201812笠原和夫298

国書刊行会「笠原和夫傑作選」が完結しました。
任侠映画、実録映画と続いてきましたが、最終巻は昭和史がテーマ。笠原和夫最大のテーマです。
娯楽映画としては、任侠映画・実録映画のほうが面白いのは間違いありませんが、本巻に収録された作品は『昭和の劇』はもちろん、昭和史関連の本と突き合わせをしながら読み込むことになる、奥深い内容のものが並びます。
これまでの巻以上に、伊藤彰彦氏による解説も充実。各所に隠された笠原和夫の思惑をさまざまな参考文献・資料にあたりながらしっかりと説明してくれてとても読み応えがありました。

附録冊子の内容は以下の通り。
ギラギラしたもの――『日本暗殺秘録』作家の言葉
海軍落第生
不関旗一旒――『大日本帝国』創作ノート
二・二六事件にいたるまでの道すじ
戦友ともよ――追悼・五社英雄
「ギラギラしたもの」「海軍落第生」「不関旗一旒」は、それぞれ雑誌「シナリオ」の該当作収録号に掲載されたもの。(「海軍落第生」は「あゝ決戦航空隊」について)
「二・二六事件にいたるまでの道すじ」は映画公開時に双流社から刊行された『226 昭和が最も熱く震えた日』へ寄せられたもの。

201812笠原和夫299

この本は、シナリオと並行して、実際にあった二・二六事件について写真をまじえて徹底的な解説をしており、映画のみならず二・二六事件について知るためにとても便利な本となっています。
巻末には、今回の伊藤彰彦氏の解説でもたびたび引用されている「シナリオ制作日記抄」が収録されています。『昭和の劇』を読んだ後だと「日記」と言いつつも、あと付けのエッセイでは??という印象を持ってしまうくらい、割と穏やかな表現でシナリオの制作過程が綴られています。
今回収録されたのは幻の「第一稿」ということで、最終稿との比較はこれからじっくりと読んでいこうと思っていますが、パラパラと眺めて少し意外に感じた点が一つ。
この映画では、青年将校たちとその妻とのやり取りがメロドラマ風に描き込まれています。この辺は改稿の際に制作陣がねじ込んだものなのかな、と思っていましたが、第一稿でもそのあたりはちょこちょこと描かれているんですね。最終的にはその部分を拡大したという感じです。
それぞれの家庭が描かれているのは澤地久枝のノンフィクション『妻たちの二・二六事件』からの影響かな、と思っていますがどうなんでしょう。読んでいないということはないと思いますが、まあ青年将校たちの人間ドラマを描こうとすると、どうしても家庭を登場させざるを得ないということはあるかもしれません。



笠原和夫を「読む」



関連コンテンツ