
とうとう4月は一度も更新しなかったうえ、たまに更新すると復刊の話ばかりなんですが、今回も。
昨年10月に光文社文庫から「黄土の奔流」が復刊されたので、ついでに「浪漫疾風録」も出ないかな、と思っていたところ、今月、中公文庫から刊行されます。
とはいえ、これが「復刊」か。
「生島治郎」という著者名を見て昭和の冒険小説だと勘違いされる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは1993年(平成5年)初刊です。
筆者は1996年に文庫化されたときに読み、あまりの面白さに大興奮した記憶がまだ鮮明に残っているため、なんだかつい最近読んだようなつもりでいたので、「復刊」というとやや違和感があるのですが、しかし、なんともう24年も前のことなんですね……
それはともかくとして、内容を紹介するとこれは著者の自伝的小説です。
「追いつめる」や「黄土の奔流」で、国産冒険小説・ハードボイルドの草分けとして知られる生島治郎ですが、作家になる前は早川書房の編集者でした。
昭和31年、生島が入社した当時、早川書房へ編集者・翻訳家・作家として出入りしていた人々。
田村隆一、都筑道夫、福島正実、江戸川乱歩、結城昌治、小林信彦、開高健、佐野洋、鮎川哲也、そして小泉喜美子。
もう、どんだけ豪華なメンバーなんだと思わずにいられませんが、生島治郎自身を投影した主人公・越路玄一郎以外は全員、実名で登場します。
あとがきによれば、完全に事実のみを描いたわけではなく、ノンフィクションではなく小説だ、ということですが、編集者として曲者揃いを相手に、興味津々のエピソードが並びます。昭和ミステリ好きであればかなり楽しめることは間違いありません。戦後ミステリを支えた大御所たちの若かりし疾風怒濤の日々が、ド迫力で熱く語られています。
作家デビュー後の越路玄一郎を描いた続編「星になれるか」という作品も出ており、そちらも合わせて復刊されるようです。
ほぼ同時期の早川書房を描いた「戦後翻訳風雲録」宮田昇著(この方も早川書房出身)という本もあり、エピソードを読み比べるのも一興です。
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