が出てくるから、ということで「宇宙からのメッセージ」もここで登場。
そして、昨年出た最新刊がこれです。

不良番長 浪漫アルバム
杉作 J太郎
徳間書店
2017-03-28


というわけで、今回の「東映実録バイオレンス浪漫アルバム」はシリーズ6冊目ということになります。

東映実録バイオレンス浪漫アルバム
杉作J太郎
徳間書店
2018-04-21


東映実録バイオレンスとは何か?
東映は1960年代から不振の時代劇に代わって任侠路線をスタートしますが、これが大ヒット。鶴田浩二、高倉健の2枚看板で任侠映画を量産します。
その一方、東京撮影所では深作欣二監督らがギャング映画を撮っていましたが、任侠映画の人気に陰りが見えた73年、「仁義なき戦い」の大ヒットによってそれまでの任侠路線に終止符が打たれ、任侠とギャングが合流した「実録路線」がスタートするのです。
「実録」を謳っている以上、モデルとなる事件・人物が存在する映画がほとんどですが、中には「実録風味」で全くオリジナルのものも多々あります。「脱獄広島死刑囚」に始まる松方弘樹主演シリーズなんかがそうです。

本書はファン目線(それもとびっきり濃いファン)で「仁義なき戦い」に続くヤクザ映画の世界が語られています。
個人的には、「日本の首領」シリーズについてたっぷりとページを取っているのが嬉しかったです。このシリーズ、大味なオールスター映画といえなくもないのですが、なぜか定期的に見直してしまうんですよね。本当に金をかけて作ってるなあ、とゴージャスな気分になれます。なんせ、出演しているのが佐分利信、三船敏郎、片岡千恵蔵ですからね。この3人が並ぶ映画はこれだけです。

というわけで、実録路線のガイドブックとしては、これまた決定版となることでしょう。

他に「実録」関連本をご紹介。


映画のモデルになって事件が詳細に紹介されており、ファンにはとても参考になります。


映画の奈落: 北陸代理戦争事件
伊藤彰彦
国書刊行会
2014-06-02

映画と現実とがリンクしてしまった、「北陸代理戦争」事件の全貌を描いたノンフィクション。


実録路線の指揮を執ったプロデューサーの回顧録。

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「孤狼の血」のキャストを「仁義なき戦い」の役者で考えてみる

映画「ラビリンス/魔王の迷宮」(1986年)のコンセプトアート集

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「パンズ・ラビリンス」のメイキングを読んでいたら、急に思い出してDVDを見直したのが、こちらの映画。
タイトルが共通しているだけで、雰囲気や内容は全く違う「ラビリンス/魔王の迷宮」です。
この映画を初めて見たのはテレビ放映のときでした。
小学生の時だったと思いこんでいましたが、調べてみたところどうやら中学1年の夏休みだったようです。ジェニファー・コネリの吹き替えは喜多嶋舞があてていました。
母の実家である、おばあちゃんの家へ家族で泊まりにいっており、夜にテレビをつけたらちょうど映画が始まったので、兄と見ていた、という状況で、いったいどんな映画なのか予備知識は完全にゼロで観ました。
これが、面白かったのなんの。ヒロインの陥る危機にハラハラし、クリーチャーたちのコミカルな騒動に抱腹絶倒し、といった調子で、この世にこんなにおもしろい映画があったのか、というくらいに堪能した記憶があります。
一つ上の兄はこのあとすぐに、講談社X文庫から出ていたノベライズを買っていたので、兄弟でかなりハマったわけです。

さて、テレビで一度見ただけで、この映画に対する知識はほとんどないままでした。定期的にレンタルしてきて見直すことはありましたが、当時はインターネットもなかったので、製作の背景を詳しく調べたりすることはありませんでした。
2005年になってから、ようやく待ちに待ったDVDが発売されたわけですが、これのメイキングを見て、ようやくのこの映画がとんでもない職人芸のアナログ作業で作られていたと知り、ますます評価が上がりましたね。
この映画が好きな方は、DVD、ブルーレイに収録されているメイキングは必見です。
CGをほぼ使わず、大変な苦労をして撮影していたことがわかり、本編以上の感動を覚えます。








さて、ここまでの話は筆者が語るまでもなく、世の中の方はよくご存じでしょう。

ところで、この映画のコンセプトアート集が刊行されているのをご存じでしょうか?
この本、実におかしな形で発行されていたため、映画ファンには全く気づかないままだったように思われます。

いたずら妖精ゴブリンの仲間たち
ブライアン・フラウド
東洋書林
2001-08


「ラビリンス」のデザインとしてブライアン・フラウドが描いたゴブリンのイラストに、やはり「ラビリンス」の脚本を担当したテリー・ジョーンズが解説文を添えており、冒頭にはジム・ヘンソン監督への献辞もあります。原著の刊行は1986年となっており、つまり、どっからどう見ても「ラビリンス」のコンセプトアートというわけなのです。
ところがこの本、邦訳が出たのがようやく2001年のことで、すでに「ラビリンス/魔王の迷宮」は過去の映画となっていました。
このため、冒頭の画像を見ていただくとわかりますが、「映画ハリー・ポッターにぞくぞく登場!」とワケのわからない帯をつけて、単なるゴブリンがテーマの絵本という扱いで刊行されたのです。
筆者も危うく見落とすところでしたが、書店でたまたま「あれ? ラビリンスっぽい」と思って手に取り、あとがきなどをよく読むと、おお、なんと!「ラビリンス」のコンセプトアートではないですか!
内容は登場するゴブリンたちのイラストに添えて、その設定を図鑑風に記載いるものです。

こんなおかしな形で刊行しないで、ハッキリと「ラビリンス」関連本とわかるように出した方がよかったのでは、と思いますが、その辺どうなんでしょう。
ともかく、「ラビリンス」ファンには未だにほとんど認知されていない本と思われるため、今さらながらここで紹介してみました。


この映画は、サントラも最高です。

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筆者:squibbon
幼稚園児の頃から40を過ぎた現在に至るまで読書が趣味。学生時代は読書系のサークルに所属し、現在も出版業界の片隅で禄を食んでいます。
好きな作家:江戸川乱歩、横溝正史、都筑道夫、泡坂妻夫、筒井康隆、山田風太郎、吉村昭。好きな音楽:筋肉少女帯、中島みゆき。好きな映画:笠原和夫、黒澤明、野村芳太郎、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・フィンチャー。
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