
光文社文庫では「昭和ミステリールネッサンス」と銘打ち、山前譲氏の編纂で昭和ミステリの短編集を刊行していますが、平成最後となる今月の新刊は新章文子「名も知らぬ夫」。
新章文子。
仁木悦子、多岐川恭に続いて「危険な関係」で乱歩賞を受賞した人ですが、筆者の知識はそれだけ。
中学生の頃、乱歩賞受賞作を全部読む、ということをやっていたため、「危険な関係」も読んではいますが、内容は全然覚えておらず。ほかにどんな作品を書いているのかなあ、という関心すら持っておらず、さらに言えば古本屋で他の著書を見かけたことすらありませんでした。
という、乱歩賞作家の中にあっては極めつけにノーチェックだった作家さんなので、今回の新刊を見たときは「そうか、そういえばこの人も昭和ミステリってことになるんだ」と、ちょっと新鮮な驚きを感じました。
さて、曲がりなりにも国内ミステリ好きを標榜している筆者にしてもこの有様なので、世間一般での知名度は非常に低いと思われ、一冊のまとめるというのはなかなかの冒険です。いま買っておかなければ、もう二度と「新章文子の新刊」なんてものにお目にかかれるとは思えないし、逆に今回売れたら、今後も続くかもしれない。いずれにしても買うしかありません。
という感じで買ってきたわけですが、これは非常にすばらしい内容でした。
これぞ、という傑作を揃えてきているのでしょうけれど、どれもこれも非常にレベルが高い。
さまざまな作風のものが集められていますが、根底にあるのは人間に対する皮肉な視線。
人工的でユーモラスな作品もあれば、幻想的な風味の作品もある。
「悪い峠」「奥様は今日も」など、ユーモアタッチの作品はシニカルでブラックな笑いです。
かと思えば、冒頭の「併殺」はとてもよくできた倒叙ミステリ。「少女と血」は幻想的なタッチ。
どれも堪能しました。
全体的に、ほぼ同時期にデビューした結城昌治と同じような味わいだと感じました。
結城昌治ファンならば、間違いなく楽しめることでしょう。
ほかにも傑作があるのかどうかわかりませんが、読めるものならいろいろ読んでみたい。そう思わされました。
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