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島田荘司の最高傑作の一つに数えられる「北の夕鶴2/3の殺人」。
リアルな世界を扱っているはずだった吉敷竹史シリーズで奇想天外な大トリックを仕掛け、さらには別れた妻とのハードボイルドな人間ドラマで泣かせるという、まあともかくどこから切り取っても超絶好調の一編で、細かく語り始めるとキリがありません。

ところで、今回は物語に深く分け入るわけではなく、この大トリックの舞台となったマンションの話です。
その名も「三ツ矢マンション」。
作中ではこのように紹介されています。
マンションは、東京で見かけるような四角く味気ないコンクリートの箱ではなく、言わば五階建ての塔とでも呼んだ方がよいような造りで、上から見ると、五月のこいのぼりの先につけた三枚羽根の風車のような形をしている。これは、マンションの所有者三矢氏が自分の名前をもじってこういう形にしたものらしい。
そして島田ミステリのお約束である、見取り図も載っています。(光文社文庫版より)

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さて、筆者は中学2年生のときにこの小説を読んだのですが、このような形の建物は見たことがなく、作中での説明を鵜呑みにして、これは「斜め屋敷」と同じく、トリック成立のための作者が考え出した特殊な建築物だと思いこんでいました。

それから約20年後。30を過ぎてからとある地方都市へ引っ越しました。その近所にこの形の団地を見かけたときは、本当に仰天しましたね。なんと実在したんだ!
この団地は昭和30年代後半から開発されたニュータウンで、なかでも最も古い建物がこの形でした。3棟並んでいましたが、筆者が見かけた時点ですでにボロボロの廃墟のようになっており、近くまでいってみたものの、人は住んでいませんでした。(今はすでに取り壊されてなくなっています)
その時点では、こんな建物が本当にあったとはねえ……と、単なる偶然の一致程度に考えていたのですが、その後、原武史「レッドアローとスターハウス」(新潮社)を読んで、実はこれは「スターハウス」というマンションのタイプで、全国的に展開されていたものだと知りました。



本書は東京のひばりが丘を中心にした文化・思想史を綴ったものですが、西武池袋線沿線で10年ほど暮らしたこともある筆者には、非常に興味深いものでした。
この中で、スターハウスについても詳しく語られています。
ひばりが丘では1棟だけ、モニュメント的にスターハウスが保存されているということです。(冒頭のGoogleストリートビュー)

また、ひばりが丘だけでなく、全国各地に今もまだ人が住んでいたり、あるいは単に取り壊されずに残っているだけ、といういった形で現存しているようです。



こちらは関西の仁川団地。スターハウスが何棟か立ち並んでおり、まさに三ツ矢マンションの様相です。

島田荘司ファンはぜひ一度、ご覧になることをおすすめします。

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