昭和名作推理小説015

令和の御代になっても未だにミステリの好みは昭和で止まっているわけですが、平成という時代を振り返ってみると、「昭和ミステリの復刊」ということが盛んに行われていた時代だったようにも思います。
今回から何回か、「平成ミステリを振り返る」どころか、「平成に復刊された昭和ミステリを振り返る」という、非常に後ろ向きな話題を続けてみたいと思います。

まずその前に、そもそも「復刊ミステリ」とは?
現在へ至るミステリブーム(笠井潔いうところの第三の波)の始まりは、雑誌「幻影城」の創刊にあるというのが定説ですが、その前から桃源社「大ロマンの復活」、角川文庫や講談社文庫による、戦前から戦後にかけての探偵作家の全集的な作品刊行と、過去の作品を復刊する動きは連綿と続いており、雑誌「幻影城」も創刊当初は新作などはほとんど載っておらず、戦前探偵小説の復刻ばかりでした。
要するに、ミステリの歴史は新作刊行と並行して、過去の名作復刊の歴史でもあると言えます。
これは、昔からコアなミステリ読者は強固なコミュニティを形成し、その中で「過去の名作を読む」ということがステイタスとなっているためでしょう。

というわけで、平成に入ってからミステリの復刊に何か際立って特徴的なことがあるかといえば何も無いようにも思われますが、筆者自身が本格的にミステリを読み始めた時期が平成元年から、ということもあり、個人的な備忘録も兼ねて平成の復刊史を振り返ってみようと思います。

第一回は平成元年に刊行された小説新潮臨時増刊「昭和名作推理小説」。
実は、この特集については、以前にも当ブログで紹介したことがあります。こちら
雑誌の特集なので、厳密には「復刊」に当たらないかもしれませんが、筆者にとっては非常に印象深く、思い入れの強い一冊なので改めて紹介しておきたいと思います。

収録作品は以下の通り。

渡辺温
夜の街 城昌幸
死後の恋 夢野久作
押絵と旅する男 江戸川乱歩
殺された天一坊 浜尾四郎
絶景万国博覧会 小栗虫太郎
悪魔の指 渡辺啓助
かいやぐら物語 横溝正史
五人の子供 角田喜久雄
骨仏 久生十蘭
天狗 大坪砂男
原子病患者 高木彬光
張込み 松本清張
落ちる 多岐川恭
作並 島田一男
白い密室 鮎川哲也
吉備津の釜 日影丈吉
案山子 水上勉
十五年は長すぎる 笹沢佐保
葬式紳士 結城昌治
死火山の灰 黒岩重吾
敵討ち 山田風太郎
犯罪講師 天藤真
ナポレオンの遺髪 三好徹
雪どけ 戸川昌子
やさしい密告者 生島治郎
神獣の爪 陳舜臣
山のふところに 仁木悦子
科学的管理法殺人事件 森村誠一
盲目物語 土屋隆夫
人形の家 都筑道夫
特急夕月 夏樹静子
雲雀はなぜ殺された 日下圭介
復讐は彼女に 小泉喜美子
紳士の園 泡坂妻夫
菊の塵 連城三紀彦
無邪気な女 阿刀田高
遠い国から来た男 逢坂剛
糸ノコとジグザグ 島田荘司

ほんと、何度見ても惚れ惚れするラインナップです。
特に多岐川恭「落ちる」、結城昌治「葬式紳士」それに泡坂妻夫「紳士の園」。
特にこの3作の衝撃は非常に強く、ミステリにほとんど免疫がなかった中学2年生の筆者は頭をくらくらさせていたものです。

特集に対して反響があったのかどうか知りませんが、この2年後、同じ趣旨のアンソロジーが新潮文庫から刊行されました。
それもこちらの記事で書いていますが、「昭和ミステリー大全集」上・中・下の全三冊です。

当時、ミステリの入門者的立場にいた筆者がいうことなので間違いありませんが、この「小説名作推理小説」「昭和ミステリー大全集」の企画は、昭和ミステリの入門に実際、これ以上ない最高のラインナップでしたね。このあと、結城昌治、都筑道夫、土屋隆夫、天藤真、泡坂妻夫、阿刀田高といった人たちの作品を熱心に古本屋で探して読み漁りましたが、すべての原点はここにありました。

というわけで、平成が終わって1ヶ月が経ちましたが、今回も平成のベスト的な短編集が編まれるとしたらどんな作家になるんでしょう?






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