201811中島みゆき289

中島みゆきの曲を聴いていると、「ガラス」という単語が妙に引っかかることがよくあります。

一般的に「ガラス」という言葉からはどのようなことがイメージされるでしょう。
・美しい。
・透明。
・冷たい。
・硬い。
・繊細。
・割れる音。
・破片……

さまざまなイメージがあります。
他のアーティストの楽曲に出てくるガラスと言えば、

「ガラスの十代」光GENJI、「硝子の少年」KinKi Kids
いずれも「繊細」なイメージですね。

「季節だけが君を変える」BOOWY
冒頭:ガラスの中の退屈な街
サビ:ガラス細工のフィーリング
やはりいずれも「繊細」なイメージがあります。

さて、中島みゆきの歌詞で目立つのは「破片」のイメージです。

「裸足で走れ」(1979年)
・ 裸足で 裸足で ガラスの荒れ地を 裸足で 突っ走れ
・ここまでおいでと 手を振り手招き 背中へガラスを降り注ぐ
「泥海の中から」(1979年)
おまえが壊した 人の心のガラス戸は おまえの明日を 照らすかけらに変わるだろう
「儀式(セレモニー)」(1986年)
ひきずられてゆく 波の中で光る ガラスたちの折れる 寒い音がする
「匂いガラス」(1986年)
・誰かがなくし 誰かが拾った 甘くて 酸っぱい リンゴのような 匂いガラス
・胸に刺さった ガラスのかけら 匂うほどに 疼くのは
ガラスがみちびく 怪しの日記
「あした」(1989年)
ガラスなら あなたの手の中で壊れたい
「匂いガラス」は、同題ドラマの主題歌として作られたため、ドラマの内容に合わせて歌われており、さまざまな「ガラス」が登場します。しかし、その中でも2つ目の「胸に刺さった ガラスのかけら 匂うほどに 疼くのは」は中島みゆきオリジナルの表現であり、ここではやはり「破片」のイメージです。

壊れやすさの象徴、ロマンティックな小道具として「ガラスでできたもの」が登場することもあります。

「バス通り」(1981年)
ため息みたいな 時計の歌を 聞きながら 私はガラスの指輪をしずかに落とす

「誘惑」(1982年)
ガラスの靴を女は 隠して持っています

そのほかに見られるのは、「透明な檻」のイメージです。

「with」(1990年)
ドアのあかないガラスの城でみんな戦争の仕度を続けてる
「やばい恋」(1992年)
光りながら昇ってゆく ガラスのエレベーターの外で 街灯り遠ざかるあの人に似てるわ
「ガラスのエレベーター」というのは比喩でも何でもなく、単なる情景描写とも取れますが、閉じ込められているイメージもあります。(筆者は「チョコレート工場の秘密」の続編「ガラスのエレベーター宇宙にとびだす」を連想してしまうのですが……)

また、窓ガラスもよく登場します。
研ナオコに提供したタイトルがずばり「窓ガラス」(1978年)という歌もありますが、それを含めて次のような曲があります。いずれも「冷たい」「硬い」という印象を持ちます。

「朝焼け」(1977年)
曇りガラス 外は寒い
「ホームにて」(1977年)
ふるさとは 走り続けた ホームの果て 叩き続けた 窓ガラスの果て
「窓ガラス」(1978年)
それよりも 雨雲が気にかかるふりで あたしは窓のガラスで 涙とめる
「タクシードライバー」(1979年)
車のガラスに額を押しつけて胸まで酔ってるふりをしてみても

さて、ここまで印象が強いものから順に書き出していきましたが、お気づきでしょうか。
中島みゆきのキャリアの中でさまざまに登場する「ガラス」ですが、実は年代ごとにイメージは固まっているのです。

【“窓ガラス”期】
「朝焼け」(1977年)
「ホームにて」(1977年)
「窓ガラス」(1978年)
「タクシードライバー」(1979年)

【“破片”期】(壊れやすい小道具含む)
「裸足で走れ」(1979年)
「泥海の中から」(1979年)
「バス通り」(1981年)※小道具
「誘惑」(1982年)※小道具
「儀式(セレモニー)」(1986年)
「匂いガラス」(1986年)
「あした」(1989年)
 
【“透明な檻”期】
「with」(1990年)
「やばい恋」(1992年)

さて、甚だ恣意的なまとめ方であるうえ、「それがどうした」と言わざるを得ないことではあるのですが、先日の記事「『中島みゆき全歌集1975-1986』(朝日文庫)収録作一覧」「『中島みゆき全歌集1987-2003』(朝日文庫)収録作一覧」を書きながら、ふと気づいたため、記事にしてみました。

なお、本記事を書くにあたっては「中島みゆき研究所」のサイト内検索を使わせていただきました。


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