201812ずうのめ人形297

12月7日から公開されている映画「来る」の原作「ぼぎわんが、来る」。
この映画化を機会に、初めて読みました。
日本ホラー小説大賞が始まった頃は受賞作はすべて読んでおり、角川ホラー文庫に収録される作品もめぼしいものはチェックしていたのですが、気がついたらいつの間にかホラーを全然読まなくなってしまっていました。なので、この不思議なタイトルが書店で視界の中に入ってはいたのですが、こんな大傑作とは知らず、完全にスルーしていました。
いつもは映画化というだけで興味をそそられることはあまりないのですが、今回はこのショッキングピンクに改装された表紙が目に刺さってきて、手に取ることになりました。
もともとはもっと上品な雰囲気の装丁の本でした。自分がすでに読んで気に入っている本が、映画化ということでこんな派手な表紙になってしまったとしたら、いつもなら「あーあ」と思うところなのですが、今回はこの表紙のおかげで手に取ることになり、感謝感謝、という気分になりました。現金なものです。

それはともかく、「ぼぎわんが、来る」があまりに面白かったため(特に比嘉琴子、最高!)、ただちにシリーズ第2作の「ずうのめ人形」も買ってきました。
比嘉琴子の活躍がなかった点はちょっとがっかりでしたが、前作以上に凝った構成で非常に楽しめました。
著者の澤村伊智氏は、プロフィールを見ると筆者より4つほどお若いようですが、その年齢であれば映画「リング」の公開とほぼ同時にスタートした怪談・ホラーブームはリアルタイムで体験されているはずですが、「ずうのめ人形」作中に登場する手記はその映画「リング」が公開された1998年頃に舞台を設定しており、懐かしいネタが大量にぶち込まれていました。
若い読者にはピンと来ない点もあるかな、と思いましたので、お節介ながら気づいた点を解説していきたいと思います。

鈴木光司の小説「リング」が刊行されたのは1991年のことでしたが、初刊本は「ずうのめ人形」作中に書かれている通り女性の手がビデオテープを持っているイラストが表紙の、地味な本でした。
ホラー小説なのかどうかすらわからない状態で刊行されたのですが、筆者の場合はその年の「このミス」で絶賛されている記事を読み、興味を持って読みました。そんなことでも無ければ、全く手に取らない雰囲気の本でしたが、これは前年の横溝正史賞で最終選考まで残ったもので、「ミステリではない」という理由で落選していました。このような経緯があったため、一部のミステリファンには注目され、「このミス」にも記事が出たのでした。
1993年に角川ホラー文庫が創刊されると初回のラインナップに「リング」が入り、ここから大ロングセラーへの道が始まりました。
つまり、「ずうのめ人形」の手記が書かれた時期には、すでに文庫化されて続編の「らせん」も含めて人気作品だったわけなので、作中に初刊本が出てきたときは「あれ?」と思いました。しかし、ホラーを読み始めたばかりの中学生が図書館で借りた、という設定なので特に無理があるものではありません。

ちなみに主人公が同時に図書館で借りた本について。
「怪奇クラブ」は創元推理文庫から出ていた怪奇小説短編集。

怪奇クラブ (創元推理文庫)
アーサー マッケン
東京創元社
1970-06


「魔女のかくれ家」はカーの長編でやはり創元推理文庫に収録されていますが、児童向けの翻訳を借りているようなので、おそらくポプラ社文庫版でしょう。(筆者の家の近所の図書館には未だに蔵書があります)
「もっと見たいぞ!ホラー映画祭」は架空の本と思われます。
「怪奇小説傑作集 1」は、創元推理文庫に収録。今は新装版が現役です。

怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版] (創元推理文庫)
アルジャーノン・ブラックウッド
東京創元社
2006-01-31


その後、里穂とゆかりとのやり取りの中で出てくる「消えるヒッチハイカー」はこの本です。



もともとはハードカバーで刊行されましたが、リンク先はソフトカバーで出た新装版です。
「都市伝説」という概念を初めてまとめた著作とされており、「リング」や「新耳袋」などで盛り上がっていた98年頃には再注目されていました。

さて、ずうのめ人形は、呪われた者へちょっとずつ近づいてきますが、この「ちょっとずつ近づく」というのは「メリーさん」からの発想ではないでしょうか。「私メリーさん」と電話がかかってくる、というアレです。これのバリエーションでいろいろなホラーが生まれています。
また、里穂とゆかりが「悪魔のいけにえごっこ」や「死霊のはらわたごっこ」で遊ぶというのは、おそらくは友成純一のハードコアスプラッター「獣儀式」からの発想と思われます。筆者は「悪魔のいけにえごっこ」というのを見て「おや?」と思ったのですが、結局、ラストまで読むとその「おや?」は正しかったことがわかります。
友成純一は80年代にスプラッターを書き散らしており、竹本健治の「ウロボロスの偽書」にも登場しますが、2000年ごろににわかに旧作が注目され、代表作と言われる「獣儀式」が幻冬舎アウトロー文庫から再刊されたりしました。もともとはマドンナメイトという二見書房の官能小説レーベルから刊行されていました。

獣儀式 (幻冬舎アウトロー文庫)
友成 純一
幻冬舎
2000-06


さて、そんなわけで筆者としては作者と同年代(ほぼ)という点でも堪能できましたが、ネタがわかってもわからなくても楽しめる、非常に良く出来た小説です。こっちも映画化されると良いなと思います。



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