笠原和夫シナリオ集刊行で大興奮してしまい、ミステリ史の記事をしばらく中断していましたが、再開します。

今回は平成9年についてです。
前回書いたとおり、「ミステリ」というジャンルは「エンターテインメント全般(ただしSFは除く)」という意味になってしまい、この年の「このミス」ランキングを見ると、見事に「本格」が見当たりません。
  1. OUT(桐野夏生)
  2. 黒い家(貴志祐介)
  3. 死の泉(皆川博子)
  4. 絡新婦の理(京極夏彦)
  5. 鎮魂歌 不夜城II(馳星周)
  6. 神々の山嶺(夢枕獏)
  7. 嗤う伊右衛門(京極夏彦)
  8. 逃亡(帚木蓬生)
  9. 三月は深き紅の淵を(恩田陸)
  10. 氷舞 新宿鮫VI(大沢在昌)
11位にようやく加納朋子「ガラスの麒麟」が入っているのが、本格勢の最高位でした。
「ミステリブーム」と言われながら、このような状況になっていることに対して「俺の読みたいミステリが売れていない!」と危機感を持った人が増えてきたようです。
この年から探偵小説研究会が「本格ミステリベスト10」の選定を始めるようになり、翌年には東京創元社から年刊のブックレットが出始めます。
とうとう、「このミス」から「本格」のみが分派した形です。
この年の1位は麻耶雄嵩「鴉」。2位が加納朋子「ガラスの麒麟」。
本格ファンには非常に納得の順位でした。
「本格ミステリベスト10」はその後、出版元を原書房へ変更して現在も刊行が続いています。
ちなみに、筆者がこの年、最も堪能したのは井上夢人の連作短編集「風が吹いたら桶屋がもうかる」でした。
井上夢人には珍しい「本格ミステリ」で、にもかかわらずいつもどおり井上夢人らしさが溢れている傑作です。実は未だに個人的なミステリのオールタイムベストの上位に位置しているのですが、刊行当時あまり話題にならず、井上夢人の代表作はほとんどが今も入手可能なのに、これはさっさと品切れになってしまっています。もう20年以上経っているけど、改めて講談社文庫あたりで拾ってもらえないものでしょうか。




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