先月、脚本家の桂千穂氏が亡くなりました。
「HOUSE」「ふたり」などで組んだ盟友というべき大林宣彦監督と相前後してなくなったということになりますが、実は筆者は、氏の業績については数多くの名脚本より、晩年に立て続けにメディアックスからムックで刊行された「戦後映画の語り部」 という一面が強く印象に残っています。
ズラッと並べるとこんな状態。(かなり出ていたので、見落としがあるかもしれません)
いずれも、表紙にバンと「桂千穂」と出ていても、ムックなので一人で執筆しているわけではなく、また編者というわけでもなく、メインライターとして参加しているだけのものがほとんどですが、とはいえ読んでみると、やはり表紙にバンと名前を上げたくなるのも納得の活躍ぶりです。
このシリーズで、筆者が最も気に入っているのは2015年11月に出た「本当に面白い怪奇&ミステリー 1945⇒2015」ですね。
「恐怖奇形人間」の脚本家・掛札昌裕との共著という扱いになっていますが、この二人で戦後日本のミステリ映画を片端から語りまくってます。
表紙に「みんなが知っている怪奇映画から〝誰も知らない〟ミステリーまで」とありますが、実際のところ全然知らなかった映画ばかり!
神津恭介が登場しない「刺青殺人事件」とか、フィルポッツ「闇からの声」が原作の「悪魔の乾杯」とか、「そんな映画があったの!?」と驚くようなものがずらりと並びます。
なおかつ著者2人はそれらを劇場公開時に見ていて、「観客の反応はこんな風だった」というような思い出話を織り交ぜながら語るので、読み物としての興味も、資料価値も一級の仕上がり。
「犬神家の謎 悪魔は踊る」とか「獄門島・獄門島解明編」のように、有名ではあっても、もはやフィルムが失われている映画についても当時見た感想を述べているのですから、最強です。
というわけで、ともかく亡くなる前にこれだけのことを記録に残してくださいまして、本当にありがとうございました、という感想しかないのですが、筆者としてはこの本は死ぬまで手元に置いて、定期的に読み返すことになるだろうと考えています。
だって、今後、こんな本を書ける人はもう絶対に現れないから。
刊行から早くも5年も経っていることに、この記事を書きながら初めて思いが至りましたが、ムックで出したキリにしてないで、改めて単行本化してもよいのでは、と思っております。
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