
先日の記事に書いたとおり、新刊「火のないところに煙は」で芦沢央作品を初めて読んだのですが、この機会に文庫化されている旧作も読んでみました。
いずれもハズレ無し、期待を裏切らない作品揃いでしたが、なかでも最も感心したのが「今だけのあの子」でした。デビューから3作目、初めての短編集ということになります。
収録された5篇は、それぞれ緩やかにつながって入るものの、独立したお話です。
裏表紙の解説文や「女の友情」をテーマにしているという触れ込みから、てっきり「イヤミス?」と思いながら読み始めました。
案の定、最初の短編「届かない招待状」は、学生時代の親友の結婚式に、仲良しグループのメンバーはみんな呼ばれているのに、なぜか自分だけ招待状が届かない、というイヤーな雰囲気で始まります。
ところが!
真相が明かされると、親友の行動の全てが鮮やかに反転し、思わぬところに仕掛けられていた伏線が浮きがってきます。
なんと、なんと。これは「イヤミス」ではなくて、東京創元社お得意の「日常の謎」ではないですか。
「日常の謎」は、殺人など犯罪が起こらない、日常的な生活の中で発生した謎を解き明かすミステリのことです。
東京創元社はこの手のものが大好きで、北村薫、加納朋子、若竹七海、倉知淳らが活躍しています。「グリーン車の子供」で日本推理作家協会賞を受賞した戸板康二が先駆けとされています。
「イヤミス」とは対極に、ほのぼのとしていたり、読み終わるとほっこりした気分になるものが多いのですが、「今だけのあの子」はイヤミスっぽい始まり方だったため、まさか解決すると感動するタイプの話とは思っていませんでした。先に言ってよ!って感じですね。
それにしても、「日常の謎」の系譜の中においても、本書はかなりの傑作だと思いますね。
ミステリとしての切れ味は抜群、エピソードは感動的、小説技術は徐々に進化しているものだと言いますが、20年くらい前「日常の謎」が流行っていた頃に量産されていた作品に比べる、かなり上手いと思います。
これくらいのレベルの作品が年間ランキングなどに登場しなかったのは不思議に感じるくらいです。(といっても、筆者も全くノーチェックでしたが……)
「火のないところに煙は」はかなり売れているようですが、筆者と同様、旧作に手を伸ばしている読者も多いようです。近々の大ブレイクを予感させる作家です。
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