
「番外編」としたのは、これは劇場公開作ではなく、テレビ映画だからです。とはいえ、ミステリ映画としてこれほどよくできたものはめったにお目にかかれません。
「息もつかせぬサスペンスと、驚愕のどんでん返し」という言い方をすると、ミステリ映画の宣伝文句としてはよくあるものに聞こえます。
そして、実際に見てみると「言うほどでもないな」という作品がほとんどですが、しかし、この作品だけは違います。
「サスペンスとどんでん返し」を、この「消えた花嫁」(原題:Vanishing Act)ほど高度の達成している映画というのは、ほかに見たことがないと言い切ってよいほどです。
筆者がこれを見たのは、中学生の頃、NHKで「サスペンス・ドラマ」として単発で放映されたときでした。
NHKのサイトで過去の番組表を検索すると1990年12月30日に放映されたようで、筆者自身は正確に覚えていませんが、たぶんこのときでしょう。
http://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/timemachine/index.html?date=1990-12-30
といっても、放映時にリアルタイムで視聴したわけではなく、たまたま母親がビデオに録画していたのでした。母は2時間ドラマが好きだったので、その延長で録画していたもののようですが、「これはミステリ好きの息子にも見せるべき」と思ったらしく、筆者が居間でボーッとしていると、おもむろにビデオの再生を始めました。
はじめのうちは見るともなしに眺めていたのですが、あまりに劇的な展開に、途中から釘付け。それどころか、興奮しすぎて、のたうち回りながら見ていました。母は結末を知っているため、大騒ぎしている息子をニヤニヤしながら眺めていたことをよく覚えています。
新婚の妻が旅行先で行方不明になる。夫が警察へ届け出ると、翌日には警官に伴われて妻が帰ってくる。ところが、その女性は、見たこともない他人だった。夫はなにかの間違いだと訴えるが、警察は女性の言い分ばかり聞いて、夫の話に耳を貸そうとしない……
という悪夢のような展開で、夫婦を襲った、姿の見えない大掛かりな陰謀が強烈なサスペンスとなっています。
その後も「あの映画、もう一回観たいな」と何度か思い出していたのですが、しかしビデオを保管していたわけでもなく、登場人物もスタッフも、それどころかタイトルすら覚えていない状態で、筆者の中では幻の映画となっていました。
しかし、21世紀に入り、インターネット全盛の時代を迎えてから、ようやく発見しましたよ。
ストーリーだけは詳細に、鮮明に覚えていたため、それを手がかりに見知らぬ人に聞きまわって、ようやく「消えた花嫁」だとわかったわけです。
さっそく、これまたインターネットでVHSを入手。筆者の中学・高校時代には考えられなかったスムーズな展開です。
製作したのは「刑事コロンボ」と同じくリチャード・レヴィンソンとウィリアム・リンクのコンビ。なるほど、よくできているのは当然でした。わかってみれば、その筋ではかなり有名な作品でした。
元になっているのは、ロベール・トマというフランスの作家が書いた舞台劇「罠」。
この舞台劇は日本でわりと頻繁に上演されているようですが、筆者は見たことはありません。
また、戯曲は白水社から大昔出ていた「今日のフランス演劇 第3」という本に収録されていたようですが、これも入手できていません。
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000947659-00
同じ「罠」を原作したドラマがもう一本あり、こちらは「他人の向う側」(原題:One of my wives is missing)という邦題になっています。
こちらはVHSを入手しています。


ストーリーは全く同じですが、テンポの良さや俳優の演技などは、やはり「消えた花嫁」の方が上だな、と感じます。まあ、最初に見た印象が強いということはあると思いますが。
さらに言えば、筆者が入手した「消えた花嫁」のVHSは字幕版なのですが、できればNHKで放映した吹替版でもう一度見てみたいです。ラストの丁々発止の掛け合いを心底堪能できるのは、やっぱり吹替版だよな、と思います。これまた、最初に見た印象が強すぎるのでしょうけど。
いずれにせよ、この映画は本国アメリカでもVHSしか出ていないようなのですが、このまま埋もれさせるのはあまりにもったいない傑作です。
ぜひDVD化して、その際にはNHK吹替音声を収録してほしい。筆者の寿命が尽きるまでにはあと40年くらいあるはずだから、それまでのあいだにはなんとか実現を……ということを考えながら、ここ20年くらいを過ごしているわけです。
(「罠」を原作にしたテレビ映画はもう一本、「妄執の館」というすごい邦題のものもあるようですが、これはソフト化されていないようで、未見です)
(リンク先は輸入版VHS)
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