202011大林宣彦031

書店の映画本コーナーへ行って、のけぞりました。
こんな本が出ていたの、全然気づいていなかった……
10月末に刊行された「A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る」(立東舎)です。
750ページもある大著。
全監督作について、詳細なインタビューに答えています。

この手の、映画人に対する全作品インタビューという企画が私は大好きで、これまでにも笠原和夫、深作欣二、中島貞夫、小林正樹、佐藤純彌、野村芳太郎(インタビューじゃないけど)、といろいろ読んできましたが、それらと比較しても1作品に対するページ数や掘り下げなど、群を抜いている仕上がりと感じました。
私が最も好きな大林映画は高校一年生のとき、なんとなく一人で見に行ってとんでもない衝撃をくらって帰ってきた「ふたり」ですが、石田ひかりのエピソードはもちろん、製作のきっかけや技術面など詳細に語っていて、堪能しました。
さらに素敵なのが、大林宣彦映画と縁の深かった人やファンを公言している著名人から「一番好きな作品」についてアンケートを取り、その中で寄せられた大林監督への質問一つ一つ、丁寧に回答しているコーナー。監督の真摯な人柄を感じます。
「ふたり」の脚本は、大林監督の盟友・桂千穂ですが、桂氏は最も好きな大林映画として「ふたり」を挙げていて、それもとてもうれしく感じました。

真摯な、といえば本書を開いて真っ先に注目したのは問題作「漂流教室」について。
予想外の内容に驚きました。
ドタバタしていた舞台裏を打ち明け、真摯な反省を口にしています。
以前、「映画秘宝」に楳図かずおのインタビューが載ったとき、「漂流教室」から20年近く経っていたにも関わらず、未だに仕上がりに激怒していたので、監督の方はどんな風に思っているのかな、と気になっていたのですが、本書のインタビューを読んでなんだかホッとするような気持ちになりました。大森一樹による「漂流教室」評も、大林監督に対する愛を感じました。

ところで本書ですが、立東舎からこんなに分厚い映画本が出るとは意外な、と思ったのですが、インタビュアーを務めた馬飼野元宏氏による序文を読むと「出版を予定した版元の消失」とあり、なるほど、これは洋泉社から映画秘宝コレクションか何かの形で刊行される予定だったようです。
映画秘宝バージョンの装丁だったらどんな本になっていたのか、それも見てみたかった気がしますが、実際に刊行された本書の装丁はとてもいい感じで、永久保存版として書棚を飾るのにふさわしい一冊です。




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