「古事記」の現代語訳はいくつか出ています。
文学作品であると同時に、神々の来歴から国づくり、天皇の成り立ちを伝える記録でもあるため、原文では、何という神様が何という神様を生んで……という記述が続く部分もあり、これが現代語に訳されていたところで、全てをきちんと読むのはなかなか骨が折れます。
筆者は何年か前に、河出文庫から出ている『現代語訳 古事記』(福永武彦訳)を読みましたが、面白うそうなところ(というか、よく知っている神話部分)を拾い読みしていっただけで、退屈な部分は飛ばしながら読んでいきました。
ところが、わざわざこんな苦労をせずとも、面白い部分、大切な部分だけを丁寧により分けて、読みやすく仕立て直した本があります。
やはり福永武彦が著した『古事記物語』(岩波少年文庫)です。
これは、小学生の頃に読んでいたのですが、結局、大人になってから現代語訳を読んでみて思ったのは「古事記を読むなら、『古事記物語』で十分!」ということでした。
原文を全訳したものではないのですが、「古事記」の記述のうち重要な部分は、ほぼ原文に忠実な形で描かれています。日本人として知っておくべき教養、つまり神話や地名の由来などはこの本を読めば全て押さえられていますし、退屈な部分がカットされて物語として読んで面白いものに仕上がっています。
数年前、ちょっとした古事記ブームがあり、それ以降、現代語訳がいろいろ刊行されました。
出版元を見ていると、スピリチュアルブームや、あるいは自称「保守」が増えていることと関係があるような印象があり、正直なところあまり乗れない雰囲気のブームと感じました。
何よりも、古事記についてちゃんと知りたければ『古事記物語』が最強のテキスト、と思っていたのに、特にこの本には注目が集まらない。その点で筆者としては「エセブーム」と認定せざるを得ませんでした。
ともかく、現代語訳を読んだ人も読んでいない人も、子どもも大人も、神道や国文学を研究する専門の学者というわけでなければ、古事記については『古事記物語』1冊でOKです。一度お試しあれ。
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